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高齢がん患者の身体機能の低下を防ぐには?

[公開日] 2021.03.11[最終更新日] 2021.03.11

目次

第18回日本臨床腫瘍学会学術集会JSMO2021のシンポジウム2「高齢者のがん治療を安全・効果的に遂行するための取り組み」が、2月18日、オンライン開催された。このシンポジウムでは、がん治療医、認知機能の低下した高齢者の意思決定などをサポートする精神腫瘍医、薬剤師、理学療法士、多職種連携を進める看護師が、それぞれの立場から「高齢者のがん治療を安全・効果的に遂行するための取り組み」を発表した。今回は、高齢者の身体機能の低下を防ぐための運動療法を中心にレポートする。

筋肉量の減少は、がん治療にも悪影響


(上野順也氏)
 高齢者のがん治療では、身体機能の低下や低栄養の影響も大きい。「リハビリテーションの必要性―高齢がん患者のリハビリテーションを再考する」をテーマに発表した、国立がん研究センター東病院リハビリテーション室長の上野順也氏は、小細胞肺がんの患者を対象にした研究でサルコペニア(筋肉減少症)の人は、そうではない人よりも生存率が低いとの報告があることを紹介した。また、抗PD-1抗体オプジーボとキイトルーダについても、サルコペニアではない人、あるいは、PSが良好な人の方が効果は高いとの研究結果があるという。
(上野氏発表資料より)

筋肉量を保つだけではなく筋力の低下を防ぐことが重要

 一般的には、全身の筋肉量の減少は40代から始まっており、がんの患者さんの多くは病気の診断を受けた時点でサルコペニア(Sarcopenia)になっていることも少なくない。さらに、上野氏は、「最近では、見た目は細くなっていなくても、筋肉の質や筋力が低下している状態であるダイナペニア(Dynapenia)も、サルコペニアと同じくらい死亡率が高いことが分かってきています」と指摘した。
(上野氏発表資料より)
 50歳以上の約4500人の筋肉量と筋力と死亡率の関係を分析した結果(下グラフ)では、筋肉量も筋力も正常の人に比べ、サルコペニアの人たちは2.66倍、ダイナペニアだと2.03倍死亡率が高かったというのだ。
(上野氏発表資料より)

マイペース歩行でも継続すれば筋肉量は増える

 では、がんの患者さんが、サルコペニアを改善し身体機能を上げるためには、どのような運動をしたらよいのだろうか。上野氏によれば、これまでの研究からは、中強度から高強度の有酸素運動など持久性の運動を20~60分を週3~5回を3カ月、あるいは、中強度から高強度の筋トレと持久性を高める有酸素運動、バランストレーニング、ストレッチなどを1日当たり45~60分、週2~3回、1~18カ月続けると効果が上がることが分かっている。  「ただし、中強度から高強度の運動を週2~3回続けるのが難しい患者さんも多いと思います。がん患者さんではない高齢者を対象にした研究では、負荷の少ない足の屈伸運動をできるだけ速く1セット14回を3セット、12週間続けただけでも最大歩行速度などが改善します。また、負荷の低い有酸素運動で筋力が増加するとの研究結果もあるので、マイペース歩行でもよいので、まずは始めていただくことが大事」  そう話す上野氏は、身体活動量や症状の有無に合わせて運動の強度を変えてもよいとアドバイスした。
(上野氏発表資料より)

栄養療法と運動療法で筋力アップを

 国立がん研究センター東病院骨軟部腫瘍・リハビリテーション科は、ホームページ上で「がん患者さんのためのホームエクササイズ動画集」(https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/orthopedic_surgery/040/index.html)を公開している。こういった動画を参考にすれば自宅で筋トレも続けられる。ただ、骨転移がある人や骨粗しょう症、多発性骨髄腫の人は、どの程度運動してもよいか担当医に相談することが大切だ。  上野氏は、「運動療法に栄養療法を加えたほうが、筋肉量、筋力は改善します。継続可能な筋トレ、有酸素運動に加え、栄養摂取の改善も含めた包括的な介入が高齢者のがん治療を支える一助になるのではないでしょうか」と話した。  高齢者でも、身体機能や臓器機能が保たれていれば、標準的ながん治療が受けられる可能性は高い。そのためにも、医師に「運動してはいけない」と言われている人以外は、できるだけ日常生活に運動を取り入れ、たんぱく質など筋肉の元になる栄養素をしっかりとることが大切だ。 (取材・文/医療ライター・福島安紀) JSMO2021レポート(上)はこちら⇓ [blogcard url="https://oncolo.jp/news/210311f01"] 関連リンク第18回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2021)プログラム
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医療ライター 福島 安紀

ふくしま・あき:社会福祉士。立教大学法学部卒。医療系出版社、サンデー毎日専属記者を経てフリーランスに。医療・介護問題を中心に取材・執筆活動を行う。著書に「がん、脳卒中、心臓病 三大病死亡 衝撃の地域格差」(中央公論新社、共著)、「病院がまるごとやさしくわかる本」(秀和システム)、「病気でムダなお金を使わない本」(WAVE出版)など。

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