大妻女子大学での「がんの授業」


  • [公開日]2017.11.28
  • [最終更新日]2017.11.28

 こんにちは、メディカル・プランニング・マネージャーの川上です。

 先日、NPO時代からお世話になっている、大妻女子大学 家政学部 教授の川口美喜子先生からのご依頼で、食物学科 管理栄養士専攻の2年生の学生さんたちに、180分(2コマ)の時間をいただき、「がんの授業」を行ってきました。

川口 美喜子 先生と、がんと栄養

 川口先生とのご縁は、NPO時代、2012年4月に大阪で開催したセミナーのなかで「がん治療中の食事と栄養」とのテーマでご講演いただいたのが、始まりでした。それ以来、度々、セミナーでの講演をお願いしていました。以下に、川口先生のご講演動画をご紹介しますので、是非ご視聴ください。

 ・「がん治療中の食事と栄養」(上述、2012/4/11)
 ・「がんと栄養のこと」( Japan Cancer Forum 2016/8/6 )

 がん患者さん・ご家族にとって、治療中・治療後の日常生活のなかで「食事」「栄養」に関する関心は高く、ここでも正しい情報が必要な領域であることは「オンコロ」としても課題意識を持っており、近い将来、情報発信すべく検討中ですが、今回は、授業のことについてレポートします。

授業の内容

 授業内容については先生から「学生に、がん体験者の生の声を聴かせたい」とのご要望以外、180分を好きなように使ってください、とお任せいただきました。学生さんたちは20歳前後、栄養学を学んでいるので、将来がん患者さん・ご家族の支援に携わる可能性もありますが、まずは、自分や身近な人が、がんになるかもしれない、そのとき、どう向き合ったら良いのだろう?と考える契機になる時間にしたいと考えました。

 がん体験者講師をお願いしたのは「オンコロな人」でもご紹介したことのある、實原和希さん(オンコロな人)。實原さんは学生さん達とも年齢が近いことや、食事や栄養面ではご苦労されたことから、より身近に感じていただけると思ったからです。また、授業の前日、別件でサバイバーの方々が集まる企画があり、そこでこの授業のことをご紹介したところ、大阪のGISTサバイバーで、「がん患者だからこそできること」を発信している「ダカラコソクリエイト」を主宰する谷島 雄一郎さんも、飛び入り参加してくれることとなりました。

 授業は、以下のような枠組みで進めました。
・10分 川口先生の心に残る患者さんとの関わりのご紹介
・40分 川上より、がんをめぐる近年の環境と、がん患者が直面する課題
・40分 實原さんより、ご自身のがん体験
・15分 柳澤より、がん啓発とエンターテイメント
・40分 谷島さんも加わって、学生さんとQ&Aトーク

 實原さんからは「オンコロな人」でご紹介した壮絶ながん闘病について、ユーモアを交えながらお話いただきました。
・仕事もプライベートも充実していた20代で、口内炎から、まさかの舌がんの宣告。
・リンパ節転移があると言われサードオピニオンまで求める。
・腕の組織で舌の半分を再建、水を飲めるまで数日、話せるようになるまでのリバビリ特訓と秘話など

 女子大生の笑いを取るのが難しかった、との後日談もありましたが、おそらく、学生さん達には「笑っていいのかな?」という遠慮があったのではないかと思います。

實原さんの講義の様子

 柳澤からは、オンコロライブでも取り組んでいる、エンターテイメントを通じたがん啓発について。学生さん達と同年代の若いアーティストや、がん体験者が、がんを正しく知ってもらうために懸命に活動していることが紹介されました。こちらは、2017年10月18日の柳澤のブログもご参考ください。

身近にがんと向き合う人がいたら・・

 最後は、谷島さんも加わってQ&Aトークを行いましたが、ここでのやり取りを、ぜひご紹介したいと思います。学生さんから、「身近にがんと向き合う人がいたら、どう接したら良いですか?」一人の人としての素朴な質問に対する谷島さんの回答です。

谷島さんの回答
私から伝えたいことは3点です。

1点目「がんになってもその人の本質は変わらない」
 がんになってもその人自身は変わりません。いい奴はいい奴だし、嫌な奴は嫌な奴。周囲の人ががんになったら、「がん患者の○○さん」ではなく、がんであることはその人の一部ではあることは事実なのだけど、それだけでなく「○○さんという人間そのもの」を見て付き合って下さい。

2点目「理解できないことを理解する」
 先日実施したアンケートの結果では「普通に接して欲しい」が一番多く、一方で多いのが「配慮して欲しい」です。そういった矛盾した気持ちを行ったり来たりするのががん罹患者、またがんだけでなく理不尽に直面した人間の心理かもしれません。そういった心の動きがあることを知り、「理解できないことを理解する」。その上で自分にやれることをやってあげればいいのではと思います。「何とかしようと思い詰めないこと」。それがお互いの良い関係に繋がると思います。

3点目「必要としていることをちゃんと伝えてあげる。居場所をなくさない」
 がんになると、ある日突然社会に「支えられる側」になり、自分の価値を見失い、居場所を無くしていきます。私がそうでした。そんな時「あなたを必要としているよ」というメッセージは本当に嬉しいです。誰しも必要とし必要とされる関係の中で生きていきたいのです。是非、言葉にして「あなたが必要だ」「居てくれて嬉しい」と伝えてください。

 谷島さんは、「ダカラコソクリエイト」で、同じがんを経験した仲間たちと、がん経験者が周囲からかけてもらって“嬉しかった言葉”や“支えられた言葉”を、誰でも日常で使えるLINEスタンプ「癒し忍法 ニャ助とパ次郎」として発表しています。是非ダウンロードして活用してみてください。


*左から實原さん、川口先生、谷島さん

学生さん達からの感想

 後日届いた学生さん達のレポートの一部をご紹介します。
・がんイコール死という訳でなく、乗り越えて次の人生を送っている人もいることが知れてよかった
・私が想像していたようながん患者さんでなく、前向きで驚いた
・「わかってあげられない、ということを理解する」が心に残りました
・食事は、栄養価ももちろん、誰と食べるか、など楽しく美味しく食べられる環境も大切だとわかりました

 感想はびっしり書かれていて、もっとご紹介したいのですが、この辺で・・

がんの授業を振り返って

 改めて、がんをテーマにした授業では、様々な切り口から学びや気づきを深めることができると感じます。

 今回は、栄養学を学ぶ20歳前後の学生さん達への授業でしたが、2011年1月、杉並区の和田中学校で私と柳澤が初めて実施した「がんの授業」の様子は、動画でご覧いただけます。
 2011年1月6日 杉並区和田中学校での「がんの授業」

 文部科学省でも、がん教育についての取り組みの成果をまとめています。
学校におけるがん教育の在り方について(報告)
がん教育推進のための教材

 国の方針もあり、各地で「がん教育」への関心が高まり、自治体でも取り組みが始まっています。がん体験者の声が人々の心に届き、「がんと向き合える社会」が醸成されていくことを願います。

以上

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