国立がん研究センターは、院内がん登録情報を用いて、2014-2015年診断例(2カ年)の5年生存率、2010年診断例の10年生存率集計結果を報告書にまとめ、3月13日に記者会見を開催した。
今回の解析対象は、「院内がん登録」実施施設から得られた登録情報である。院内がん登録は、国・医療機関により実施されており、カバー率は新規症例の70%程度であるものの2007年から開始された歴史を有する。国・都道府県が主体となって実施されている「全国がん登録」と比較すると、カバー率は低いものの、より詳細な治療状況を含む情報が収集されており、医療の実態把握・質の向上が目的とされている。
同センターでは、これまで生存率として実測生存率と相対生存率を集計・公表していたが、今回から相対生存率ではなく「ネット・サバイバル」による集計を開始した。
まず、院内がん登録2014-2015年診断例(447施設942,717例(前回437施設875,381例)の院内がん登録データ)の5年生存率をネット・サバイバルで算出した結果、全がん種では66.2%、性別でみると男性は62.8%、女性は70.8%であった。一方、これまでの算出方法である実測生存率は、全がん種で60.3%であった。
がん以外の理由で死亡する確率が比較的高い高齢者の多いがん種では、従来の相対生存率とネット・サバイバルの差が大きい傾向にあった。これは、相対生存率は、がん以外の死亡リスク因子の影響を受けやすく、生存率を過大評価するためとのこと。逆に死因の大半ががんである場合(進行がんや予後不良のがんなど)では、相対生存率とネット・サバイバルは比較的近い数値となった。
次に、院内がん登録2010年診断例(316施設341,335例(前回281施設293,860例)の院内がん登録データ)の10年生存率集計は、ネット・サバイバルで53.3%、実測⽣存率で46.1%であった。10年という長い期間では、がん以外の死因の影響が大きくなるため、5年生存率のデータと比較して、相対生存率とネット・サバイバルの差が更に大きくなる傾向にあったという。
今回生存率算定に使われたネット・サバイバルについて、同センターがん登録センター院内がん登録分析室の石井太祐氏は、国際的にも広く使われている算定法であると説明。がんのみの死因を反映した生存率を直接推計しているため、従来の相対生存率と比較して年齢などの他の因子の影響を受けにくい、と利点をあげた。
また、ネット・サバイバルに変更したことにより、がんのみが死因となる場合の生存率を直接的に推定可能となり、従来の相対生存率で過大評価されていた部分の是正につながり、さらに集計対象施設、症例数ともに増加していることから、より安定した推定値の算出ができたとしている。
一方、生存率の評価法が変わったとしても、性別・年齢・ステージ、⼿術の有無等の影響は、生存率を解釈する上で引き続き留意が必要であるとコメント。また、生存率の集計対象集団が毎回異なることから、経年⽐較や施設間⽐較は、院内がん登録の目的ではなく全国がん登録で見るべきものであり、それぞれのがん登録の役割についての理解の重要性も指摘した。
参考:
国立がん研究センター プレスリリース
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