前編では希少がんの薬の開発がどうして進まないのかについて、国立がん研究センター希少がんセンター長の川井 章さんからお話を頂きました。後編では「希少がんの治療で後悔しないためには?」についてお話し頂きます。

【特集・「希少がん」を知る(前編)】なぜ、希少がんの薬の開発は、なかなか進まないの?

専門施設においてさえ診断・治療方針に不一致が

 希少がんの診療でまず問題なのは、多くの病院ではまれにしか診ないので、診断が難しいことです。がんの確定診断では、病変から採取した細胞や組織を顕微鏡で見て、悪性か良性か、悪性ならどのようなタイプのがんなのか診断する病理診断が非常に重要です。ところが、フランスで軟部肉腫1,463例について、軟部肉腫を専門とする病理医と専門外の病理医との診断の一致度を調べた研究では、40%以上の症例で何らかの不一致が認められました。わが国でも、消化管に発生する肉腫であるGIST(消化管間質腫瘍)について、専門の病理医と専門外の施設の病理医との診断の一致率を調べたところ、20%に何らかの不一致が見られたとの報告があります。病理診断が違うと適切な治療が受けられず、治るものも治らない結果になる場合があります。

 もう一つの大きな問題は、診療ガイドラインが整備され、ある程度標準治療が確立しているような希少がんにおいても、標準治療の順守率が低いことです。例えば「横紋筋肉腫」というタイプの肉腫においては、まず手術で病変部を完全に切除し、リンパ節を郭清した上で、その後に放射線治療と化学療法を行うのが世界的な標準治療とされています。

 ところが、肉腫の治療を専門にしている大学病院やがんセンターなどに横紋筋肉腫の治療方針についてアンケート調査を実施したところ、「手術の前に術前化学療法を行う」と答えた施設が70%を超え、85%の施設は「広範切除後には放射線治療を行わない」、60%の施設は「リンパ節郭清を実施しない」と回答しました。これは、多くの高悪性度肉腫に対しては正しい治療戦略と考えられますが、横紋筋肉腫においてはけっして高いエビデンスに基づいた治療(標準治療)とはいえません。専門医であっても、1年に1例経験するかどうかというような状況では、各々の希少がんに対して最新、最適な治療を提供することが難しい実態を示していると考えられます。

ガイドライン

がん診断後の生存率

助かるはずの命を助けるために

 標準治療が実施されないと、助かる命が助からなくなる恐れがあり、患者さんにとっては大きなデメリットです。こういった状況を打開するための一つの方策として、集約化の必要性が検討されています。2014年11月に内閣府が行った「がん対策に関する世論調査」の結果によると、約9割の国民は、希少がんの診療においては専門的な病院を指定して患者を集めるしくみ(集約化)が必要(必要+どちらかと言えば必要)と考えていることが明らかになっています。

 しかし、医療の現場からみると、集約化の問題はそれほど単純・簡単ではありません。症例数が少ない病院でも、希少がんの治療をすべてやめてしまうのには抵抗があるかもしれませんし、患者さんも遠くの専門病院よりも家の近くでの治療を希望される方もおられるでしょう。一方、集約する側の病院の受け皿も万全とは言えません。国立がん研究センターでも、2014年6月に希少がんセンターを開設して以来、希少がんの患者さんが増えていますが、手術の待ち期間が延びてきている状況です。また、希少がん治療の診療報酬は一般的に低く、患者さんを集めれば集めるほど赤字になるので、病院として経営面でのメリットはありません。さらに、集約化することによって本当に希少がんの治療成績が向上するという証拠もこれまでのところありません。

 今後は、希少がんの疾患・分野別に専門家が集まって、希少がんワーキンググループを組織し、全国の専門家同士のネットワーク構築や、集約化のメリットとデメリットの多角的な検討、集約化に関する制度的な裏付け、インセンティブの可能性などを議論してゆく予定です。2016年3月には最初のワーキンググループとして「四肢軟部肉腫分科会」が開催されました。他の希少がんでもこうしたワーキンググループを立ち上げ、どうやったらすべての希少がん患者さんに最適・最良な医療を届けられるか検討していく予定です。

 現実の多くの希少がん患者さんにとっては、治療をどこで・どう受けるのが最も良いかわからない、という不安、情報不足が大きな問題だと思います。国立がん研究センター希少がんセンターでは、平日の9時から16時まで、希少がんホットラインを開設し、専任看護師が電話相談に応じています。関東地方以外に住んでいる方や海外の患者さんからも電話があり、患者さんの希望に応じて、各希少がんの治療症例数が多く信頼できる医師のいる病院を紹介することもあります。希少がんに関して、困ったことがあったらホットラインに電話をしてみてください。
DSCN3317

(構成/医療ライター・福島安紀)


人気記事