キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法に要する患者1人当たりの総医療費医学誌『JAMA Oncology』より


  • [公開日]2018.05.08
  • [最終更新日]2018.05.08
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キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法に要する費用は薬剤費以外にも白血球除去療法(LCAP)、リンパ球枯渇療法、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法特有の有害事象(AE)サイトカイン放出症候群CRS)の処置費など複数ある
・キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法であるキムリアの患者1人当たりの薬剤費は475,000ドル、イエスカルタは373,000ドルであるが、平均総医療費はキムリアで510,963ドル、イエスカルタで402,647ドルになる
・米国におけるキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法対象患者の年間の推定医療費合計はキムリアで259,000,000ドル、イエスカルタで3,000,000,000ドル以上になる

2018年4月26日、医学誌『JAMA Oncology』にてキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法である急性リンパ性白血病などに適応のあるtisagenlecleucel(商品名キムリア;以下キムリア)、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫などに適応のあるaxicabtagene ciloleucel(商品名イエスカルタ;イエスカルタ)の総治療費を解析した試験の結果がUniversity of Pittsburgh・Inmaculada Hernandez氏らにより公表された。

本試験では、2017年に米国食品医薬品局(FDA)より承認されている2つのキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法であるキムリア、イエスカルタのそれぞれの薬剤費475,000ドル、373,000ドルのみならず、白血球除去療法(LCAP)、リンパ球枯渇療法、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法特有の有害事象(AE)であるサイトカイン放出症候群(CRS)の処置であるトシリズマブ(商品名アクテムラ;アクテムラ)の薬剤費、医師・施設コストなどキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)に要した全ての総医療費を2017年の米国ドルを基準にし、下記の通り11パターン別により計算している。

なお、キムリアによる治療を受けた患者の内、治療開始1ヶ月以内に奏効を示さなかった患者の治療費は成功報酬制度に基づき取り除いて計算している。以上の11パターン別のキムリア、キムリア(成功報酬制度)、イエスカルタの患者1人当たりの総治療費は下記の通りである。

1.白血球除去療法(LCAP)後にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法を実施しない
・キムリア:1207ドル
・キムリア(成功報酬制度):1207ドル
・イエスカルタ:1207ドル

2.白血球除去療法(LCAP)後にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法に対して奏効を示し、サイトカイン放出症候群(CRS)を発症しなかった
・キムリア:478,777ドル
・キムリア(成功報酬制度):478,777ドル
・イエスカルタ:377,253ドル

3.白血球除去療法(LCAP)後にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法に対して奏効を示さず、サイトカイン放出症候群(CRS)を発症しなかった
・キムリア:478,777ドル
・キムリア(成功報酬制度):3,777ドル
・イエスカルタ:377,253ドル

4.白血球除去療法(LCAP)後にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法に対して奏効を示し、グレード1または2のサイトカイン放出症候群(CRS)を発症したがアクテムラによる対処療法を受けなかった
・キムリア:502,464ドル
・キムリア(成功報酬制度):502,464ドル
・イエスカルタ:400,940ドル

5.白血球除去療法(LCAP)後にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法に対して奏効を示さず、グレード1または2のサイトカイン放出症候群(CRS)を発症したがアクテムラによる対処療法を受けなかった
・キムリア:502,464ドル
・キムリア(成功報酬制度):27,464ドル
・イエスカルタ:400,940ドル

6.白血球除去療法(LCAP)後にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法に対して奏効を示し、グレード1または2のサイトカイン放出症候群(CRS)を発症し、アクテムラによる対処療法を受けた
・キムリア:504,276ドル
・キムリア(成功報酬制度):504,276ドル
・イエスカルタ:404,564ドル

7.白血球除去療法(LCAP)後にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法に対して奏効を示さず、グレード1または2のサイトカイン放出症候群(CRS)を発症し、アクテムラによる対処療法を受けた
・キムリア:504,276ドル
・キムリア(成功報酬制度):29,276ドル
・イエスカルタ:404,564ドル

8.白血球除去療法(LCAP)後にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法に対して奏効を示し、グレード3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)を発症したがアクテムラによる対処療法を受けなかった
・キムリア:530,011ドル
・キムリア(成功報酬制度):530,011ドル
・イエスカルタ:411,429ドル

9.白血球除去療法(LCAP)後にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法に対して奏効を示さず、グレード3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)を発症したがアクテムラによる対処療法を受けなかった
・キムリア:530,011ドル
・キムリア(成功報酬制度):55,010ドル
・イエスカルタ:411,429ドル

10.白血球除去療法(LCAP)後にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法に対して奏効を示し、グレード3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)を発症し、アクテムラによる対処療法を受けた
・キムリア:531,823ドル
・キムリア(成功報酬制度):531,823ドル
・イエスカルタ:415,053ドル

11.白血球除去療法(LCAP)後にキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法に対して奏効を示さず、グレード3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)を発症し、アクテムラによる対処療法を受けた
・キムリア:531,823ドル
・キムリア(成功報酬制度):56,823ドル
・イエスカルタ:415,053ドル

以上の11パターン別のキムリア、キムリア(成功報酬制度)、イエスカルタの患者1人当たりの平均総医療費のは下記の通りである。

・キムリア:510,963ドル
・キムリア(成功報酬制度):432,131ドル
・イエスカルタ:402,647ドル

そして、キムリアに適応の患者は米国では毎年約600人にいるが、キムリア(成功報酬制度)の患者1人当たりの平均医療費で年間医療費を計算すると259,000,000ドルである。また、イエスカルタに適応の患者は米国では毎年約7,500人にいるが、イエスカルタの患者1人当たりの平均医療費で年間医療費を計算すると3,000,000,000ドル以上である。

以上の試験の結果よりInmaculada Hernandez氏らは以下のような結論を述べている。”本試験はキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法の総医療費を検証した米国初の試験です。本試験の結果より、キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法の薬剤費以外に要する費用は全体の約7%と患者1人当たり平均30,000ドルから36,000ドルであり、無視できない費用でした。特に、重症度の高いサイトカイン放出症候群(CRS)を発症した患者では平均56,000ドルを要し、その費用は治療費が最も高い患者の医療費に相当します。さらに、成功報酬制度のキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法の場合、奏効を示さなかった場合でもキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法の薬剤費以外の費用の返金はありませんので、患者さんをはじめその関係者はその制度についてしっかり理解すべきでしょう。”

Total Costs of Chimeric Antigen Receptor T-Cell Immunotherapy(JAMA Oncol. Published online April 26, 2018. doi:10.1001/jamaoncol.2018.0977)

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