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子宮がん肉腫に対するエンハーツの有効性を確認、PDXモデルでの効果予測も

[公開日] 2023.04.18[最終更新日] 2023.04.18

4月10日、国立がん研究センターは、HER2陽性の子宮がん肉腫の患者を対象に、抗HER2抗体薬物複合体であるエンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン、以下エンハーツ)の有効性を評価した第2相医師主導治験STATICE試験の結果を公表。また、子宮がん肉腫の患者のがん組織を重度免疫不全マウスに移植したPDX(Patient-Derived Xenograft)モデルを作成し、同モデルで化学療法の効果を予測できることを示したと発表し、記者会見を行った。

子宮がん肉腫は、国内における年間の罹患者数が600人程度の希少がんであり、また、発生部位の特殊性からも治療開発が進まなかった。子宮がん肉腫の治療は、腫瘍が限局し、外科手術で完全切除可能な場合は手術を検討するが、早期に術後化学療法を実施しても約半数で再発するという報告がある。一方、切除不能例では、パクリタキセル+カルボプラチンやパクリタキセル+イホマイドの併用療法が一次治療とされているものの、それ以降の薬剤選択肢は限られている。そのため、新たな治療薬の開発が求められていた。

これまでの臨床研究は、統計学的に設定された患者数が参加しなければ研究を完了することができず臨床試験が高いハードルとなっていた。そこで、同センター中央病院では2014年より希少がんの研究開発やゲノム医療を推進するMASTER KEYプロジェクトを基盤に複数の臨床試験を実施。さらに今回は、新たな医療シーズを臨床に応用するトランスレーショナルリサーチも行った。

第2相STATICE試験は、化学療法による治療歴のあるHER2陽性の切除不能子宮がん肉腫患者(N=33人)を対象にエンハーツ5.4mg/kg~6.4mg/kgを投与し、有効性と安全性を検証した第2相医師主導治験。同試験には、ベイズ統計学に基づく統計手法が採用された。この手法の特徴は、期間内に参加可能と考えられる患者数をあらかじめ設定することで、実際に参加した患者数がその範囲内であれば治験薬の有効性を検討できるという点であるという。

(画像はリリースより)

同試験の結果、主要評価項目である画像中央判定での奏効率(腫瘍が30%以上縮小する確率と定義)は、HER2タンパク高発現群で54.5%、HER2タンパク低発現群で70%を示した。副次評価項目である無増悪生存期間(PFS)は6.7ヶ月、全生存期間(OS)は15.8ヶ月であり、子宮がん肉腫の標準治療以降の薬物療法の結果と比較し、良好な結果が認められた。

(画像はリリースより) (画像はリリースより)

また、子宮がん肉腫PDXモデルを用いた非臨床試験では、子宮がん肉腫の外科的手術を受けた患者(N=6人)のがん組織を重度免疫不全マウスに移植したPDXモデルを作成し、エンハーツの有効性を確認。この試験に参加した2人の患者については、STATICE試験において実際にエンハーツが投与されたため、PDXモデルと患者における実際の効果について比較検証した。

その結果、1人の患者(患者A)においては、肝臓の病変が治療開始後より明らかに縮小し、PDXモデルにおいてもエンハーツにより腫瘍がほぼ消失した。またもう1人の患者(患者B)においては、肝臓の病変がいったん縮小したものの、短期間で再び病変が増大した。PDXモデルにおいても腫瘍の増殖は抑えられたものの、患者Aと比較すると縮小効果は小さく、エンハーツを投与した患者における治療効果との相関関係が明らかになった。

(画像はリリースより)

以上の結果より、HER2陽性の子宮がん肉腫患者に対するエンハーツは新たな治療選択肢となりうることが示され、PDXモデルで実際の患者に投与した際の治療効果を予測できる可能性が示唆された。これにより、希少がんなど患者が少なく、大規模な臨床試験の実施が難しい疾患において、PDXモデルが新規治療法の開発に寄与すると示唆された。また、同研究に用いられたベイズ統計学に基づく手法は、大規模な臨床試験が実施できない希少がんにおいては、意義のある研究成果だと考えられるという。

国立がん研究センター中央病院腫瘍内科の西川忠暁氏は記者会見にて、「今回の研究成果を突破口として今後さまざまながん腫でも応用できることを期待している」と述べている。

子宮がん肉腫とは 子宮がん肉腫は、子宮内膜細胞に由来するがんであり、臓器などを覆う上皮細胞から発生するがん腫成分と筋肉などを作る非上皮細胞から発生する肉腫成分の療法が確認されるのが特徴である。

エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)とは HER2を治療標的とする抗体薬物複合体(ADC)である。抗HER2抗体にトポイソメラーゼ阻害薬と呼ばれる薬剤を結合したもの。胃がんと乳がんで薬事承認を取得している。

PDX(Patient-Derived Xenograft)モデルとは マウスに患者から採取した組織を移植する際に免疫による拒否反応を起こさせないようにする目的で、人為的に重度免疫不全状態にしたマウスモデルである。

ベイズ統計学とは ベイズ統計学は統計手法の1つであり、実施した治験で得られた薬剤効果に関するデータのみでなく、過去に得られた情報も用いて効果を評価する方法。

参照元:
国立がん研究センター プレスリリース
ニュース 子宮体がん 子宮がん肉腫

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