RAS遺伝子野生型大腸がんに対する一次治療、mFOLFOX6+パニツムマブ併用療法で全生存期間を統計学的有意に延長ー国立がん研究センターらー


  • [公開日]2023.04.24
  • [最終更新日]2023.04.24

4月19日、国立がん研究センターは、RAS遺伝子野生型で化学療法未治療の切除不能な進行/再発大腸がんに対するmFOLFOX6+抗VEGF抗体薬ベバシズマブ併用療法とmFOLFOX6+抗EGFR抗体薬パニツムマブ併用療法の有効性安全性を比較検証した第3相PARADIGM試験(NCT02394795)の結果を発表した。

この研究は、同センター東病院の吉野孝之副院長、横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター外科の渡邉純准教授ら研究グループによるもの。その結果は、2022年米国腫瘍学会(ASCO)で報告され、海外雑誌「Journal of the American Medical Association(JAMA)」にも2023年4月19日付で掲載された。

PARADIGM試験は、RAS遺伝子野生型で化学療法の前治療歴のない切除不能進行/再発大腸がん患者(N=823人)を対象に、mFOLFOX6+パニツムマブ併用療法を実施する群(有効性解析は400人)と、mFOLFOX6+ベバシズマブ併用療法を実施する群(有効性解析は402人)に振り分け、主要評価項目として原発巣が左側の患者における全生存期間を評価した第3相ランダム化比較試験である。

同研究が行われた背景として、切除不能な進行/再発大腸がん患者を対象に抗EGFR抗体薬と抗VEGF抗体薬の比較は、これまでに2つの試験が実施されたが、RAS野生型の大腸がんにおける結果は一致せず、使用すべき薬剤の結論付けらなれていなかった。一方で、複数の臨床試験の後解析において、RAS野生型で原発巣が左側の大腸がん(下行結腸、S状結腸、直腸S状部、直腸)には、抗EGFR抗体薬が有効である可能性が報告された。以上の背景より、RAS野生型で原発巣が左側の大腸がんに対するファーストライン治療として抗EGFR抗体薬と抗VEGF抗体薬のどちらが有効かを検証するため、世界初の前向き試験として同研究が実施された。

試験の結果、フォローアップ期間中央値5.1年において、主要評価項目である原発巣が左側の患者群における全生存期間(OS)は、mFOLFOX6+パニツムマブ併用群の37.9ヶ月に対して、mFOLFOX6+ベバシズマブ併用群で34.3ヶ月を示し、mFOLFOX6+パニツムマブ併用群で統計学的有意な延長が示された(HR:0.82、95.798%信頼区間:0.68-0.99、P=0.03)。

また、生存割合について、mFOLFOX6+パニツムマブ併用群の3年生存割合は53%、4年生存割合は42%、5年生存割合は32%であったのに対し、mFOLFOX6+ベバシズマブ併用群の3年生存割合は47%、4年生存割合は33%、5年生存割合は21%であり、約28ヶ月時点以降からmFOLFOX6+パニツムマブ併用群が上回る結果となった。


(画像はリリースより)

副次評価項目である全患者における全生存期間(OS)は、mFOLFOX6+パニツムマブ併用群の36.2ヶ月に対して、mFOLFOX6+ベバシズマブ併用群で31.3ヶ月を示し、mFOLFOX6+パニツムマブ併用群で統計学的有意な延長を認めた。


(画像はリリースより)

一方の安全性として、いずれの治療群においても新たな懸念事項は認められなかった。

以上の結果より、RAS野生型で原発巣が左側の大腸がん患者に対するファーストライン治療として抗EGFR抗体薬が推奨される可能性が示された。プレスリリースでは、「我が国から発信する世界初の明確なエビデンスは、国内外の大腸がん治療ガイドラインに記載され、今後RAS遺伝子野生型の大腸がん患者さんに適切な一次治療を提供できるようになることが期待されます」と述べられている。

なお、今回の研究と併せて、治療反応予測因子や耐性メカニズムの解明を目的とした「PARADIGMバイオマーカー試験(NCT02394834)」も進行中であり、PARADIGM試験から得られた約800名の日本人大腸がん患者の臨床データとバイオマーカーの解析によって、大腸がんのさらなる治療成績の向上と薬剤開発の可能性も期待されている。

RAS野生型とは
RASは細胞の増殖などに関与するタンパク質のひとつであり、「KRAS」「NRAS」「HRAS」の3種類がある。それらのRAS変異を持たないこと。

抗EGFR抗体薬とは
分子標的薬のひとつであり、がんの増殖に関与する上皮成長因子受容体(EGFR)に結合し、EGFRの働きを抑制することで、がん細胞の増殖を抑制する。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース

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