清水佳佑さん(37歳)
HER2遺伝子変異の肺がん患者のコミュニティ HER HER(ハー ハー) 発起人
3歳、5歳 男児のパパ。ブログ「
今日も佳き日を… 35歳からの肺腺がん(HER2)ステージⅣ ライフ」の管理人。
2017年2月に、肺腺がんステージⅢbの診断を受けた清水さん。化学療法を受け入れられずに状況が悪化するなか、正しい知識を得たことで「標準治療」を理解し、抗がん剤による治療を開始しました。また、「アドボカシー」の概念に触れ、がん対策情報センターの患者・市民パネル11期として活動したり、HER2遺伝子変異陽性のコミュニティ「HER HER(ハー ハー)」を立ち上げるなど、「自分にできること」に少しずつ取り組んでいます。
標準治療をスタートできずに・・・
川上:肺がんだとわかってから、治療のことなどについて、教えてください。
清水:2016年の12月に受けた健康診断の胸部レントゲン検査で引っかかり再検査、CT検査、その後、組織検査、脳MRI、PET検査等を受け、2017年2月に肺腺がんステージⅢbと診断を受けました。標準的な治療として化学療法+放射線治療を勧められました。でも私は化学療法にどうしても抵抗があり、すぐに治療を開始できずに、食事や代替療法でがんを治せないか、試行錯誤していた時期がありました。そのうち、体調が悪くなってきて、癌性心膜炎を起こし、ステージⅣに移行、4回も心タンポナーデを起こす、という経過をたどってしまいました。
川上:どんなことを試しておられたのですか?
清水:免疫細胞療法や温熱療法などですが、病状は改善せず、むしろ悪化していきました。この間に手術も受けて、摘出した組織の病理組織診断からは、EGFR、ALK、ROS1など、効果的な抗がん剤が存在する遺伝子異常はなく、免疫チェックポイント阻害剤の効果の目安となるPD-L1の発現率は1%未満でした。いろいろ情報を集める過程では、近畿大学が実施していたクリニカルシーケンス検査(*)も受けて、HER2遺伝子変異が陽性であるということもわかりました。でもその時点では、保険適応となる治療法はなく、まだ研究段階でした。
*クリニカルシーケンス検査 がん関連遺伝子の変化を個別にではなく、一度に調べることができる検査。2018年12月現在はまだ保険適応となっていないため、研究の一環として実施されている
川上:抗がん剤治療への心理的抵抗で、寄り道している間に病状が進んでしまったことは少し悔やまれますね・・。でも納得して治療を受けることはとても大事ですものね。
清水:3回目の心タンポナーデで緊急入院したあと、去年の10月に、横浜で開催された第58回日本肺癌学会学術集会の患者・家族向けプログラム(以下、PAP)に参加しました。そこで初めて標準治療の考え方を理解し、納得することができて、化学療法への抵抗がなくなりました。その後、12月からカルボプラチン+アリムタの化学療法4クールをスタートし、2018年3月からは、アリムタ単剤での維持療法を今も続けています。
仕事や家族との向き合い
川上: 学術集会のプログラムへの参加で、納得して標準治療を受けることができたのですね。診断を受けてから、お仕事とは、どのように向き合ってこられたのですか?
清水:仕事に関しては、診断がついた時点で休職させてもらいました。これは、診断前から職場とも話し合ってきて、治療が必要になったら、無理せずに治療に専念した方が良いだろう、と、私自身も、職場も、同じ考えで合意していました。傷病手当金を1年半受給してきましたが、今年の10月末で退職しました。治療と仕事を両立できれば一番良かったのですが、障害年金を受給できることもわかり、治療に専念したいと考えたからです。会社側とは、十分会話を重ねての結果です。
川上:傷病手当金や障害年金については、いろいろ調べないと辿りつけない患者さんも多いなか、清水さんは必要な情報や支援をうまく活用されていますね。
清水:学術集会のPAPでもそうした支援について学ぶ機会がありましたし、がん相談支援センターに相談して、有益な情報を得ることができました。また、会社からも教えてもらえたので、恵まれていました。
川上:ご家族や親しい方々とはどのように向き合ってこられましたか?
清水:私は告知を受けた瞬間から、周囲にはすべてオープンにしていました。友人知人たちの中には、私の状況について、聞きたくても(遠慮して)聞けない人もいるんじゃないか、と思ったのと、個別に話していくのも大変だと思ったので、ブログを始めて、親しい人たちに一斉送信し、日々の状況を伝えています。家族も含めて、みんなに見てもらうようにしています。
認識を変えた学会の「患者・家族向けプログラム」
川上:現在の体調や治療の効果はいかがですか?
清水:標準治療を受けるまでは、癌性心膜炎を起こしたり、心嚢水が溜まって座っているだけでも息苦しかったり、ということがありましたが、幸いこれまでの治療が奏効して、原発巣はほとんど消えてくれました。現在はアリムタ単剤で維持療法を続けていますが、右鎖骨リンパ節が腫れてきているので、経過を見ているところです。HER2遺伝子変異のある肺がん患者向けの臨床試験もあるのですが、これは、標準的な化学療法が効かなくなってきた人が対象になりますので、もし、現在の治療の効果がなくなってきたら、臨床試験に入る、という選択肢も残されています。
川上:標準治療の効果があって、本当に良かったですね。昨年の肺癌学会学術集会のPAPへの参加が転機になりましたね。
清水:昨年の肺癌学会のPAPに参加したことで、標準治療を納得して受けることができましたし、アドボカシーという概念に触れ、「自分にも何かできることがあればやりたいな」と思うようになりました。今年の夏に神戸で開催された、第16回日本臨床腫瘍学会学術集会のPAPにも参加し、肺がん患者のうち1%程度しか存在しない、「ROS1遺伝子変異」のある患者さんたちが、【ROS1ポジティブ♪】という会を立ち上げ、全国の仲間と繋がり情報交換し支え合っていることを知りました。それがきっかけで、自分もHER2遺伝子変異のある患者同士で繋がれるように、と【HER HER(ハー ハー)】を立ち上げました。発信していくことで、新たな仲間と繋がることもできました。
*第59回日本肺癌学会学術集会の患者・家族向けプログラムで活動紹介をする清水さん
川上:今回の第59回日本肺癌学会学術集会のPAPでは、HER HER の活動について、発表されていましたね。他にも取り組んでいきたいことはありますか?
清水:私はもともとデザインの仕事をしていたので、自分のがん体験とデザインの経験を活かした活動ができないか、と、いくつか取り組んでいることがあります。1つは、声の障害マーク(案)の提案です。私は、肺がんの摘出手術の際に声帯に関係する神経を腫瘍と共に切断した為、声が出にくくなりました。実際に声が出にくくなることで
・外に出て、店で注文する時などに声が届かない
・困った時に人に助けを呼ぶ声が届きにくい
・大人数の中で、話をしても声が届かない
・知らない人からは、声が小さいので「もう一度話してもらえますか?」と
聞き返されることがある…等々実際に当事者となり、困ることがあります。
また、私だけでなく声が出ない方、声が出にくい方がいること、音声障害や発声障害があること、生活をしていく中で困っていることがあることを知りました。そこで、これを認知してもらうためのマークを提案し、呼びかけています。
【Change.org のキャンペーン:
声の障害マーク(案)の提案とご協力のお願い】
それから、がん患者さんたちが、アドボカシーに一歩踏み出した時に活用していただけるように、と、「キャンサーコミュニケーション名刺」作成キットを公開しています。肺癌学会や臨床腫瘍学会のPAPに参加して、自分自身も、がん体験者としての新しい知り合いやネットワークが広がっていったので、それをサポートできたら、という思いで、臨床腫瘍学会のPAPで知り合った、shihoさんと共同で製作しました。詳細はブログに掲載しているので、ぜひご覧ください。
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Cancer Communication Card
川上:カッコいい!さすがデザインのお仕事をされてきただけありますね。オンコロも、いろいろな方に届くよう、応援させていただきます!最後に、オンコロにメッセージがあればお願いいたします。
清水:私はオンコロのサイトをかなり見させてもらっています。特に肺がんの臨床試験の情報やブログや体験者の声など、とても参考になり、役に立つ情報をいただいています。これからも、患者にとって役立つ情報をどんどん発信していただけることを期待しています。頑張ってください。私も、負けないように頑張ります!