早期乳がん患者に対する術後療法としてのホルモン療法の10年を超える長期試験の結果医学誌「JOURNAL OF CLINICAL ONCOLOGY」より


  • [公開日]2018.12.07
  • [最終更新日]2019.02.15
この記事の3つのポイント
ホルモン受容体陽性の閉経後早期乳がん患者に対する術後療法
・レトロゾール5年、タモキシフェン5年、レトロゾール2年→タモキシフェン3年の長期結果
・レトロゾール単剤療法はタモキシフェン単剤療法に比べて無病生存率を9%減少(統計学有意差なし)

2018年11月26日、医学誌『Journal of Clinical Oncology』にてホルモン受容体陽性の閉経後早期乳がん患者に対する術後化学療法としてのレトロゾール単剤療法、タモキシフェン単剤療法、レトロゾール/タモキシフェン交互投与療法の有効性を検証した第III相のBIG 1-98試験(NCT00004205)の長期フォローアップ結果がKantonsspital St Gallen・Thomas Ruhstaller氏らにより公表された。

BIG 1-98試験とは、ホルモン受容体陽性の閉経後乳がん患者に対する術後化学療法として1日1回レトロゾール2.5mg単剤療法を5年間投与する群(N=1297人)、1日1回タモキシフェン20mg単剤療法を5年間投与する群(N=1286人)、1日1回レトロゾール2.5mg単剤療法を2年間/1日1回タモキシフェン20mg単剤療法を3年間投与する群(N=1300人)または1日1回タモキシフェン単剤療法を2年間/1日1回レトロゾール2.5mg単剤療法を3年間投与する群(N=1289人)に分けて、主要評価項目として無病生存率(DFS)、副次評価項目として全生存率(OS)、無遠隔転移生存率(DRFI)、乳がん無発症率(BCFI)、乳がん死亡率(BCM)などを比較検証した第III相試験である。

本試験が実施された背景として、ホルモン受容体陽性の閉経後早期乳がん患者は治療開始10年後以降も治療関連有害事象(TRAE)、病勢進行が発症される可能性があるためである。BIG 1-98試験はフォローアップ期間中央値8.1年時点でも結果が過去に報告され、その時はタモキシフェン単剤療法に比べてレトロゾール単剤療法で無病生存率(DFS)、全生存率(OS)、無遠隔転移生存率(DRFI)、乳がん無発症率(BCFI)を統計学有意に延長していた。そこで本試験では、フォローアップ期間中央値12.6年時点における結果を検証している。

本試験に登録された患者背景は下記の通りである。年齢は65歳未満(N=4344人)、65歳以上(N=2072人)。腫瘍サイズは2センチ以下(N=4227人)、2センチより大きい(N=2123人)。リンパ節ステータスはN0(N=3993人)、N1-3(N=1818人)、N4以上(N=600人)。エストロゲン受容体ステータスは陰性(N=135人)、陽性(N=6277人)。プロゲステロン受容体ステータスは陰性(N=1331人)、陽性(N=4941人)。

以上の背景を有する患者に対する本試験の結果は下記の通りである。主要評価項目である無病生存率(DFS)は、タモキシフェン単剤療法に比べてレトロゾール単剤療法でそのリスクを9%減少(HR:0.91,95%信頼区間:0.81-1.01,P=0.08)するも統計学有意な差は確認されなかった。

副次評価項目である全生存率(OS)はレトロゾール5年、タモキシフェン5年、(HR:0.89,95%信頼区間:0.77-1.02,P=0.087)。無遠隔転移生存率(DRFI)はタモキシフェン単剤療法に比べてレトロゾール単剤療法でそのリスクを15%減少(HR:0.85,95%信頼区間:0.72-1.005,P=0.057)。乳がん無発症率(BCFI)はタモキシフェン単剤療法に比べてレトロゾール単剤療法でそのリスクを11%減少(HR:0.89,95%信頼区間:0.77-1.02,P=0.10)。乳がん死亡率(BCM)はタモキシフェン単剤療法に比べてレトロゾール単剤療法でそのリスクを11%減少(HR:0.89,95%信頼区間:0.74-1.07,P=0.20)を示した。

以上のように主要評価項目、副次評価項目においてタモキシフェン単剤療法に比べてレトロゾール単剤療法は統計学有意な差は示すことができなかった。しかし、対側乳がん発症率はタモキシフェン単剤療法に比べてレトロゾール単剤療法で治療開始0-5年時点は38%減少(HR:0.62,95%信頼区間:0.36-1.09)、5-10年時点は53%減少(HR:0.47,95%信頼区間:0.23-0.97)、10年以上時点は35%増加(HR:1.35,95%信頼区間:0.53-3.41)を示すなど異なる結果を示した。

一方の安全性として、心筋梗塞、脳血管イベントなどの治療関連有害事象(TRAE)は両群間で統計学有意な差は確認されなかった。しかし、高血圧、心不全、上室性不整脈などはタモキシフェン単剤療法に比べてレトロゾール単剤療法でその発症が多く報告された。

以上のBIG 1-98試験の結果よりThomas Ruhstaller氏らは以下のように結論を述べている。”ホルモン受容体陽性の閉経後早期乳がん患者に対する術後化学療法としてのレトロゾール単剤療法はタモキシフェン単剤療法に比べて無病生存率(DFS)を改善する傾向を示しました。また、対側乳がん発症率は治療開始10年まではレトロゾール単剤療法でそのリスクを減少するものの、10年を超えるとタモキシフェン単剤療法でそのリスクを減少する結果が得られました。以上の結果より、ホルモン受容体陽性の閉経後早期乳がん患者の長期フォローアップの重要性が本試験より示唆されました。”

Adjuvant Letrozole and Tamoxifen Alone or Sequentially for Postmenopausal Women With Hormone Receptor–Positive Breast Cancer: Long-Term Follow-Up of the BIG 1-98 Trial(Journal of Clinical Oncology; Published online November 26, 2018.)

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