目次
希少がん患者が最も望むのは「適切な情報へのアクセス」
RCJは、2018年6月30日~8月5日まで加盟団体16団体の会員などを対象に、「希少がんに関するアンケート」を実施。北海道から九州・沖縄まで全国の希少がん患者・遺族502人(女性310人、男性183人)が回答した。 回答者の疾患は、脳腫瘍、小児脳腫瘍、頭頸部がん、胸腺がん・胸腺腫、GIST(消化管間質腫瘍)、腹膜偽粘液腫、神経内分泌腫瘍、小児固形腫瘍、軟部肉腫、骨の肉腫など多岐に渡っていた。
希少がんは、専門医が少ないため、治療や経過観察のための通院に時間がかかっている人が多い。
地域別の通院時間では、「片道3時間以上」かかっている人の割合は九州・沖縄で19%、中国・四国地方も18%、東北地方14%、北海道13%だった。中部・甲信越でも8%、関東地方でも7%、関西でも6%、通院に片道3時間以上かかっていた。
専門医へのアクセスについては、セカンドオピニオンにより、と回答した人が52%と多かった。疾患別では、腹膜偽粘液腫が最も多く66%、軟部肉腫が61%だった。治療のために転院した人は全体で45%、小児脳腫瘍と腹膜偽粘液腫はそれぞれ65%と高率だった。
何らかの臨床試験に参加したことのある人は10%だったが、参加経験のない回答者の63%が、「将来の参加に関心がある」と回答。臨床試験への期待がうかがえる。
希少がん患者の望みを聞いた質問では、「適切な情報へのアクセス」を求める人が74%と最も多く、「新規治療法の確立」(66%)、「専門治療体制の確立」(63%)、「医療助成制度」(55%)、「同病者との交流」(47%)、「社会的支援」(41%)、「心理的支援」(38%)となった。
また、がんゲノム医療が注目を集めるなか、「ゲノム解析に基づいた治療の確立」を望んでいる人は35%にとどまった。(下グラフ)。
RCJ理事でNPO法人脳腫瘍ネットワーク理事長のガテリエ・ローリン氏は、「この調査によって、希少がん患者が専門医のアクセスや情報の収集に苦労していることがわかりました。苦労している希少がんの皆様、これからもRCJまたは各患者団体を通して声を上げましょう。医療関係者、行政担当者、製薬企業の皆様、希少がん患者のために世の中を変えるためにマルチステークホルダー・イニシアチブを一緒に立ち上げましょう。患者の立場を反映した治療ガイドライン、患者の副作用やQOLに配慮した臨床試験、標準治療の確立をしていただけたら嬉しいです」と呼びかけた。
(RCJ理事 NPO法人脳腫瘍ネットワーク理事長 ガテリエ・ローリン氏)
診療ガイドライン作成の患者参画、患者向けガイドラインの作成推進を
続いて、RCJ副理事長でNPO法人キュアサルコーマ理事長の大西啓之氏が、同ネットワーク加盟団体に関連する希少がんの医療者向け診療ガイドラインの作成への患者参画、患者向けガイドラインの作成状況などの調査結果を発表した。 同調査によると、患者の立場の委員が入っているのは、胸腺腫・胸腺がん、中皮腫について記載がある「肺癌診療ガイドライン2018年版」で、外部委員として患者団体の2名が参画している。 「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン」の作成委員会には、外部委員として今年から患者団体の1名が入っている。 大西氏は、「希少がんの医療者向けの診療ガイドライン作成委員会への患者参画の推進」、「患者向けガイドラインの作成(患者向けガイドブックのようなものも可)」、「希少がんに関する海外ガイドラインの日本語版の作成と日本の実臨床との違いの記載」を求め、さらにこう付け加えた。 「超レアがんのガイドラインをどうするのかが課題です。ガイドラインにある標準治療に当てはらまなくなった患者には、選択肢として、まだエビデンスのない新規治療や臨床試験へスムーズに移行できるよう、それらの情報を的確に入手できる仕組みも必要です」患者向けの情報も発信する「Mindsガイドラインライブラリ」活用を
次に登壇した、日本医療機能評価機構理事で倉敷中央病院総合診療科主任部長・救命救急センター長・人材開発センター長の福岡敏雄氏は、同機構が運営するMindsガイドラインライブラリ(https://minds.jcqhc.or.jp)の「患者・市民向け情報提供(https://minds.jcqhc.or.jp/s/public_infomaiton_guide)」ページを紹介。
(日本医療機能評価機構理事 倉敷中央病院総合診療科主任部長・救命救急センター長・人材開発センター長 福岡敏雄氏)
「診療ガイドライン作成への患者・市民参加の手引きや実際にガイドライン作成に参画した患者さんのインタビューを掲載しているので、ぜひ参考にしてほしい」と話した。
「それぞれの立場での治療選択とは」をテーマにしたパネルディスカッションでは、診療ガイドラインの患者参画などについて、希少がんの患者・家族であるRCJの理事、医療関係者が登壇し議論した。
その中で、RCJ理事で腹膜偽粘液腫瘍患者支援の会副代表の東靖子氏は、余命宣告されたが、国際的には認められている治療法で元気になった自身や多くの会員の体験から、「腹膜偽粘液腫瘍に対する腫瘍の切除と術中温熱化学療法のことを関連するがんのガイドラインに記載するか、せめて、この腫瘍を診断する先生方が選択肢として患者に情報提供していただきたい」と訴えた。
国立がん研究センター中央病院研究企画推進部長の中村健一氏は、過去に、よさそうだということで広がった乳がんに対する大量化学療法が、臨床試験を実施した結果、従来の化学療法より治療関連死が多く生存率が低かった事例を挙げた。
「医師としては、本当に効果の高い治療かどうかは、臨床試験をやらないと自信をもって勧められません。希少がんに関しては、全体的に今まで臨床試験が少なかったので、マスターキープロジェクトで治験を増やし、いいエビデンスが出たら薬事承認につなげて希少がんの治療の選択肢を増やせたらと考えています」(中村氏)
福岡氏は、「私自身、効きもしない治療を効くと信じてやったことがあります。そういう間違いをしてはいけないというのが医学の基本です。その辺りが、患者さんにとっては、慎重に見えたりいくじなしに見えたり頼りなく見えたりするかもしれません。それは、皆さんに対する医師の誠意の表れであり、威勢のいいことを言う医師が患者さん思いとは限らないことを、難しい状態にある皆さんにこそ知ってほしい」と強調した。



