4月18日、国立病院機構東京医療センターは、乳がんと卵巣がんにおける日本人に特有のBRCA2遺伝子バリアントを発見し、そのバリアントが病原性をもつことを証明したと発表した。
同研究は、同センター遺伝診療科の山澤一樹医長、乳腺外科の松井哲科長らの研究グループが他8施設と共同で行ったもの。詳細な結果は、国際科学誌「Cancer Science」に4月18日付で掲載されている
日本国内の女性における乳がんの発症率は11%、卵巣がんの発症率は1%といわれている。一般的に遺伝性乳がん卵巣がんは、親から子へがんが遺伝する確率は約50%と報告されており、その原因遺伝子としてBRCA1/2遺伝子が同定されている。これらの遺伝子のいずれかに生まれつきの病的な変化(バリアント)を持つ人は、乳がんや卵巣がん、膵臓がん、前立腺がんなどを若くして発症する可能性が高く、定期的なサーベイランス、予防的なリスク低減手術や、PARP阻害薬など分子標的治療薬の投与などの積極的な医学的管理が行われる。
現在、BRCA1/2遺伝子に対する遺伝子検査は保険適応となっており、一般診療でも実施されているが、病的意義が分からないバリアント(Variant of Uncertain Significance:VUS)が同定されることがある。VUSが想定された患者は、がん発症のリスクが判断できないために、積極的な管理が行われない。このことはバリアントを持つ患者において時に治療上の不利益をもたらす可能性があるという。
今回の研究では、研究参加施設の受診患者、⽇本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構(JOHBOC)が管理するデータベースや過去の論文報告などを調査。同定されたバリアントに対してシミュレーション解析やMANO-B法およびABCDテストと呼ばれる機能評価を行う解析手法を用いて病原性を判定した。
その結果、BRCA2遺伝⼦のバリアントc.7847C>T(p.Ser2616Phe)を有する乳がんもしくは卵巣がんの⽇本⼈患者7家系10人を発⾒。同定されたバリアントはVUSと解釈され、積極的な医学的管理は行われていないものであった。また、同バリアントは、海外の一般集団データベースには登録されておらず、日本人家系のみで存在する日本人特有のものであると考えられた。
さらに、各種シミュレーションを用いて機能予測を行った結果、同バリアントが病原性を有する可能性は高率であることが推定された。そこで、MANO-B法およびABCDテストによって細胞実験による機能解析を行い、同バリアントが病原性を有すると分子遺伝学的に証明。これらの結果から総合的に判断し、BRCA2遺伝⼦のバリアントc.7847C>T(p.Ser2616Phe)は、日本人に特異的に認められ、乳がんや卵巣がんなどの発症の原因となる病原性を持つと結論付けられた。
(画像はリリースより)今後の展望について、リリースでは、「本バリアントの病原性が明らかとなったため、バリアント保有者に対して、乳癌・卵巣癌に対するサーベイランスやリスク低減手術が推奨され、またPARP阻害薬の使用が考慮されます」と述べられている。さらに、今回同定されたバリアントの病原性を広く周知することで、ゲノム検査の結果に基づく個別化医療の実践につながることが期待されるという。
バリアントとは バリアントは、遺伝子の多様性を意味する言葉。ヒトのDNAの配列が異なることで、ヒトの特徴や体質の多様性が生み出されている。その中で疾患の発症に関わるものを病的バリアントと呼ぶ。
参照元:国立病院機構東京医療センター プレスリリース