患者団体に聞く! NPO法人肺がん患者会ワンステップ 長谷川一男さん 後編「奇跡」を「軌跡」に! -患者会活動の黎明期-


  • [公開日]2023.10.27
  • [最終更新日]2023.10.30

はじめに

こちらの記事は、『患者団体に聞く! NPO法人肺がん患者会ワンステップ 長谷川一男さん 「奇跡」を「軌跡」に!』の後編となっています。
前編はこちらよりご覧いただけます。
患者団体に聞く! NPO法人肺がん患者会ワンステップ 長谷川一男さん 「奇跡」を「軌跡」に! 【前編】

患者の思いを形に。「奇跡を軌跡」にするKISEKI Trial

柳澤:ワンステップでの取り組みを通じ、様々なことを成し遂げられてきたと思いますが、もっとも記憶に残るものはなんでしょうか?

長谷川:患者が治験を提案し、それを実行するまでもっていくことができた患者提案型治験に取り組んだことでしょうか。具体的に説明すると、「KISEKI trial」という医師主導の治験を行いました。
2018年の夏。きっかけは、タグリッソという薬が適応拡大された時に、患者からすると置いてきぼりになるような集団がありました。この薬がなぜ使えないのかという声があったことです。
そこで、これらの対象となる患者さんを対象に、タグリッソが使用できないか?使用できるようにするにはどうすればよいか?適応症追加できる臨床試験(治験)はできないか?などを、認定特定非営利活動法人 西日本がん研究機構(WJOG)に相談しました。
当時の理事長であった近畿大学の中川和彦先生、武田真幸先生らを中心に動いて頂き、企業の協力も得て、医師主導治験の実施にこぎつけることができました。その結果は、ポジティブであったと学会発表、論文として発表されました。もうすぐ承認申請されて、来年(2024年)には使えるようになるかもしれません。患者が行った医師主導治験として世界でも珍しいものです。

柳澤:まさに患者市民参画のモデルですね。

長谷川:はい。これが何の意味になるかというと、患者市民参画が大きく動いたということです。患者の声をちゃんと聞いて、より良いものとしていこうという、国の方針にも影響を与えるものとなったと思います。
この「KISEKI trial」では、実際に医療者が受けいれて、製薬企業側もサポートしてくれました。そういう意味では、患者市民参画を進めるうえで大きな一歩となったと思います。

世界肺がん学会での発表

※「KISEKI trial」の舞台裏についてのオンコロの記事
【日本初】なぜ患者主導の治験が実現したのか?〜その舞台裏を聞く〜

苦労を伴う患者会運営

柳澤:私自身も、過去NPO(非営利活動法人)の運営に関わったことがあります。これらの活動を続ける上で、ご苦労も多いと思います。患者会を運営する上での問題点はありますか?

長谷川:患者会というと、ボランタリー的な面が非常に強い現状があるため、お金の面が弱いというものがあります。お金があれば、能力がある人が患者会で働いてくれる。それはつまり、その人の資格や能力を活かして物事をぐいぐい進められるということです。また、支援も手厚くなるし、研究も患者目線の研究が進んでいく。
しかし、現在の患者会は一般的にボランタリーな面が強いので、限界もあると思っています。その限界をどうやって超えていくかが課題です。
また、ボランタリーということからか、組織のマネジメントが難しくなります。自分が良かれと思ってやったことが、他のメンバーのやりたいことと違う場合に、簡単に辞められてしまう。さらに患者会運営をやっていく中では、泥水をすするような活動もどうしてもあります。これらをどう解決していくかが課題です。私の運営能力に起因するものかもしれませんが……。

柳澤:規模を大きくしていく上で、患者会を含む多くのNPOなど非営利団体が直面する問題ですよね。ボランタリーとは本来は無償でという意味はありませんが、日本ではそのような意味として捉える方も多く(外部も内部)、ご苦労される点ですよね。

KISEKI Trialの実現。そして新たなステップへ。

柳澤:KISEKI Trialという重要な取り組みを実現させ、成果を出しました。それと時を同じくして、世界はコロナ禍の状況におかれ、我々の生活も変わり、ICTやSNSの進歩、ダイバーシティー&インクルージョンなどの概念も浸透してきました。その上で、これからのアドボカシー活動のあるべき姿をどう考えますか?

長谷川:今まさしく探している状況です。これまでは目の前で起こった困難に声を上げてきましたが、今後は中長期的な問題にあたるべきではないかという思いもありますが、点としてやっていこうと思うことはいくつもあります。
しかし、これまでの活動を振り返ると、問題「点」として取り組んだことが、これまでなかった方々とのつながりの「線」になり、その線が幾重にも重なり、新たな仕組みや制度で多くの人がカバーされる「面」になってきました。それを思うと、これからも重要と思う問題「点」に対し、丁寧に取り組んでいくことかなと思っています。

柳澤:点から線、線から面、その通りですね。その上で、まさに、これからの問題「点」は何があり、どのような活動をお考えですか?

長谷川:大きく3つあるのではと考えています。
1つ目に、がん患者に対する思い込みや偏見、アンコンシャスバイアスを解消すること。一般の方がよかれと思っての患者への声かけに対して、患者のとらえ方は様々です。「元気そうですね」と言われて喜ぶ人と、元気そうに見えるけどそうではないんですととらえる人。また、患者側もそれに対する感情を胸の内に留めてしまっています。これらの解消にいくつかの調査やアンケートも実施してきました。今後、この問題の解消のための活動を行う予定です。
2つ目は、世界の患者会との交流をより進めるということ。安っぽい言葉でいうとグローバル化。この9月にもシンガポールで開催された世界肺癌学会に参加してきました。そこでは、肺という臓器だけをテーマにするのではなく、他の臓器でも生じる特定の遺伝子変異に基づく会、活動にもつながっています。これらの活動資金も10億円を超えるものもあり、とても刺激を受けました。今や、新薬の開発は日本だけでは完結することはなく、世界の活動とシンクロしていかなければと思っています。
最後に、これは喫緊の課題として、様々なアプローチで進めていますが、肺がんの有益な治療に直結する遺伝子検査のことです。最近、会長自身が、がん体験者でもある株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン社や、オンコロの可知さんや濱崎さんらにも協力頂き、全国204病院のDPCデータを用い、15,000人を超える肺がん患者の遺伝子検査の実施状況に関する調査を行いました。
その結果は、約30%の患者さんが、何らかの理由で治療につながる可能性のある遺伝子検査を受けていない、また過去受けた方であっても、近年承認された新しい検査法を受けていない方もおられることが推察されました。この問題に関しては、検査法の進歩が、制度(承認)に追いついていない状況で、これをどうするかが課題です。

非小細胞肺癌患者におけるドライバー遺伝子検査実態調査 全国200病院のDPCデータ予備的解析結果

これからの長谷川一男は?

柳澤:第三者的立場から、今まで伺った話は、「長谷川 一男」という男がいたからこそと思うのですが、これからの「長谷川 一男」はどうなりますか?

長谷川:私の活動の原点は、自身の受け入れがたい肺がんという病気と、肺がんに対する厳しい治療、そしてこれらを受け入れ、こられからどう生きるかというものです。「未来の手紙」というドキュメンタリーなどをやっている理由は、このうちの一つだと思います。
8年近く患者会でやってきたことは、肺がん患者の前に立ちはだかる問題点に、患者会としてできることをがむしゃらにやってきたとは思います。ただ、その中で、患者、患者会だけでは解決できないことも多々あったことも事実ですし、また取り組むべき問題の認識があっても運営面、資金面でも二の足を踏んでしまうものもありました。これからも、もちろん患者会として、やれることはがむしゃらに取り組んでいくつもりです。
ただ、患者会だけではできなかったことについては、医療者や、企業の協力を得て、実施し、その取り組みが社会にインパクトを与えることができるよう、自走できるプロジェクト、組織の必要性を感じています。
先に紹介した15,000人に及ぶ肺がん患者のDPCデータの解析や発表など、患者会だけではできなかったプロジェクトの一つです。このような取り組みの受け皿として一般社団法人アライアンス・フォー・ラング・キャンサーという取り組みにも着手しました。
活動を始めた7年前、今の景色は想像できていませんでした。これからの活動がどのような景色につながっていくかもわかりません。ただ、その時々でやれることをやる。そんな感じです。

Alliance for Lung Cancerホームページ

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