2019年、国民皆保険制度下での「がんゲノムプロファイリング検査(がん遺伝子パネル検査)」がスタートしました。今回は、がんゲノムプロファイリング検査とはどんなものなのか、検査の情報がどのように取り扱われているのか、またゲノム医療の最新の動向についてまとめてみたいと思います。
がんゲノムプロファイリング検査の実際
そもそもがんゲノム検査とは?
がんゲノム検査の中には、ある治療薬の効果を予測するために特定の遺伝子変異の有無を調べる検査(コンパニオン診断)と、複数の遺伝子を網羅的に解析する検査(がんゲノムプロファイリング検査)があります。
前者は、肺がんや大腸がん、乳がんなど一部のがんではすでに一般化しており、標準治療決定のために、診断時から保険診療下実施することが可能です。
一方後者は、保険診療の対象が、標準治療がないまたは標準治療が終了(見込み)となった固形がんとなっており、誰でもすぐに受けられる検査ではありません。また、コンパニオン診断と違って特定の薬剤と紐づいている検査ではなく、検査結果をもとに治療薬が検討されるため、治療薬への到達率もあまり高くはないのが現状です。
実際にどんながんゲノムプロファイリング検査があるの?
日本において臨床実装されているがんゲノムプロファイリング検査には、主に下図のようなものがあります。それぞれ解析の対象となる遺伝子の数や検査項目が少しずつ異なっています。また、既に保険診療下で使えるものが複数ある一方で、Todai oncopanel(東京大学ら)やPlessision検査(慶応大グループら)など、独自のプラットフォームの開発も進んでいます。
検査はどこで受けられる?
プロファイリング検査は、がんゲノム医療の指定医療機関でのみ実施可能です。具体的には、専門家が集まって遺伝子解析結果を検討する委員会(エキスパートパネル)を開催できるなどの基準を満たしている病院として、「がんゲノム医療中核拠点病院」が13施設、「がんゲノム医療拠点病院」が32施設、また、がんゲノム医療中核拠点病院またはがんゲノム医療拠点病院と連携してがんゲノム医療を行う「がんゲノム医療連携病院」が203施設指定されています(2023年7月1日現在)。
検査結果のデータはどんな役に立つの?
プロファイリング検査の結果は、治療薬の探索に使われます。そこでは、標準治療になっていない他がん腫の承認薬や治験薬が選択肢になるため、治療薬にたどり着けるチャンスを得られるというメリットがあります。ただし、患者さんからの同意の下で検査が実施され、エキスパートパネルで結果が議論された後に、患者さんに説明されるというステップを踏む必要があり、時間がかかります。また、治療薬を検討するチャンスがあることと、治療薬にたどり着けることはイコールではなく、実際治療薬への到達率は2020年の厚生労働省の実績調査で8.1%と報告されていることには注意が必要です。
日本における検査結果のデータ管理システム
プロファイリング検査で得られる遺伝子に関する多くの情報は、治療薬の開発や疾患の解明に非常に重要です。そのため、日本のがんゲノム機関で実施されたプロファイリング検査の情報を、臨床背景や治療歴、効果や副作用などの情報と併せて一か所に集約させるために、2018年にがんゲノム情報管理センター (C-CAT)が設立されました。ここには、検査結果と臨床データを集積するマスターデータベースと、遺伝子変異に紐づく臨床試験の情報を集積し、結果の解釈・臨床的意義づけを行うために構築された知識データベースがあります。
もちろんデータベースへの登録は、患者さんご本人の同意が得られたもののみが対象となっています。
この日本における取り組みは、世界からも注目を集めており、最近ではC-CATの活動を紹介する論文が、
米国癌学会旗艦誌Cancer Discoveryに掲載されました。
日本のプロファイリング検査は、国民皆保険の下で実施されているという大きな特徴があり、そのために持続的なデータの集積が達成されています。また、病院、検査会社、製薬会社、政府、学会が協力し合うことで、C-CATは単なる研究や臨床試験のためのデータベースではなく、日本の個別化治療の礎となっています。
今回、日本の大規模なデータベースが海外の論文で取り上げられたことは、世界の個別化治療の拡大・進歩に向け、今後の日本の貢献に期待が寄せられていることが伺われます。
【出典】
厚生労働省:がん診療連携拠点病院等
厚生労働省:第4回がんゲノム医療推進コンソーシアム運営会議(議事録)