ネット動画を用いた臨床試験についての準備学習「PRE-ACT」で第3相試験
~がん臨床試験を治療選択肢としてとらえる時、患者の参加意思決定に関わる障壁を克服する取組み~

がん臨床試験への参加を決めるのは患者個人である。その意思決定の根拠は患者自身が納得できるものでなくてはならない。その根拠をどこに求めるか、どのように形作るかを手助けする取組みが行われている。

大規模調査試験で意識変化を前向き評価

米国CaseメディカルセンターのNeal J. Meropol氏らのグループは、コンピュータのインターネット動画を用いた理論的な個別化相互プログラム「PRE-ACT」を構築した。がん専門医との初回面談の前にPRE-ACTで臨床試験についての情報を得て、予備的な学習をした患者は、臨床試験についての誤解や否定的な姿勢が取り除かれ、正確な認識を持って参加の意思決定に至る可能性が高まることがわかった。

これは、米国4施設で2008年に開始された第3相無作為化二重盲検試験(NCT00750009)の結果で、2016年2月10日のJournal of Clinical Oncology誌(34巻5号)に掲載された。

がん患者1255人を対象とし、がん専門医との初回面談の前にPRE-ACT群(623人)、またはコントロール群(632人)に割り付けた。コントロール群では、従来の米国国立がん研究所(NCI)のテキストフォーマットによる臨床試験説明文書を用いた。PRE-ACTは臨床試験に対する認識・障壁評価、患者に対する説明の価値評価、および患者が示す障壁に対応するための個別化した動画ライブラリーの提供の3つのコンポーネントに分かれている。

臨床試験のインフォームド・コンセント前にツールによる介入は「認識」、「障壁」、「心構え」が改善

その結果、基礎調査を完了し、PRE-ACTの準備学習、またはNCI説明文書の介入後の調査を完了したのはそれぞれ509人、581人であった。その後、がん専門医との面談後の調査を完了したのはそれぞれ358人、377人であった。

PRE-ACTの準備学習、またはNCI説明文書のいずれも、介入前と比べ臨床試験についての認識、態度、および心構えが変化(改善)した。

介入前と比べ介入後の変化において群間比較では、認識と態度で有意差が認められた。

【認識(Knowlege)】
PRE-ACT群は3.16ポイント増加し、コントロール群は2.51ポイント増加。PRE-ACT群の方が0.65ポイント改善した。(p<0.001)

【障壁(Attitudinal barriers)】
PRE-ACT群は0.27ポイント低下し、コントロール群は0.16ポイント低下。PRE-ACT群の方が0.12ポイント改善した(低下するほど障壁がなくなる)。(p<0.001)

【心構え(Preparation)】
PRE-ACT群は4.7ポイント増加し、コントロール群が3.4ポイント増加。その差1.4ポイントで、PRE-ACT群の改善傾向が示された。(p=0.09、有意差なし)

さらに、PRE-ACTの介入に対する満足度もコントロール群より高く、情報の量や示し方、プログラムの長さ、意思決定への寄与など5つすべての質問に対する回答で有意差が認められた。

テイラーメイドの情報提供と準備教育の必要性、費用負担の不安解消が重要

がん専門医との初回面談前の調査で、臨床試験に関する「認識」は、PRE-ACT群では個別化した動画の提供により一貫して改善した。一方、「障壁」については全般的な改善は認められたものの、回答の変動幅は大きかった。

これは患者が個別に示す「障壁」の原因の複雑性を示すもので、短時間の動画で懸念を払拭することの困難さが浮き彫りとなった。特に、副作用に対する恐怖や医療に対する不信感といった懸念は患者個人に深く根付く価値観や感覚に基づくため、不安を解消するための集中的な介入の必要性も示唆された。

探索的解析では、PRE-ACTを用いた有効性は年齢、性別、人種はもとより、教育レベル、配偶者やパートナーの有無、就労状態、がんの種類や転移の有無など、患者背景因子による差は認められなかった。

ところで、臨床試験に参加する際の費用は患者にとって大きな不安であることが明白となった。動画の中で、費用の保険適用について不確実な情報があり、治療の選択肢として安心して臨床試験に参加するという意識になるには無理があったと、Meropol氏は考察している。現実には、医療費負担適正化法(ACA)が成立し、臨床試験における通常の診療は保険適用となったことから、PRE-ACTでは法成立や法改正を反映するように動画を更新している。

同意取得率には影響することはなかったが・・・

しかしながら、今回の試験において、臨床試験参加の意思決定にはPRE-ACT群とコントロール群の間に有意差はなかった。

これには、3つの解釈が考えられるとのこと。

まず、PRE-ACT群、コントロール群ともに臨床試験参加の意思を示した患者の割合が比較的高かった。患者や施設の選択にバイアスがかかったことが反映し、群間差が希釈された可能性がある。

次に、PRE-ACTもNCIの説明文書も、その情報や学習内容に妥当性があり、障壁が低くなることで患者が専門医に質問する動機づけがうまく運び、結果的に臨床試験参加者が増加した。

最後に、臨床試験登録に影響するが確実には評価できない因子が複数存在したということ。すなわち、参加できる試験の実現性、あるいは、治療選択肢としての臨床試験やその際の患者の登録適格性について患者と専門医が協議する際、両者の相互関係の質などを評価することはできなかった。

Meropol氏は、本試験には潜在的な限界があることも明言せざるを得ないとしている。

第一に介入の場所と速度で、本試験のPRE-ACTの介入は高速インターネットでのアクセスを必須要件としたため、自然に教育レベルの高い対象患者集団となり、試験結果の一般化可能性が限定的となったと考えられる。

第二に、調査項目によりサンプルサイズに差があり、態度の障壁、および意思決定の心構えの調査対象は認識調査より少なかったため、多くの行動調査と同様、主要エンドポイント改善の臨床的有意性について特定が困難である。

第三に、調査から離脱した患者の数で、基礎調査から介入前調査の間にPRE-ACT群の離脱者はコントロール群より2倍以上多かった(各105人、40人)。一方、介入前調査から面談後調査の離脱者(各151人、204人)はコントロール群の方が多かった。これらの差が結果に与えた影響があったかどうか、特定することができなかった。

最後にプログラミングエラー。不完全な動画を提供されたごく少数の患者が存在し、PRE-ACT介入の全般的な効果が少なく見積もられた可能性がある。

患者背景に基づく動画や文書を用いたテイラーメイドの臨床試験準備教育の必要性、重要性について、医療従事者の間では認識が高まっている。Meropol氏は、がん専門の看護師を対象とする動画の研修プログラムの開発にも着手している。

この結果が示す「オンコロ」の進むべき道

PRE-ACTは約1分程度の動画が28項目準備されている(コチラ)。内容としては、各出演者(おそらく医師)が閲覧者に口頭で呼びかけているという簡単なものである。ただし、文面よりも口頭で投げかける方が、説得力があり、安心感があるのは試験結果通りだと考える。オンコロでは、こういったビデオを作成していきたいと改めて思う。

Randomized Trial of a Web-Based Intervention to Address Barriers to Clinical Trials(JCO February 10, 2016 vol. 34 no.5 469-478)

記事:可知 健太


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