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一般社団法人キャンサーペアレンツが制作した絵本『ママのバレッタ』とそれに関する研究が、10月18日から20日に開催された第56回癌治療学会学術集会のPAL(ペイシェント・アドボケイト・リーダーシップ・プログラム)にて最優秀賞に選出された。
キャンサーペアレンツ 子供へのがん教育に絵本で挑む
子供をもつがん患者のSNSコミニティであるキャンサーペアレンツは2016年4月に胆道がんサバイバーである西口洋平氏によって設立され、現在、会員は2,500名にもおよぶ。
キャンサーペアレンツ会員で構成される絵本プロジェクトは、「がんサバイバーである親の気持ちを子供に伝えたい、がん患者と家族の支えがほしい」という、自分たちが抱えるニーズにより発足。「子供をもつがん患者だからこそつくれる絵本がある」と制作に取り掛かかり、その第一弾が『ママのバレッタ』となる。
一方、2016年に成立したがん対策基本法改正法に基づき作成された がん対策推進基本計画(第3期)では、がん教育・がんに対する知識の普及啓発があげられている。本計画では、子供の頃から教育を受けることが重要であり、子供ががんに対する正しい知識、がん患者への理解及び命の大切さに対する認識を深めることが重要と記載され、小児期からのがん教育が課題になっている。
そこで、キャンサーペアレンツは『ママのバレッタ』が がん教育の場においても効果的な教材になり得るかを、実際に小学校にて読み聞かせを行い、その前後の児童のがんに対するイメージを比較した。
『ママのバレッタ』を学校教育現場へ
キャンサーペアレンツは、岐阜県中津川市立落合小学校5、6年生63名に対して『ママのバレッタ』を読み聞かせ前後におけるがんの認識の変化を比較検討した。
設問は「がんになった後も同じ生活ができると思う?」という選択質問と「自由記載」となる。解析はWilcoxon符号付き順位和検定と形態素解析モジュールを用いたデータマイニングにて行った。
結果、「がんになった後も同じ生活ができると思う?」という問いに対して、読み聞かせ前は「あまりできない」という回答が大半であり、「わからない」や「ぜんぜんできない」というネガティブなイメージの回答も多かったが、読み聞かせ後はいずれの回答も大幅に減少し「少しできる」という回答が増加した。前後いずれかで「分からない」と回答した例を除いて、がんになった後のイメージが有意に改善した(p<0.0001)。
また、「自由記載」をデータマイニングした結果、読み聞かせ前後で「悲しい/悲しく」「心配」の2単語は出現数の減少が認められた(「悲しい/悲しく」:前29→後19、「心配」:前16→後9)。
以上の結果にて、キャンサーペアレンツは「ママのバレッタを小学校で読み聞かせすることが、がんになった後の生活のイメージ改善に寄与することを示し、家庭内にとどまらず学校などの教育の場においても情報共有ツールとしての絵本が効果的である可能性を示している。」と結論付けた。
今回の受賞について、絵本プロジェクトの一人である前田美智子氏は「まだ研究という意味ではスタートラインにも関わらず、発表の機会を頂いたことが有り難く、さらにこうして評価頂いたことに感謝しかありません。」と述べた。
絵本を制作するだけではなく、研究として学校現場にて読み聞かせ前後を比較検討したキャンサーペアレンツ。勿論、一つの小学校という限定的なコミュニティであることや前後比較という手法など、研究としては脆弱な点があるが、このように研究として学会報告し、ペイシェント・アドボケイト・リーダーシップ・プログラムの最優秀賞を受賞した同団体に称賛を送りたい。
『ママのバレッタ』は11月下旬に発売予定
現在、『ママのバレッタ』は発売に向けて準備中である。
出版社である生活の医療株式会社によると、(現在、Amazon上の表記は12月2日となっているが)11月下旬発売予定として準備を進めているとのこと。
キャンサーペアレンツ代表の西口氏は『ママのバレッタ』発売に際し次のように述べる。
「がんになったお父さんやお母さんが、何の経験もない中で制作を進めてきました。様々な困難がありましたが、多くの方の支えによって出版までたどり着くことができました。本当にありがとうございます。「親子でがんの理解を」「がん教育への活用」など、絵本の利用によるアウトカムは可能性に満ちています。しかし、それ以上に可能性を感じたのは、想いをもってモノづくりに関わるプロセスそのものが、がん当事者に大きなチカラをもたらすということです。絵本のストーリーを考える、下絵を書く、色をつける、それを最後のライフワークにしたプロジェクトメンバーもいましたが、そこにはイキイキとした姿がありました。キャンサーペアレンツとしてはこれからも、絵本はもちろん、それに限らず、会員のみなさんの生きるチカラにつながるプロジェクトを立ち上げ、社会につなげていきたいと考えています。」
すでに先行予約は開始しており、是非、一度、お読みいただければと思う。