• ログイン
  • 検索
  • 相談
  • お知らせ
  • メニュー
  • がん種
  • 特集
  • 治験
  • リサーチ
  • イベント
  • 体験談
  • 患者会
  • 辞典
  • お役立ち

小児・若年の男性がん患者は、化学療法の前に精子凍結保存検討を

[公開日] 2020.03.19[最終更新日] 2020.03.19

 第10回日本がん・生殖医療学会学術集会が、2月15~16日に埼玉県大宮市で開催され、獨協医科大学埼玉医療センターリプロダクションセンター助教で男性不妊治療や生殖補助医療を専門とする泌尿器科医の岩端威之(いわはたとしゆき)氏が、「男性患者と患児の妊孕性とその先」と題して発表した。男性のがん患者さんの場合、どのような治療で生殖機能が失われ、精子の凍結をしておいたほうがいいのか。また、小児がんの男児の生殖機能は温存できるのだろうか。学会での岩端氏の発表を中心にまとめた。

無精子症になるリスクの高いがん治療とは?

 男性が精子をつくる造精機能を失う恐れがあるのは、白血病や悪性リンパ腫、精巣腫瘍などで、抗がん化学療法や放射線治療を受けるときだ。また、膀胱がんで膀胱を全摘したとき、前立腺がんか肉腫で前立腺全摘をしたときなどにも、精子の通り道がふさがってしまう精路通過障害、あるいは、性機能が低下して射精障害や勃起障害になることがある。

「たとえ1度の抗がん剤治療でも、造精機能が失われたり、精子のDNAが損傷を受けたりするリスクがあります。米国臨床腫瘍学会(ASCO)の妊孕性温存療法ガイドラインでも、生殖機能の温存希望する人に対しては、化学療法を受ける前に、精子を採取して凍結保存しておくことを推奨しています。特に、化学療法の2クール目以降に、より造精機能が低下します。治療前がベストですが、それが無理なら1クール目が終わって2クール目を始める前に、精子を採取して凍結保存しておくことをお勧めします」。岩端氏は、そう強調した。

 長期にわたって無精子症の要因になる恐れがある主な抗がん剤は、白血病やリンパ腫などの治療に用いられるクロラムブシル、シクロホスファミド、プロカルバジン、メルファラン、精巣腫瘍や膀胱がん、肺がんなどの治療に使われるシスプラチンだ。

男性がん患者の妊孕性温存療法は、精子凍結保存が唯一確立された方法

 放射線治療では、精巣腫瘍などで2~3グレイ(Gy)以上放射線を照射すると、造精機能がダメージを受け、永久的に無精子症になる恐れがある。精巣への放射線照射が8グレイを超えると、ほぼ100%永久的に無精子症になるという。造血幹細胞移植の前処置として行われる全身放射線照射、脳腫瘍に対する全脳放射線照射も、無精子症になるリスクが高い治療だ。

「化学療法などで造精機能を失う恐れのある男性のがん患者さんができる妊孕性温存療法は、いまのところ精子の凍結保存だけです。ASCOの妊孕性温存療法ガイドラインでも、男性のがん患者さんが生殖機能を失う恐れがある治療を受けるときには、『精子凍結保存(精子バンク)が、唯一確立した妊孕性温存療法である』としています。性成熟期前の治療として、女性の場合には卵巣組織の凍結保存が選択肢の一つになっていますが、男性の精巣の凍結保存はまだ研究段階です」と岩端氏は説明する。

 無精子症になるリスクが高い治療を受ける場合、あるいは性機能が低下するのではないかと心配な患者さんは、治療を受ける前に、担当医に相談することが重要だ。がん治療医から生殖医療医を紹介してもらい、詳しい説明とカウセリングを受けたうえで、その日のうちに、精子を凍結保存する患者さんもいる。

 ただ、がんの治療を受ける病院と精子凍結保存ができる施設が別である場合が多いため、がん治療医と生殖医療医の連携がまだシステム化されていないところもある。

必要性を認識しながら妊孕性温存療法の説明をしない病院も

 岩端氏は、白血病やリンパ腫などの治療を行う、首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、栃木県)の大学病院やがん専門病院、公立病院などの血液内科31施設を対象に、「若年の男性血液がん患者(15~40歳)に対する精子凍結保存についてのアンケート調査」を実施した。回答があった22施設のうち、ほぼ全施設(21施設、1施設はこの質問に無回答)が、「若年の男性がん患者に精子凍結が必要か」という問いに「必要と感じる」と答えた。しかし、実際に、「精子凍結保存の説明を行っているか」の問いに、「説明している」と答えたのは15施設(66.6%)にとどまった。「わからない」が4施設(18.1%)、「回答なし」が2施設(9.0%)で、「説明していない」と答えた施設も1カ所(4.5%)あった。

 この調査によると、回答のあった22施設で2014年4月~2015年3月の1年間に治療を受けた15~40歳の血液がん患者さん213人のうち、実際に精子凍結をしたのは61例(28.6%)だった。

本人の受診が無理なら家族ががん・生殖医療機関へ精液を運ぶ選択肢も

「患者さん本人の体調が悪くて生殖医療機関を受診ができないときにはオンライン診療を行い、射精が可能であれば、専用の容器に精液を採取してもらって家族が当院へ運んでもらうことも可能です」

[caption id="attachment_112845" align="alignleft" width="228"]transporter S(トランスポーターS)[/caption]

 そう話す岩端氏は、家族などが精液を持ち運ぶ際の専用容器として、獨協医大埼玉医療センター院長で、リプロダクションセンター統括責任者(泌尿器科主任教授)の岡田弘氏らが開発した採精容器「transporter S(トランスポーターS)」(http://www.ninkatsupower.jp/transporter-s/)を紹介した。トランスポーターSは密閉性と保温性に優れ、精液の酸化や精子の劣化を防ぐ構造になっている。この容器を使うと、精液を入れてから4時間後、6時間後の精子の運動率、6時間後の生存率の低下が、従来の容器に比べて有意に抑えられることがわかっており、最近では通常の不妊治療にも使われ始めている。現在は、必要に応じて、専用容器を患者さんの家族に取りに来てもらっているが、近隣のがん専門病院などにトランスポーターSを常備してもらうことも検討中という。

 がんの治療後に無精子症になったときには、顕微鏡を使って精巣の中から精子を探し出す顕微鏡下精巣精子採取術(MD-TESE)によって、精子が採取できる可能性もある。しかし、岩端氏は、「移植前処置、特に全身放射線照射を受けた造血幹細胞移植後の患者さんでは、MD-TESEでも精子採取が困難だったとすでに論文で報告をしていますが、化学療法後に無精子症となった場合でも精子が採取できる患者さんは27%程度です。治療前に精子を採取して凍結しておけるのなら、それに越したことはありません」と指摘した。

11歳以上なら、治療開始前に妊孕性温存について相談を

 一方、患者さんが子どもの場合には、どうしたらよいのだろうか。

「患者さんが11~12歳以上の男児なら、生殖補助医療を専門とする男性泌尿器科医が信頼関係を築きつつ話をすることで、射出精子の採取が可能であることが多いです。成長に個人差はありますが、11~12歳以上なら小学生であっても、親は知らなくても射精を経験している子は少なくないからです。リンパ腫や白血病など小児がん経験のある25~47歳の男性15人(平均年齢35歳、診断時の年齢は10~20歳)と小児がん経験者の親7人に妊孕性温存に関するグループディスカッションをした米国の研究(J Adolesc Young Adult Oncol. 2014 Jun 1;3(2):75-82.)によると、ほぼ100%の人が、がん診断時に妊孕性温存という問題に適切に向き合わなかったことを後悔していました。後悔しないためにも、患者さんが11~12歳以上なら、がん・生殖医療に取り組む医師に相談し、射出精子の凍結を検討してほしいです」。岩端氏は、そうアドバイスする。

精子凍結時の診察料・凍結費用は自費診療で3万~5万円前後

 ただし、年齢に関わらず、精子の凍結保存には公的保険が使えず、自費診療だ。その費用は、凍結時に1万~5万円程度、年間維持費用(管理料)が1万~5万円程度かかるとされる。例えば、獨協医大埼玉医療センターリプロダクションセンターでは、初診料、感染症検査、精巣エコー、精子凍結(5チューブ2万円(税別))費用で、合計3万円前後(初年度の凍結維持費込み)かかる。1チューブに0.5mlの精液が保存でき、たくさん採取できれば6~10チューブ凍結する人もいる。凍結後の年間維持費用は、5チューブまでは年間2万円(税別、60歳以上の人は通常料金の5万円(税別))という。

 なお、埼玉県、滋賀県、京都府、岐阜県、広島県、神奈川県、山梨県、三重県、和歌山県、香川県、福岡県、千葉県いすみ市など、がん・生殖医療にかかる初期費用を助成している自治体もある。射精ができず精子を凍結するために精巣精子採取術を受けると、例えば、獨協医大埼玉医療センターなら約40万円かかるが、埼玉県はその費用も最大25万円まで助成している。

 凍結した精子を高度生殖補助医療(ART)に用いるときには、精子を融解(解凍)する。融解後は精子の運動率や生存率が低下するため、すべての精子が使えるわけではない。できたら多めに精子を凍結しておいたほうがいいわけだ。融解した精子を卵子に注入して受精させ、配偶者やパートナーの女性の子宮内へ移植する。

 獨協医大埼玉医療センターリプロダクションセンターを、15年7月~20年2月までに妊孕性温存目的で受診したがん患者さんは153人で、年々増えている。受診時に既婚で、精子凍結が可能だったのは41人中33人(75%)、そのうち7人(21%)が、実際に、凍結していた精子を生殖補助医療に用いた。6人(18%)はパートナーが妊娠、出産まで漕ぎつけたのは5人(15%)だった。

「再発が心配なので、まだ凍結精子を使うところまでは踏み切れないという患者さんもいます。それでも、精子を凍結していることが、未来への希望につながっている方も少なくないようです」と岩端氏。

 精子の凍結保存について検討したいときには、がん治療を受けている病院で担当医に相談するのが基本だが、獨協医大埼玉医療センターリプロダクションセンター(http://www2.dokkyomed.ac.jp/dep-k/repro/pregnancy-promote-room/pregnancy-after-cancer-treatment.html)では、妊孕性温存療法について、がん患者さん本人からの問い合わせにも応じている。

(取材・文/医療ライター・福島安紀)

ニュース AYA 忍容性

医療ライター 福島 安紀

ふくしま・あき:社会福祉士。立教大学法学部卒。医療系出版社、サンデー毎日専属記者を経てフリーランスに。医療・介護問題を中心に取材・執筆活動を行う。著書に「がん、脳卒中、心臓病 三大病死亡 衝撃の地域格差」(中央公論新社、共著)、「病院がまるごとやさしくわかる本」(秀和システム)、「病気でムダなお金を使わない本」(WAVE出版)など。

治験・臨床試験

一覧を見る

リサーチ・調査

一覧を見る

ニュース

一覧を見る

イベント

一覧を見る

患者会

一覧を見る