3月18日、国立がん研究センターは、次世代シークエンスによる網羅的遺伝子解析によって子宮平滑筋肉腫の病態の一部を解明し、PLK1阻害剤(BI-2536)とCHEK1阻害剤(プレクサセルチブ)が極めて高い抗腫瘍効果を有することを明らかにしたと発表した。
この研究成果は、名古屋大学大学院医学系研究科産婦人科学の梶山広明教授、吉田康将特任助教、同大学医学部附属病院産婦人科の横井暁病院助教、国立がん研究センター研究所病態情報学ユニットの山本雄介ユニット長、国立がん研究センター中央病院婦人腫瘍科の加藤友康科長らの研究グループによるもので、医学誌「Clinical Cancer Research」に3月18日付で記載されている。
肉腫とは悪性軟部腫瘍の総称で、全身のあらゆる臓器で生じ、組織型や発生部位において多彩な特徴をもつ希少がんのひとつ。肉腫の一部である子宮平滑筋肉腫も希少がんであり、病態も解明されていない部分が多い。また、手術にて完全切除が行えたとしても早期に再発をする予後不良ながん腫である。近年、子宮平滑筋肉腫を含む悪性軟部腫瘍に対する新規治療薬の開発が行われているが、進行/再発子宮肉腫に対する生存期間中央値は1~2年程度と効果は限定的である。
今回の研究では、まず子宮平滑筋肉腫患者の組織を次世代シーケンスを用いて網羅的に遺伝子発現を解析。次に同定された細胞周期に関与する複数の酵素に対して、阻害剤の抗腫瘍効果を検証した。
その結果、良性腫瘍と比較すると子宮平滑筋肉腫では512個の遺伝子が発現変動しており、細胞周期と関連のある複数の酵素(PLK1、CHEK1、CDK1、AURKBなど)の活性化が明らかになったという。(図1)また、公共データベースに登録されている子宮平滑筋肉腫のデータを検証したところ、同様の結果が確認され、細胞周期関連酵素の異常な活性化は子宮平滑筋肉腫の治療標的であることが示唆された。
(画像はリリースより)そこで、複数の阻害剤の抗腫瘍効果を確認したところ、PLK1阻害剤(BI-2536)とCHEK1阻害剤(プレクサセルチブ)は、子宮平滑筋細胞の細胞周期を制止し、細胞死へ導くという高い抗腫瘍効果を認めたという。(図2)
(画像はリリースより)さらにCHEK1阻害剤では、シスプラチンやトラベクテジンなどの殺細胞性抗がん剤との相乗効果を確認。マウスモデルにおいて、BI-2536単剤療法とプレクサセルチブ+シスプラチン併用療法は、腫瘍増大を有意に抑制することが確認したという。(図3)
(画像はリリースより)なお、両剤は他がん腫において既に臨床試験が実施されており、ヒトでの安全性データも得られている。今後の展開として研究チームはリリースにて「子宮平滑筋肉腫に対しても早期に臨床試験を企画し、臨床的な効果の検証が期待されます」と述べている。
次世代シーケンスとは 次世代シーケンスとは、DNAやRNAを解析する装置。膨大な量の遺伝子を高速に安価に解析できる。
細胞周期とは 細胞周期とは、細胞分裂により生じた細胞が、再び分裂して2つの細胞になるまでの過程。細胞周期が速いと細胞の増殖速度が速い
参照元:国立がん研究センター プレスリリース