転移性乳がん 免疫療法の最新知見 MDアンダーソンがんセンターより


  • [公開日]2015.09.20
  • [最終更新日]2017.11.24[タグの追加] 2017/11/24

 転移性乳がんに対する免疫療法に関する最新の知見が、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新のがん研究とケアについて月刊情報誌「oncolog(おんころぐ)」に掲載されました。かなり初期開発段階のものも取り上げられていますが、概要を情報発信します。
 注意:以下の免疫療法は全て日本で未承認薬剤となります。日本人対象に有効性安全性が確立されてもいませんし、調べる限り一部以外は日本で臨床試験が走っていません。

◆乳がんと免疫療法

 この数十年、乳がんの治療成績は改善し続けているものの、再発および転移性の乳がんの治療は引き続き困難な状況となります。「乳がんは長年免疫原性(免疫反応を引き起こす性質)を持たないと考えられていたが、過去2年間に発表されたデータをみると、乳房の腫瘍にT細胞を含む免疫細胞があることが示されいる。つまり乳がんは免疫原性を持つといことである」と、外科腫瘍学准教授のElizabeth Mittendorf医学博士は話しています。
 メラノーマや前立腺がんに対する免疫薬剤療法やワクチンの最近の成功をあげ、「乳がんではこうした飛躍的な進歩はないが、進歩につながる糸口はすでに見つかっている」と、乳腺腫瘍科教授のNuhad Ibrahim医師は話しています。また、「ワクチン療法や免疫チェックポイント阻害薬、その他の免疫療法の進歩を得て、ついにわれわれは新たな段階に入りました」と、乳腺腫瘍科教授のDebu Tripathy医師は話しています。

◆免疫チェックポイント阻害剤

 免疫チェックポイント阻害薬はメラノーマ患者の生存期間が改善しており、乳がんをはじめ他のがんにも有効であることが明らかになってきています。乳腺腫瘍内科の准教授Jennifer Litton医師は「他の乳がん治療でみられたように多人数で効果が認められたわけではないが、効果が認めれた少数の患者では長期間にわたり効果が持続しており、いくつかの試験では、効果が数年続いたトリプルネガティブ乳がんの患者さんも何人か存在した。まさに革新的な治療である」と述べています。
 Tripathy医師は、「トリプルネガティブ乳がんは、他のタイプの乳がんよりも遺伝子変異の数が多い傾向にあり、その変異により合成された異常タンパク質が免疫療法の標的となる。よって、他のタイプの乳がんよりも免疫原性が多少高いため、それがチャンスになる。たとえば、トリプルネガティブ乳がんの20%がPD-L1発現していることがわかった。トリプルネガティブ乳がん患者は治療選択肢が限られているため、この患者集団でチェックポイント阻害薬が奏効したことは特に有望である。」と話しています。また、Litton医師は「計画段階にあるわれわれのチェックポイント阻害薬に関する試験のほぼ全部がトリプルネガティブ乳がん患者を対象にしている」と話した。

【アテロリズマブ( MPDL3280A)】
 MDアンダーソンがんセンターとして特に関心が高いのは、初期治療としての標準的な術前補助療法に反応しなかったトリプルネガティブ乳がんの患者を対象としている、抗PD-L1抗体 アテロリズマブと、アルブミンを結合させてナノ粒子化したパクリタキセル製剤との併用療法の臨床試験とのことです。

臨床試験情報(日本未実施;Clinical traials.gov):Neoadjuvant Trial of Nab-Paclitaxel and MPDL3280A

ペムブロリズマブ(MK-3475)】
 トリプルネガティブ乳がん患者でも、術前補助化学療法後に乳房またはリンパ節に残存腫瘍細胞がある患者を対象に、補助療法としての抗PD-1抗体ペンブロリズマブの大規模試験も計画されているとのことです。登録患者は、標準治療にペムブロリズマブ(ペムブロリズマブ)を併用する群としない群に割りつけられることになる。
 さらに、ペンブロリズマブの抗悪性度希少型である炎症性乳がん対象に試験が始まります。この試験は、ペンブロリズマブが標準化学療法によって始まった抗腫瘍免疫応答を維持できるかどうかを検討することを目的としています。

臨床試験情報(JAPIC-CTI):転移性トリプルネガティブ乳癌(mTNBC)の患者を対象としたMK-3475の第II相試験(KEYNOTE-086)

◆ワクチン

<MUC1由来ワクチン>
【STn-KLH(sialyl-Tn-keyhole limpet hemocyanin(STn-KLH、米商品名Theratope)ワクチン)】
 Stn-KLHは乳がん細胞表面に発現されるMUC1と呼ばれるムチンに由来するワクチンです。1990年代に無作為化臨床試験を実施しましたが、転移性乳がん患者の『腫瘍の進行する抑える期間』を延ばすという目標を達成できませんでした。しかしながら事後解析により、このワクチンは、以前にタモキシフェンによる治療を受けていた患者の生存転帰を改善する可能性があることがわかりました。Ibrahim医師は、米国国立癌研究所と共同で、MUC1由来、抗がん胎児性抗原ワクチン、共刺激分子をドセタキセルとともに投与する臨床試験を完了しており、近い内に結果が発表される予定とのことです。

【OPT-822】
 OPT-822はSTn-KLHワクチンと類似の構造を持つワクチンである。過去の臨床試験でOPT-822は、一部の転移性乳がん患者、特に低用量のシクロホスファミドの投与を受けていた患者の全生存期間を改善しました。低用量のシクロホスファミドの投与を受けた転移性乳がん患者対象の臨床試験が計画され、最近、患者の登録を終え、試験結果を解析中とのことです。

<抗HRE2由来ワクチン>
【E75(nelipepimust-S,米国商品名NeuVax)】
 E75は、HER2(ヒト上皮成長因子受容体2)に由来するペプチド・ワクチンとなります。現在、もっとも開発が進んでいるとのことです。現在、再発リスクの高いHER2陽性乳がん患者にE75ワクチンを投与する第3相試験の登録が終了しており、一方、E75ワクチンとトラスツズマブハーセプチン)併用の第2相試験は現在、登録患者を受け付けているとのことです。

【GP2とAE37】
 GP2とAE37もHER2に由来するペプチドワクチンです。両方とも、術後補助療法としての臨床試験で患者登録が終了しています。GP2ワクチンは、E75より高い免疫原性を持ち、ヒト白血球抗原(HLA)-A2と、HLA-A3に結合する。AE37は10以上のアミノ酸を含んでおり、患者に広く免疫刺激を与えるとのことです。2014年の米臨床腫瘍学会の乳がんシンポジウムと年次総会で、GP2とAE37群の予備解析をそれぞれ発表しており、Mittendorf医師は、「AE37はトリプル・ネガティブの乳がん患者で最も強い効果を示しており、トリプル・ネガティブ乳がんの患者を対象にした臨床試験の準備中である。GP2はトラスツズマブの投与を受けたHER2陽性患者で、最も強い反応を示した」と話しています。

MDアンダーソンがんセンターOncolog(英語サイト)
Immunotherapy Trials Offer Hope to Patients with High-Risk or Metastatic Breast Cancer

海外癌医療情報リファレンス参照
OncoLog 2015年7月号◆ハイリスク、転移性乳がん向け免疫療法の臨床試験に期待が高まる/MDアンダーソンがんセンター

記事:可知 健太(今回、原文のうち「その他の免疫療法」は割愛しました。興味がある方は原文をご参考下さい)

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 日本癌医療翻訳アソシエイツの許可のもと海外癌情報リファレンスを参照しているものの、それとともに原文を参照にしたオンコロオリジナル記事となり、本記事作成に日本癌医療翻訳アソシエイツは関与しておりません。

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