患者団体に聞く! 肺がんHER2「HER HER」 清水 佳佑 さん治験参加でほぼ寛解、正しい情報が運命を変えた。 -治療と共に、仲間と共に、社会と共に。-


  • [公開日]2024.01.12
  • [最終更新日]2024.01.12

はじめに

今回お話を伺ったのは、肺がん体験者の清水佳佑さん。清水さんには、ちょうど5年前にもインタビューさせていただきました。清水さんの肺がんの診断、治療の経緯などについての詳細は、ぜひそちらの記事をご覧いただければと思います。

【肺がん体験談】学術集会の患者・家族向けプログラムが与えてくれたもの

【要約】
2017年2月に、肺腺がんステージⅢbの診断を受けた清水さんは、化学療法をすることが受け入れられずに状況が悪化していた時期もありました。
しかし、同年10月に横浜で開催された日本肺癌学会学術集会の患者・家族向けプログラムに参加し、正しい知識を得たことで「標準治療」を理解し、抗がん剤による治療を開始しました。
また、医師主導治験に参加し遺伝子パネル検査を受けたことで、HER2遺伝子変異があることが判明、同じ遺伝子変異のある仲間と繋がるために「HER HER」という患者会を立ち上げました。

治験参加でがんが寛解

川上:清水さんには以前もオンコロからお話を伺いましたよね。2018年に東京で開催された第59回日本肺癌学会学術集会の患者・家族向けプログラム(PAP)でインタビューさせていただきました。あれから5年経ちましたが、遺伝子パネル検査が保険適用となったり、肺がんに適応となる薬剤の承認も増えたり、と肺がんをめぐる状況も目まぐるしく変わっています。清水さんの治療状況にはどのような変化がありましたか?

清水:前回インタビューを受けたのは5年前でしたね。私の方もちょうどご報告したいことがあったんです。そのときお話ししたように、肺がんがわかり、情報収集をする過程で、研究の一環として近畿大学のクリニカルシーケンス検査を受けて、HER2遺伝子変異がある(陽性)ことがわかっていました。ただ、当時は、HER2陽性の方を対象とした治験はあったのですが、標準治療を終えた患者が対象であり、私はまだ標準治療を受けている段階でした。その後、条件が整い2019年2月からHER2をターゲットとする薬剤の治験に参加し4年半経過したところで、完全奏功との判断となり、今年9月には治験を終えて経過観察しているところなんです。

川上:それはすごい!良かったですね。ちょうどHER2の薬剤が今年の8月に承認されたばかりでしたが、治験を通してその成果をいち早く享受されていたんですね。治験は治療の選択肢の一つであると感じる事例です。

清水:はい。ベストタイミングで治験に参加できたのは、自分がHER2陽性であることを治療の早期段階で知っていたことが大きいと思います。治験では、治療の効果もありましたが、下痢や倦怠感、吐き気などの副作用にも悩まされたので、完全奏功という形で治験を終えることができて、ホッとしています。8月のエンハーツ®の承認には、仲間一同とても喜んでいます。この先使える薬がある、ということは治療中の患者にとって本当に頼もしいことです。

HER2陽性の患者会「HERHER」

川上:5年前にインタビューした際には、既にHER2陽性の患者会である「HER HER」を立ち上げて、2018年の肺癌学会学術集会でも活動について発表しておられましたが、改めて、立ち上げの経緯や活動について教えていただけますか?

清水:自分がHER2陽性だと分かったものの、非小細胞肺がんの遺伝子変異型のなかでは3%程度という割合のため、まわりに同じHER2陽性の人はおらず、孤独を感じていました。きっと自分の他にも同じ思いをしている人がどこかにいるに違いない、と思っていました。そんなことを考えていた2018年、日本臨床腫瘍学会のPAPに参加したところ、同じ肺がんの、ROS-1という希少遺伝子変異に特化した患者会の代表の方との出会いがあったんです。ちょうど、PAPに参加して「アドボカシー」という概念に触れ、自分にできることは何だろう、と模索していた時でもあり、自分も肺がんのHER2患者同士で繋がろう、と患者会を立ち上げました。

川上:PAPでの学びと出会いが、今の清水さんの治療と患者会活動の原点になっているんですね。改めて清水さんにとって、学術集会のPAPが果たしている役割は大きいですね。現在、HER HERはどのような活動をしていますか?

清水:HER HERでは、①治療と共に、②仲間と共に、③社会と共に、の3つの「共に」をモットーにしています。
①は、情報を共有することで治療へのアクセスを高めることで、実際に、HER HERの交流で情報を得て治験に繋がった方もいます。
②は、ピアサポート的なもので、同じHER2の仲間がいるというだけで孤独感が薄らぎ、分かり合えるんです。これまでに33名の仲間が会に登録してくれています。
この繋がりを③の社会に向けた活動に発展させたい、と思っていますが、これはまだ模索段階です。
会員は全国に散在しているため、普段はネット上での交流が主ですが、今年の第64回日本肺癌学会学術集会は、コロナ禍以降久しぶりに現地参加が可能になり、仲間との再会を果たせて、とても嬉しかったです。

潜在的な仲間がまだいるのでは?

川上:やはり実際に会えると、全然違いますよね。これまでに33人の方が登録されたとのことですが、会員の数について、どのように考えておられますか?

清水:非小細胞肺がんのうち、約3%程度がHER2変異であると仮定すると、まだまだ出会えていない仲間が全国にいると思っています。HER2陽性であることが分かっているが、HER HERの存在を知らない方のほか、そもそもHER2陽性であることすら分かっていない患者さんもいるのではないかと。

川上:確かに、HER2の変異も調べられる遺伝子検査をしていなければ、HER2陽性であっても患者さんは知る由がないですよね。

清水:肺がんは、初期の段階で有効な薬剤を模索するためにコンパニオン検査を実施しますが、さまざまな検査方法がある中で、HER2遺伝子変異がわかるコンパニオン検査方法は現時点ではオンコマインだけです。網羅的に遺伝子検査を調べることができる包括的がんゲノムプロファイリング(CGP:Comprehensive Genome Profile)検査は、標準治療が一通り終わってからでないとできません。
現在、会に参加してくれているHER2陽性の患者さんたちは、私と同様、研究に参加したことで判明した方もいます。なかでも、「LCスクラム(*)」に参加した方が多いですね。8月にHER2の薬剤が承認されたことで、HER2が適切な時期に適切に検出されるようになれば、もっとHER HERの仲間も増えるのでは、と期待しています。

LCスクラム
現「LC-SCRUM-Asia(旧:LC-SCRUM-Japan)」。肺がんの患者さんに有効な治療薬を届けることを目的として、がんの遺伝子変化を調べる産学連携プロジェクト。研究代表者は、国立がん研究センター東病院 呼吸器内科長の後藤功一先生。

これから取り組みたいこと

川上:仲間が増えれば、3つの「共に」に掲げている「社会と共に」、との指針も実現しやすくなりそうですね。

清水:そうですね。今後はそこに注力していきたいと思っています。今までにも、患者会を立ち上げたことで出来たご縁から個人的にお声がけいただき、製薬企業の方々に向けた講演や、臨床試験のプロトコールへ意見を述べさせていただいています。また、HER2薬剤の承認前に、日本肺癌学会とHER HERとの連名で早期承認の要望書を提出する準備をしたこともありました(結局、要望書は提出せずに順調に承認となりました)。
引き続きこうしたアクションを団体としてやっていけたら、と思いますし、がんの部位を超えてHER2陽性の患者さん同士で繋がったり、海外の患者会とも繋がれたら、とも思っています。患者や家族以外の立場の方々とも連携して、共によりよい医療を作っていきたいです。

川上:最後に、読者の皆さんにメッセージがあればお願いいたします。

清水:私は、HER2の遺伝子変異が見つかり、治験に参加したことで人生が変わったといっても過言ではありません。現在は治療から卒業できていることに心から感謝しています。ただ、治療開始時の保険適用下での遺伝子検査では、HER2変異を発見することはできず、また、遺伝子パネル検査(CGP)もまだ保険承認前であり、私はたまたま治験による遺伝子パネル検査で発見することができました。
現在CGPは保険適用となっているものの、標準治療を終えた方や終了見込みの方が対象であり、タイミングとしては遅い場合もあります。治療に繋がる可能性のある遺伝子変異を、できるだけ早期に知ることは命を左右するとても重要なことだということをお伝えしたいです。


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