肝細胞がん治療薬ネクサバールの全生存期間が肝動注化学療法と併用で延長
ソラフェニブ(商品名ネクサバール)は、2009年5月から販売されている切除不能肝細胞がん(HCC)の分子標的薬である。化学療法歴のないHCC患者を対象とする肝動注化学療法併用の第2相無作為化オープン比較試験(
UMIN000005703)が国内で行われ、シスプラチン肝動注と併用でソラフェニブを経口投与した治療群が主要エンドポイントを達成した。国立がん研究センター東病院の池田氏を筆頭著者とする論文が2016年8月29日のAnnual of Oncology Onlineに掲載された。
→要するに、日本で行われた転移性肝細胞がん対象の2相臨床試験結果が、有名な論文に掲載されましたってことです。
~ソラフェニブ+シスプラチン肝動注で死亡リスクが4割減~
2011年6月から2013年12月までに、外科的切除術や肝移植、局所切除療法、もしくは肝動脈化学塞栓療法(TACE)に適応せず、化学療法歴のない肝細胞がん患者108人を登録し、ソラフェニブ+シスプラチン(SorCDDP)群に66人、ソラフェニブ単剤(Sor)群に42人を割り付けた。ソラフェニブは1回400mgを1日2回連日経口投与し、シスプラチンは4週から6週毎に65mg/kgを、挿入カテーテルを介して20分から40分かけて肝動脈内に注入した。
→要するに、「ソラフェニブ単剤服用」と「ソラフェニブ単剤服用+シスプラチン肝動注」比べた試験ってことです。
その結果、治療期間の中央値はSorCDDP 群が75日、Sor 群が86日で、最大解析(FAS)対象はそれぞれ65人、41人であった。最終解析における主要エンドポイント、すなわち全生存期間(OS)中央値は、SorCDDP 群(10.6カ月)がSor 群(8.7カ月)と比べ有意に延長し(p=0.031)、門脈腫瘍塞栓や肝外転移の有無など背景因子別に算出したハザード比(HR)は0.60であった。主要エンドポイント達成のHR基準(0.74以下)を満たし、SorCDDP群はSor群と比べ死亡リスクが40%低下すること、あるいは、Sor群の生存ベネフィットはSorCDDP群の60%にとどまることが示された。腫瘍の活動性状態(ECOGスコア0/1)、肝機能(Child-PughクラスA/B)、C型肝炎やB型肝炎ウイルスの有無、血清中α-フェトプロテイン(AFP)の基準値(400ng/mL以上または未満)といった因子別解析でもほぼすべてのHRが0.74以下であった。
→要するに、ソラフェニブ服用+シスプラチン肝動注群で死亡リスクが4割低減したということです。また、肝機能状態やC型肝炎、B型肝炎の有無などさまざまな条件でわけても死亡リスクを34%は低減させています。
無増悪期間中央値はSorCDDP 群(3.1カ月)とSor 群(2.8カ月)の間に有意差はなく(p=0.257)、ハザード比(HR=0.78)からみると全生存期間よりわずかに劣った。奏効率の有意差はなかったものの(p=0.09)、SorCDDP 群(21.7%)はSor 群(7.3%)のおよそ3倍で、SorCDDP 群では生存期間が2年を超えた患者も認められた。
→要するに、病態の進行を抑える期間は延長することはできなかったけど、腫瘍が一定以上小さくなった方の割合は、3倍以上差がついたということです。
~ソラフェニブとシスプラチンは有害事象が重複しない~
SorCDDP 群ではSor群と比べ、好中球減少症や白血球減少症、ヘモグロビン減少、血小板減少症といった血液毒性、低ナトリウム血症、悪心、およびしゃっくりの発現率が高かったが、その他の有害事象は群間差がなく同等で、しかもこれらの有害事象は重度ではなかった。シスプラチン肝動注の毒性は軽度であり、ソラフェニブと重複しないことが良好な忍容性に寄与したと考えられた。なお、SorCDDP 群で最も発現率が高かったグレード3またはグレード4の有害事象は、肝酵素AST上昇(グレード3=32.3%、グレード4=1.5%)、およびγGTP上昇(各32.3%、4.6%)であった。
→要するに、色々な副作用はでたけれども、重度な副作用は多くなかった。この原因として、ソラフェニブとシスプラチンの毒性はオーバーラップ(重複)しないためであるからということです。
~ソラフェニブ併用の肝動注薬剤をシスプラチンとすることの現実味~
ソラフェニブは進行肝細胞がん(HCC)の標準治療として浸透しており、様々な分子標的薬の一次療法としての効果をソラフェニブと比較する第3相試験が数多く行われてきたが、現在までにソラフェニブを超える生存ベネフィットが証明された分子標的薬はない。また、進行肝細胞がん患者に対する治療として採用される肝動注化学療法は、薬剤の全身への分布を抑えつつ腫瘍局所濃度を高めることができるため、全身化学療法よりも強力な抗腫瘍効果と有害反応の低減が期待できる。実際、持続的で良好な臨床転帰をもたらし、許容可能な毒性で治療できる肝動注化学療法もあるが、進行肝細胞がんの標準治療としては一般的な合意に達してはいない。シスプラチンの肝動注も腫瘍に通じる動脈にカテーテルを挿入する必要があるため、その手技・処置の観点から敬遠されがちである。しかし、本試験の著者らは、カテーテル挿入のみで済むという見方だ。シスプラチンは1クールが4週から6週毎で、しかも1回あたり20分から40分で動注するため、頻回投与や持続投与が必要な薬剤のように留置リザーバーを皮下に埋め込む必要はない。カテーテル挿入に伴う血管造影処置とシスプラチンにかかる費用は1回あたりおよそ2000ドルで、近年承認された分子標的薬や免疫療法薬と比べ、そのコストはかなり抑えられる。
ソラフェニブと併用でシスプラチン+5-FUの肝動注化学療法を実施した第3相試験では、ソラフェニブ単剤を上回る生存ベネフィットが得られなかったとする報告がある。これは、シスプラチンと5-FUを動注するための留置リザーバーの埋め込みが困難だったことが、原因の一端と考えられている。
前臨床研究では、ソラフェニブがプラチナ輸送蛋白質と相互作用し、シスプラチンとの併用で相乗的抗腫瘍効果を示すことが報告されている。シスプラチンの肝動注とソラフェニブを併用した今回の第2相試験で、生存ベネフィットと忍容性に基づき臨床的な実用性が示唆されたことから、これらの結果を検証するための第3相試験が計画されている。
→要するに、肝動注化学療法は理論上は効果は期待できるけれども標準療法にはなっていない。けれども今回の結果を受けて、第3相試験が計画されているとのこと。ということです。
Sorafenib plus Hepatic Arterial Infusion Chemotherapy with Cisplatin vs. Sorafenib for Advanced Hepatocellular Carcinoma: Randomized Phase II Trial(Ann Oncol First published online: August 29, 2016)
記事:川又 総江 & 可知 健太