前編はコチラ
→【特集・小児がん拠点病院の現状と課題(前編)】患児と家族が専門性の高い治療とケアを安心して受けられるためには

中編はコチラ
→【特集・小児がん拠点病院の現状と課題(中編)】患児と家族が専門性の高い治療とケアを安心して受けられるためには

小児がん拠点病院の2015年度現況報告書によると、造血器腫瘍、固形腫瘍、脳・脊髄腫瘍のいずれの疾患も拠点病院での診療実績が増加しており、集約化は少しずつ進んでいるようです。この動きに伴い、より質の高い治療やケアを提供できるよう拠点病院の「質的評価」の仕組みづくりも重要な課題となっています。一方、小児がん拠点病院の指定要件として集約化とともに「医療連携」体制を構築していくことも求められていますが、その現状はどうなっているのでしょうか。

■症例検討会を通し地域の小児がん医療ネットワークを作る

さらに、集約化の問題とも深く関連しますが、早急に構築しなければならないのが「医療連携」です。大阪府の場合、集約化とともに医療連携も少しずつ進んできましたが、隣接する奈良県や和歌山県の医療機関との連携はこれからです。また、再発・転移した難治性の患者に対する連携もそれほど活発に行われていないようです。「ご家族がセカンドオピニオン外来を利用して当院を受診され、患者さんにとってプラスになるようであれば治療を引き受けているのが現状です。当院がいくら連携したいと思っても先方の施設からの申し出がないと動けないのが正直なところです」と大阪市立総合医療センター副院長の原純一さんは苦渋をにじませます(写真1)。

こうした状況を打開するには月並みではあるものの学閥などを超えて“顔の見える関係”を築いていくしかありません。大阪市立総合医療センターでは大阪府、奈良県、和歌山県の小児がん医療に取り組む施設に呼びかけ、2016年度より年3回、疾患別に症例検討会を開催する予定です(写真2)。「この4年間で地域の中核病院においても拠点病院を中心に小児がんの集約化と医療連携をしなければならないという認識が生まれてきたように思います。定期的に集まることによって次の連携へと発展させていきたい」と原さんはいいます。

大阪府同様に症例検討会を通して、その地域ごとの小児がん医療ネットワークを作る動きは、ここ数年、各ブロックで始まっています。

IMG_1773
写真1
大阪市立総合医療センター副院長の原純一さん

IMG_1777
写真2
小児がん拠点病院の一つに選定された大阪市立総合医療センター。近畿地方とくに大阪府、奈良県、和歌山県の小児がん医療の集約化と均てん化に大きな役割をはたすことが期待されている。

■一般小児科医とも連携し拠点病院に適切に紹介できる体制を

一方、医療連携において公益財団法人「がんの子どもを守る会」理事長の山下公輔さんが高く評価しているのが東京都の取り組みです。東京都では「東京都小児がん診療連携協議会」を新設し、東京都にある2か所の小児がん拠点病院、都が独自に認定した11か所の東京都小児がん診療病院、東京都医師会、患者代表らとともに都内における医療連携体制の整備を行ってきました。医師を中心に構成されている診療連携部会では2014年度に一般の小児科医を対象とした「小児がん診断ハンドブック」(写真3)を作成し、都内の診療所や病院に配布するとともに東京都福祉保健局のホームページからもダウンロードできるようにしました。

このハンドブックは、地域の小児科医が小児がんの疑いのある子どもをできるだけ早く発見し、小児がん拠点病院や東京都小児がん診療病院などの専門医療機関にすみやかに紹介することを目的に作られたものです。「こうした取り組みは、最新かつ最適な治療を受けるうえでとても心強いと感じています。私たちも各支部を通して東京都の取り組みを全国に広め、同様の医療連携が各都道府県で行われるように後押ししていきたいと思っています」と山下さんは話します(写真4)。そして、このように行政が本腰を入れて小児がん対策に取り組むようになったことも拠点化の恩恵の一つだと評価します。ただ、自治体によっては小児がん対策の担当者が決まっていなかったり成人のがんと兼務したりしているところもあり、行政の取り組みについても地域格差があることは否めません。「自治体の小児がん対策の格差を縮めていくことも今後の課題の一つになってくるでしょう」と山下さん。

小児がん拠点病院が設置されたことで、ようやく小児がん医療体制の整備が具体的に動き出しました。しかし、特に地方で暮らす患児や家族は新しい制度の恩恵を実感できている人は少ないのではないでしょうか。小児がん対策は2015年12月に発表された「がん対策加速化プラン」、そして2017年度から始まる「第3期がん対策基本計画」などでも引き続き重点的に整備が進められていくことになっています。フォローアップ体制をはじめ解決しなければいけない課題は多いものの、まずは“救える命を確実に救う”ために小児がん拠点病院を中心に患者の集約化と医療連携の強化に努め、最新かつ最適な治療を提供できる体制と患児と家族が安心して治療や療養に専念できるトータルケアが全国で一日も早く構築されることを願います。

IMG_1752

写真3
東京都小児がん診療連携協議会では「小児がん診断ハンドブック」を作成し、地域の一般小児科医と小児がん拠点病院の連携づくりに取り組んでいる。

IMG_1761
写真4
公益財団法人「がんの子どもを守る会」理事長の山下公輔さん

取材・文:医療ライター・渡辺千鶴


人気記事