抗がん剤による脱毛を防ぐための科学的根拠に基づいた方法


  • [公開日]2017.07.19
  • [最終更新日]2017.07.19


シャリ、シャリ、シャリ


オンコロ君、何食べてるのですか?


やあ、先生。かき氷だよ、かき氷。頭を冷やすと抗がん剤による脱毛が防げるって聞いたんだ。くぅー、頭がキンキンするぅー


オンコロ君、もしかして、それはディグニキャップ(頭皮冷却装置)のことでしょうか?

null

Newsmax


たしかに、抗がん剤による脱毛がディグニキャップを装着することで減少すると一流医学誌『JAMA』でも報告されています。現に、米国食品医薬品局(FDA)は乳がん化学療法中の脱毛の抑制を目的としてディグニキャップを医療機器として2015年に承認していました。さらに・・・


さらに?


2017年7月3日、ディグニキャップは乳がんだけでなく肺がん、胃がん、大腸がんなどの固形がんまで適応が拡大されました。でも、抗がん剤による脱毛抑制の適応で医療機器として承認されたのはディグニキャップだけであって、かき氷の承認はまだだったはずですが私の勉強不足でしょうか?


先生、真面目ね。オンコロ君の行動の半分は非科学的根拠に基いているのよ。


シャリ、シャリ、シャリ。くぅー


しかし、オンコロ君の仮説もあながち間違ってはいません。なぜなら、ディグニキャップが脱毛を抑えるその機序は、頭皮を冷やすことで血管を収縮させ、血管収縮により毛嚢の細胞に到達する抗がん剤の用量が減少し、結果として毛嚢の細胞破壊が抑えられると考えられているからです。


うそ!オンコロ君、もしかして天才?


うん?シャリ、シャリ、シャリ。


脱毛は抗がん剤の副作用の中でも、患者さんの生活の質QOL)を著しく低下させる副作用の1つです。特に、女性にとっては髪を失うことに対する精神的ショックは計り知れず、脱毛により抗がん剤の治療を継続する意欲がなくなる人も少なくありません。


芸能人の歯と同じくらい、女性にとって髪は大切。命は当然大切だけど、髪を失う現実を目の当たりにしたら…。


ジーンちゃんの仰る通りです。脱毛により抗がん剤を中止、減量を希望する患者さんは少なくありません。がん細胞を退治するために抗がん剤を投与しているにも関わらず、その副作用で投与を中断しては本末転倒ですが、命と同じくらい生活の質を保つことは抗がん剤治療を受ける患者さんにとって非常に重要なのです。


ウィッグ(女性用かつら)をつけたり、帽子を被ったり。脱毛を対処するための方法ならいくつもあるけれど、どうせなら抜ける前に予防したいわ。


ジーンちゃん、かき氷食べる?


あら♡オンコロ君、ありがとう。


う〜ん。


あら、先生どうしたの?


Pubmedで「kakigori hair loss」で文献検索しているのですが、それらしい文献が見つからないのです。


真面目かっ!


ところで先生、ディグニキャップを装着することで脱毛を抑える効果はどの程度あるの?


肝心なことを忘れてました。アメリカのヒューストンにあるベイラー医科大学のJulie Nangia氏らにより『JAMA』に報告された研究論文によりますと、ディグニキャップを装着した乳がん患者119人のうち約半数の50.5%の患者さんで脱毛の程度が半減していました。


ディグニキャップを装着した患者さんの半分の患者さんで半分の髪が抜けなかったってことは、ディグニキャップであっても脱毛をゼロにできるわけではないのね?


はい。ですが、アントラサイクリン系、タキサン系の抗がん薬のような脱毛が必発の薬を投与している患者さんに対してこの結果です。ディグニキャップによる化学療法中の脱毛の抑制効果は高いと言わざるを得ません。現に、この研究にはディグニキャップを装着していなかった患者さんも参加していましたが、その患者さんがディグニキャップを装着しないことで被る不利益が大きいと判断され、研究は早期に中止となりました。


でも、先生。石ころ帽子のように冷たくて硬くて重たそうなディグニキャップを長時間も被っていたら、頭がキンキンしたり、肩とか首が凝ったりしないの?


たしかに、ディグニキャップの主な副作用としては頭痛、悪寒、頭や肩への不快感が挙げられます。特に、頭痛は約40%の患者さんがディグニキャップ装着中に少なくとも1度は経験しています。でも、安心してください。ディグニキャップを装着する時間は化学療法を受ける30分前から終える90~120分後までと時間は決められています。そして、


そして?


ディグニキャップにより生じた副作用の重症度はどれも低いものばかりで、ディグニキャップの装着中止に至るような重症化した副作用は1種類も確認されていないのです。単純に比較はできませんが、抗がん剤による脱毛の副作用で投与中止に至る確率を考えますと、クーリングキャップの効果は侮れません。個人的に気がかりなことしては、頭部でのがん再発です。


さ、再発?先生、それはどういうこと?


ディグニキャップの装着により頭皮に到達する抗がん剤の量が減少しますので、万が一ディグニキャップ装着前に頭皮などの頭部へがんが転移していた場合、その部位におけるがんを退治できない可能性が考えられます。副作用もそうですが、頭皮での再発の危険性についても、ディグニキャップを装着した患者での長期的リスクはまだ明らかになっていません


がん細胞を退治するために投与した抗がん剤による脱毛を抑えるためにディグニキャップを装着しているにも関わらず、その副作用やがんの再発で装着が中断しては本末転倒です。


あれ?どこかで聞き覚えのあるセリフ?


そして、ディグニキャップは医療機器として日本ではまだ認可されていません。ですので…


ですので?


かき氷を食べるしかないのです。シャリ、シャリ、シャリ。くぅー

<参考>
FDA clears expanded use of cooling cap to reduce hair loss during chemotherapy(FDA News Release)

Effect of a Scalp Cooling Device on Alopecia in Women Undergoing Chemotherapy for Breast Cancer: The SCALP Randomized Clinical Trial.(JAMA. 2017 Feb 14;317(6):596-605)

Scalp Cooling to Prevent Chemo-induced Hair Loss (SCALP)(ClinicalTrials.gov Identifier:NCT01986140)

<関連文献>
Association Between Use of a Scalp Cooling Device and Alopecia After Chemotherapy for Breast Cancer(JAMA. 2017 Feb 14;317(6):606-614)

Efficacy and Safety of Dignicap System for Preventing Chemotherapy Induced Alopecia(ClinicalTrials.gov Identifier:NCT01831024)

記事:山田 創

×

リサーチのお願い


この記事に利益相反はありません。

会員登録 ログイン