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生存率を左右する「がん悪液質」を克服するには

[公開日] 2019.09.06[最終更新日] 2019.09.06

 がん患者さんは体重が減少していっても、「がんでやせるのは仕方のないこと」と思い込んでいないだろうか。しかし、近年、がんによるやせである「悪液質」に早く対処して急激な体重減少を防げば、がんが進行しても治療が継続でき生存率の改善につながることがわかってきている。日本がんサポーティブケア学会が、8月7日に東京・大手町で開いたメディアセミナーでは、静岡県立静岡がんセンター呼吸器内科医長の内藤立暁氏が、「がん悪液質とはどんな病気? がんによるやせをどう克服するか」をテーマに講演した。その内容をレポートする。

進行がんの患者さんは初診時に半数が「悪液質」

 「なぜ、がん治療に悪液質が重要かというと、進行がんでは初診時で半数、終末期には8割の方が悪液質を経験するからです。栄養状態、治療のリスクに関わりますので、がん悪液質の重症度が、治療を優先するか症状を取るための支持医療を優先するか、ディシジョンメーキング(意思決定)の非常に重要な要素になります」。講演の冒頭、内藤氏はそう強調した。  がん悪液質は国際的に、“通常の栄養サポートでは完全に回復することができず、骨格筋量の持続的な減少を特徴とし、進行性の機能障害にいたる、多因子性の症候群”と定義される。つまり、ダイエットをしていないのに、がんがあることで体重が減り、筋肉も減少して歩けなくなる病態だ。  その発症リスクは、がん種によって異なり、膵がん、胃食道がん、頭頸部がん、肺がん、大腸がんで高く、血液がん、乳がん、前立腺がんなどでは低い(下グラフ)。

進行がんになると体が浪費モードになり筋肉まで燃やしてしまう

 治療前にがん悪液質があると、体重減少が少ない人より生存率が下がることも複数のがん種で報告されている。406人の進行肺がんの患者さんを対象にした京都府立医科大学大学院呼吸器内科教授の高山浩一氏らの研究では、治療前の体重減少が多いほど、生存率が低いとの結果だった。  「たくさんの薬が開発されて医療は進歩しましたが、未だに体重減少という基本的なものが生存率を左右しています。がん悪液質の患者さんは、身体機能が低下して要介護になりやすく、抗がん治療に耐えられなくなってしまいます。生存期間が短いだけではなく、生活の質が低下して、入院期間が長くなり、結果的に医療費がかかることもわかっています」と話した。  また、がん悪液質による食欲不振は、何とか食べさせようとする家族と、食べられない患者さんとの対立を生み、双方が、食に関するストレスで苦しんでいるのが現状だ。そういったことを避けるためには、まず、悪液質が起こるメカニズムを理解する必要がある。  内藤氏によると、私たちの体は、健康な時には省エネモードでエネルギーの代謝をハイブリッド車のようにコントロールしている。ところが、進行がんになると、炎症やがんから出るさまざまな物質によって浪費モードのスイッチが入り、戦車のようにエネルギーを燃やし続けてやせてしまう。しかも、がん悪液質の患者さんは、脂肪だけではなく、筋肉まで燃焼させてしまい減少させているのだという。  「がんを攻撃するために体から出る炎症性サイトカイン(細胞が放出する生理活性たんぱく質)がさまざまな臓器に働き、例えば、脳の食欲中枢に作用して食欲を落とし、肝臓に作用してエネルギーの備蓄ができないようにしてしまっているのです」と説明する。

前悪液質の段階で介入し体重減少・栄養状態改善を

 多くの患者さんは、「がんでやせるのは、終末期だけ」と考えているのではないだろうか。しかし、実際には、がん悪液質の多くは診断時から始まっているという。  2011年に欧州で決められた国際コンセンサス基準では、次の①か②のどちらかに当てはまれば、「がん悪液質」と診断される。 ① 過去6カ月に5%を超える体重減少 ② 2%を超える体重減少かつBMI(体重(㎏)÷(身長(m)×身長(m))が20㎏/㎡未満(またはサルコペニア(筋肉減少症))  また、悪液質にはステージがあり、前悪液質から悪液質、そして抗がん治療ができなくなる「不応性悪液質」へ進行する。「前悪液質の段階で見つけてできるだけ早く集学的な治療をすることが重要です。ただし、いまだに標準治療が一つもないのが現状です」と指摘した。

がん悪液質の治療薬、支持療法の開発が進行中

 現在、がん悪液質の標準治療を確立すべく、さまざまな薬の開発が進んでいる。なかでも、注目されているのが国立循環器病センター研究所のグループが発見したグレリン受容体に作用する「グレリン受容体作動薬」だ。日本人の進行非小細胞肺がんの患者さん172人を対象にした第2相試験では、対照群に比べて有意に骨格筋の減少を防ぎ、食欲を増進させたことが示されている。  「悪液質の治療には、薬物治療だけではなく、栄養、リハビリ、社会支援など、多職種による集学的治療が不可欠なのではないでしょうか」  そう話す内藤氏らは、集学的治療の確立を目指して、臨床試験NEXTAC-TWO(研究責任者・京都府立医大大学院教授・高山浩一氏)を実施中だ。NEXTAC-TWOは、70歳以上の進行膵・非小細胞肺がんの患者さん130人を2群に分け、化学療法に栄養療法と下肢筋肉トレーニング、身体活動介入を12週間行う治療介入群とコントロール群(化学療法のみ)を比較する臨床試験。登録は終了しており、2年間患者さんの経過を追跡して2021年に最終結果報告をする予定だ。  「臨床試験の結果にもよりますが、薬物療法に栄養療法や運動療法を併用することによって、身体機能とQOLを高めることができるのではないでしょうか。がん悪液質を早い段階で治療して、最終的には、患者さんたちの健康寿命を延ばしていきたいと考えています」と内藤氏が強調し、講演は終了した。  日本がんサポートティブケア学会では、「がん悪液質ハンドブック」を今年3月に発行し、学会のホームページで公開している。がんの治療中は、このハンドブックも参考にしたい。 (取材・文/医療ライター・福島安紀)
ニュース がん一般

医療ライター 福島 安紀

ふくしま・あき:社会福祉士。立教大学法学部卒。医療系出版社、サンデー毎日専属記者を経てフリーランスに。医療・介護問題を中心に取材・執筆活動を行う。著書に「がん、脳卒中、心臓病 三大病死亡 衝撃の地域格差」(中央公論新社、共著)、「病院がまるごとやさしくわかる本」(秀和システム)、「病気でムダなお金を使わない本」(WAVE出版)など。

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