6月3日~6月7日にシカゴで開催されている米国臨床腫瘍学会(ASCO:あすこ)のAnnual Meeting(年次会議)にて、「高齢の神経膠芽腫(悪性脳腫瘍)患者に対して、短期間放射線療法にテモゾロミド(テモダール)を追加する第3相臨床試験結果」が、加トロント大学のJames R. Perry氏によって発表された。神経膠芽腫は神経膠腫のうち最も多いと言われている。
本演題は、毎年、応募される5000演題の中で4つしか選出されないプレナリーセッション(学問的に優れた演題)の発表の内の1つである。今年のプレナリーセッションのテーマは「患者ケアに多大な潜在的インパクトをもたらすと思われる演題」とのこと。
本試験は、新たに神経膠芽腫と診断された65歳以上の患者562症例対象に実施されたが、参加された患者のうち2/3は70歳以上となる。
参加した患者は、「短期放射線療法(40Gyを3週間以上にわたり15分割)+テモダール;化学放射線療法群」または「放射線療法単独;放射線療法群」に1:1にて割り付けられた。なお、テモダールは放射線療法と同時または、放射線療法後に使用された。
生活の質を保ったまま生存期間を延長
有効性と安全性に関する結果
【生存期間の中央値】
化学放射線療法:9.3か月
放射線療法:7.6か月
*統計学的に死亡リスクを37%改善(HR 0.67, 95%CI 0.56-0.80, p < 0.0001)
【病態の悪化を抑える期間の中央値(無増悪生存期間)】
化学放射線療法:5.3か月
放射線療法:3.9か月
*統計学的にリスクを50%改善(HR 0.50, 95%CI 0.41 – 0.60, p < 0.0001)
【治療開始1年後の生存割合】
化学放射線療法:37.8%
放射線療法:22.2%
【治療開始2年後の生存割合】
化学放射線療法:10.4%
放射線療法:2.8%
【MGMT遺伝子プロモーターメチル化の有無による生存期間の中央値】
膠芽腫細胞にはMGMT遺伝子が存在する。この遺伝子から作られるMGMTタンパク質はアルキル化製剤(テモダールなど)の効果を抑制すると言われている。ただし、この遺伝子のプロモーター領域(スイッチ)がメチル化していると、遺伝子からMGMTタンパクを作ることはできない。すなわち、「MGMT遺伝子プロモーターメチル化」していると、テモダールが効きやすい。今回、サブ解析として、MGMT遺伝子プロモーターメチル化の有無による生存期間の変化を確認している。
◆MGMT遺伝子プロモーターメチル化を有する患者(165人)
化学放射線療法:13.9か月
放射線療法:7.7か月
*統計学的にリスクを47%を改善(HR: 0.53,95% C.I. 0.38, 0.73, p = 0.0001)
◆MGMT遺伝子プロモーターメチル化を有さない患者(189人)
化学放射線療法:10.0か月
放射線療法:7.9か月
*リスクを25%を改善(HR 0.75 (95% C.I. 0.56 – 1.01, p = 0.055)
【安全性・QOL】
生活の質(クオリティーオブライフ:QOL)に対する影響は、放射線療法にテモダールを追加しても変わりはなかった。
有害事象は、テモダールを加えることにより、嘔気・嘔吐および便秘が増加した。
非高齢者に対して放射線療法にテモダールを追加することの有効性示されているが、高齢者については検討段階であり、本試験はそれを立証するための臨床試験となる。
Perry氏は、「高齢者は神経膠芽腫の影響が顕著であるが、高齢者を治療するための明確なガイドラインはなかった。この試験は、短い期間で放射線療法に化学療法を実施するため、大幅に生活の質を損なうこともなく、生存を延長することができる初めての無作為化臨床試験である。生存期間の中央値は控えめとなっているが、2年生存率、3年生存率は顕著に増加した」と述べた。
A phase III randomized controlled trial of short-course radiotherapy with or without concomitant and adjuvant temozolomide in elderly patients with glioblastoma (CCTG CE.6, EORTC 26062-22061, TROG 08.02, NCT00482677).(ASCO2016 Abstract No:LBA2)
Radiation Therapy With or Without Temozolomide in Treating Older Patients With Newly Diagnosed Glioblastoma Multiforme (NCT00482677)
記事:可知 健太