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治療の目的を見失わず、一人一人がベストな治療に辿り着くために 肺がんの周術期治療における免疫療法の意義を見極めよう

[公開日] 2025.02.28[最終更新日] 2025.03.03

目次

切除可能非小細胞肺がんに対する新しい治療法として、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)による周術期治療(免疫化学療法)に期待が高まってきています。しかしその一方で、術前に免疫化学療法をすることによって、手術ができなくなることを懸念する声が大きいという課題もあります。 そこで今回は、実際に肺がん患者さんを多く診られ、治験参加のご経験も豊富な加藤晃史先生(神奈川県立がんセンター 呼吸器内科)からお話を伺い、改めて肺がん治療における周術期ICIの使用、特に術前免疫化学療法の意義や手術の位置づけについて考えたいと思います。

治療は患者さんの希望を叶える手段

加藤:従来切除可能に分類されるI-III期肺がんにおいては、“手術できてよかったね”という概念がスタンダートとされてきました。しかしながら、周術期、特に術前にICIが導入されてきたことによって、この考え方は変わる可能性があると思っています。 浅野:手術をすることを前提として治療を考えていくことが、必ずしも患者さんにとって最善ではないということでしょうか? 加藤:そもそも患者さんにとって一番の目標は、手術をすることではなく、長生きすること、できればがんを治すことですが、全ての患者さんに対してそれが実現できる治療選択肢は、今のところないのが現状です。その中で、手術は患者さんの目的にできるだけ近づく手段のひとつであったわけです。 そして最近になって、この手術という従来使われてきた手段と、術前免疫化学療法という新しい手段を併用することで、がんを治す・長生きできる確率を高めることができる、というデータが出てきました。患者さんの目標に近づく可能性が高まるのであれば、免疫化学療法を使いたい、という考えになっていくのは当然の流れですよね。 しかしここで問題になるのが、術前に免疫化学療法を使った患者さん全員が手術に進めるわけではない、という点です。免疫化学療法を使ったことで手術ができなくなることは、患者さんにとっても、また医師、特にこれまで手術を先行して実施してきた外科医にとっても、都合が悪い事態だ、という考えに陥ってしまうのです。 浅野:せっかく免疫化学療法という新しい手段が出てきたのに、手術ができなくなることを懸念して免疫化学療法の使用を躊躇したり、術前に免疫化学療法を使ったことで手術ができなくなった場合に落胆する、という状況が発生し得るのですね。 加藤:そうならないためにも、この場合の“手術ができなくなる”ことの意味を深く理解することが大切です。

手術ができない、の正しい解釈

浅野: 術前に免疫化学療法を使ったことで、どのような場合に手術ができなくなるのか、また患者さんがその状況をどのように受け入れるべきか、具体的に教えてください。 加藤: 手術ができなくなる理由のひとつは、術前免疫化学療法による有害事象(特にICI由来の免疫関連有害事象;irAE)です。これは実臨床で強く懸念されている点であり、有害事象によって手術ができなくなる事態は確かに回避すべきです 。実際、臨床試験(KEYNOTE-671)では、全体の6.3%が有害事象により手術を行っていません。しかし、副作用管理に長けている日本においては、irAEが出た症例のほとんどが、ステロイド等を使った適切なマネジメントによる回復を待った後、手術に移行することができるのです。また、irAEはICIの効果の裏返しとも言われており、仮に手術ができなくなったとしても、術前ICIが長期にわたって奏効するケースも少なくないため、結果的に長生きするという目標は達成できているわけです。 もうひとつ手術ができなくなる理由として、術前免疫化学療法が奏効せずに増悪することが挙げられます。この場合、(術前に免疫化学療法をやらずに)手術を先行していたとしたら予後はどうだったでしょうか? この患者さんの場合、非常に増殖スピードが速いがんであることや、既に目に見えないがん細胞が肺以外にも飛んでいることなど、手術という局所的な制御だけでは不十分な予後不良がんであることが予想されます。 つまりこのケースでは、手術ができたとしてもすぐに再発してしまい、肝心な患者さんの予後延長という目標達成にはつながらない可能性が高いです。むしろ予後延長の期待よりも、合併症や侵襲性のリスクの方が上回る不要な手術にもなりかねません。ですので、術前免疫化学療法をやったせいで手術のチャンスが奪われた、という考えにはならないでほしいのです。 浅野:手術をしても再発リスクが高い患者さんを、手術する前に知ることができる、というメリットとして捉えることができるのですね。 加藤:手術を先行する従来の治療法では、事前にがんの性格を知ることは難しく、手術して初めて予後(再発リスク)を予測することができました。しかし術前免疫化学療法に対する反応を見ることで、ある程度手術前にひとりひとりのがんの個性を知ることができ、個々の患者さんに本当に価値がある治療(手段)を選択できるようになります。まさにこれは個別化治療ですよね。 浅野:増悪によって手術ができなくなった場合には、次の治療法はどんな選択肢がありますか? 加藤:遠隔転移がある場合には、進行期肺がんとして化学療法を実施していくことになります。一方で、肺の原発巣のみの増大であれば、切除不能III期として放射線療法を実施します。また、実臨床では、術前免疫化学療法を開始後に増大傾向が見られた時点で、手術を前倒しして実施することもあります。無理せず術前免疫化学療法は途中で中断し、手術をしてから術後療法として薬物療法をしっかり使っていく、という方針もあります。

実臨床における手術可否の判断の実態

浅野: irAEであればステロイドによるマネジメントをすることで、また増悪であれば手術を前倒しすることで、術前免疫化学療法が完遂できなくても、実臨床では手術のチャンスを探っていく方法があるのですね。 加藤:臨床試験の枠組みでは、切除の可否をプロトコル基準に則って判断しているため、厳しい判定になっていますが、実臨床では本当に手術ができなくなる症例はほとんどいない、ということを前提として知っていてほしいのです。実際、第65回肺癌学会学術大会で発表されたCreGYT-04試験では、術前免疫化学療法を受けた日本人120例におけるリアルワールドデータにおいて、手術できなかった症例は120例中6例、患者さん自身の手術拒否を除くと4例(irAEが1例、増悪が3例)でした。日本の実臨床において手術ができなくなる症例数は、臨床試験で懸念されていた数字よりも、少ないことが分かると思います。

これからの肺がん治療における術前免疫化学療法の意義

浅野:術前免疫化学療法は、従来の手術先行の治療と比較して、がんを治したいという患者さんの目標を実現できる確率が高めることができる治療であること、そしてこれまで術後にしか分からなかった再発リスクを事前に予測できること、という二つのメリットがあることを理解いたしました。 加藤:患者さんが手術の可否で一喜一憂する背景には、手術によって目に見えるがんを手術で取り切った瞬間感じることができる、“がんが治った”という希望があるのだと思います。しかし実際には、体内からがん細胞を根絶できておらず、がんを治す・長生きする、という本来の目標とはマッチしていないケースもあるのです。それを、術前免疫化学療法の登場によって術前にある程度見極められるようになってきた、つまり“手術できてよかったね”が全例に当てはまるわけではなく、“不要な手術を回避できてよかったね”が言える時代にシフトしていくのだと私は考えています。

“自分にとって”ベストな治療を選択するために

浅野:最後に、読者に向けたメッセージをお願いいたします。 加藤:がん治療に関するたくさんの情報があふれる中、さらに選択をしていくことは、大きなご不安に包まれるなかでの作業となり、悩まれることも多いとお察しします。 肺がんを始めとして、がん治療に関する研究は日進月歩であり、何がベストかと考えていくためには、情報の刷新も必要です。一方、複数の選択肢にはそれぞれ特徴があり、そのなかでどれかひとつだけが、どなたにとってもベスト、とはなりません。皆さんが大切にしたいこと、たとえば生活スタイルや価値観などを尊重した上で、ご自身にふさわしい選択を医療者と話し合って決めていくことが、治療への不安やその後の満足感につながっていくことが多いように感じています。 こういった情報が皆さんにとって何かの形でプラスになることがあれば嬉しいです。
特集 肺がん ICI周術期

浅野理沙

東京大学薬学部→東京大学大学院薬学系研究科(修士)→京都大学大学院医学研究科(博士)→ポスドクを経て、製薬企業のメディカルに転職。2022年7月からオンコロに参加。医科学博士。オンコロジーをメインに、取材・コンテンツ作成を担当。

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