がん経験者の社労士だから分かるがんとお金の問題~知ることから始める支援制度の活用法~社会保険労務士 清水公一さん


  • [公開日]2021.03.02
  • [最終更新日]2021.03.03

日進月歩で開発が進むがん治療。治療の選択肢が増えることは、患者さんにとって大変喜ばしいことですが、一方で治療に多額の費用を要するケースも多々存在します。高額療養費制度などの公的なものや健康保険組合独自の制度など、金銭的な補助を受けられる機会は多数存在しますが、それら一つひとつの申請や活用方法は煩雑。どのように活用したらよいか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

今回は、ご自身も肺がん経験者で、現在は社会保険労務士(社労士)としてがん患者さんの支援に当たる清水公一さんに、社労士を目指したきっかけやがんサバイバーだからこそわかるがんとお金の問題、その相談先などについてお話を伺いました。

清水 公一(しみず こういち)さん
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー、
両立支援コーディネーター
肺がん患者会「ワンステップ」顧問
キャンサー・ベネフィッツ顧問
社会保険労務士事務所Cancer Work-Life Balance代表

がん患者さんへの貢献度が高い社労士に

茂木:本日はよろしくお願いいたします。本日のテーマは「がんとお金の問題」ですが、さまざまな問題があるかと思います。まずは、簡単に自己紹介からお願いいたします。

清水さん:はい、清水公一、43歳。肺がん患者の会「ワンステップ」の顧問をやらせていただいています。2012年に肺腺がんを発病しまして、ステージ4。遺伝子変異はなく、原発が右上葉、そのあとリンパ節、脳、副腎、脊髄に転移し、 癌性髄膜炎にもなりました。その際に、障害年金を受給していたことがあります。

がん罹患後に、社会保険労務士になりました。その他の資格としては、ファイナンシャルプランナーや、両立支援コーディネーターなどを持っています。

2012年10月に肺がんであることがわかり、2014年くらいまでは考えることといえば、治療のことがメインでした。2015年に肺がん患者会のワンステップに参加し、その頃から、2回目の休職をしたこともあってお金や支援制度のことなどが気になり始めました。

就業規則がどうなっているのか、有給休暇は時間単位で取得できるのか、 休業・休職制度がどうなっているのか、休職期間においてはいつまでが有給でいつからが無給になるのか。実際、がんになるまで就業規則なんて見たこともなかったし、存在すら忘れかけていたのですが、いざ読んでみたら「なんだこれ、難しいじゃないか」と思った記憶があります。

そこで健康保険組合や傷病手当金のことを調べ、経験していくうちに、支援制度の使い方や会社への伝え方、休職の仕方、復帰の仕方などがわかってきました。また、2015年の終わりからは障害年金を受給していたのですが、このときに社会保険労務士という仕事があることを知りました。有償で障害年金の手続きができるのは社労士だけで、私もそのときは相談から手続きまでを社労士の方にお願いして、そのおかげで受給にいたりました。

障害年金の手続きもできるし、就業規則や支援制度も社労士が行う業務の範疇です。もし自分が治ったら、こういう形でがん患者さんに貢献できるような仕事をしたいなと思うようになり、2016年頃から資格の勉強を始めました。

茂木:最初は社労士さんにサポートをしてもらい、ご自身も支援側に回りたいと思うようになったのですね。

清水さん:そうですね。せっかくがんになったという言い方は語弊がありますが、そういう経験をしたからこそ、何かしらがん患者さんに貢献、お役に立てるようなことをしたいなと思っていたので、社労士という仕事は、それができる仕事だなと思いました。

茂木:こうした支援の知識というのは、ファイナンシャルプランナーの資格で学ばれるものとはまったく種類の違うものなのでしょうか?

清水さん:そうですね。私が取得したファイナンシャルプランナー2級では、労働基準法などは勉強しないです。年金や健康保険は勉強しますが、社労士とは深さが違いますね。

あと、障害年金に関しては、社労士の独占業務です。そういう仕事に関しては、やはり国家資格である社労士のほうが、貢献度が高いと思っています。

がんになっても仕事を辞めないで

茂木:清水さんご自身ががんを経験したからこそわかる、患者さんにいちばん伝えたい、知ってほしい「がんとお金の問題」とは、どのようものがありますか。

清水さん:働いている方に関しては、がんの告知、がんの疑いがわかってから治療に入るまでの間に、統計では2割くらいの方が仕事を辞めている現状があります。そうなると、その後に活用できる支援制度がかなり変わってくるので、その時点では「仕事を辞めなくていいんだよ」と強く訴えたいですね。

茂木:働き続けていれば、有休もありますね。

清水さん:はい、会社によっては休職もできるし、傷病手当金も使うと1年6か月は収入の約3分の2が保障されます。仕事を辞めたあとの雇用保険も関係してきます。わたしのこの年表を見てもらえるとわかりやすいかと思いますが、休職を使いながら、その間に有休も入れて、のらりくらりとなんとかやっていける。


(がん発症からのご年表)

その「のらりくらり」というのが会社にとっていいのか悪いのかはわかりませんが、治療と平行して働いていける。会社に籍があるというのは、厚生年金にも入れますし。私の会社には、健康保険組合の付加給付もありまして……付加給付を知っていますか?

茂木:いえ、知りません。

清水さん:日本では医療費の自己負担限度額が平均年収の400万円ぐらいで、およそ9万円弱ぐらい に設定されているのですが、健康保険組合がその自己負担限度額を独自に設定して……2万5000円くらいが多く、それ以上の額になったら、その分を補填してくれるという制度です。

私の会社では、月額で払うのは最高でも2万5000円だったんです。その額は、健康保険組合によって違いますし、最近では付加給付の制度自体をもっていない会社もあります。ただ、大企業の場合は、今でも付加給付制度がある企業が多いと思います。「会社がこんなことやっているんだ」というのは、私も病気になってから初めて知ったことです。

茂木:その情報は、会社側から伝えられたものですか?それとも清水さんご自身が雇用契約書などをみて知ったことですか?

清水さん:病気になったらお金が自動的に振り込まれていたんです。「付加給付」という名目で。そこで初めて「こんなのあったんだ」となったわけです。

茂木:何か患者さんご自身で必要な手続きはないのでしょうか?

清水さん:はい、自分で手をあげる必要はないです。これはかなり大きいですよ。協会けんぽや国民保険ではやっていなくて、大企業の健康保険組合や公務員などの共済組合でやっているものになります。

多岐にわたる支援制度、まずは知ることから

茂木:今は清水さんご自身、会社を立ち上げられて相談を受ける側となりましたが、寄せられる相談の内容としては、どういったものが多いでしょうか?

清水さん:「障害年金」の代理請求をコアビジネスのひとつにしているので、その関連の問い合わせがいちばん多いですね。障害年金の手続きはかなり煩雑で、私も障害年金の存在を知ったときに自分でも調べてみましたが、体調があまりよくないなかでこれはちょっと難しいなと。自分も社労士に依頼しましたし。

こちらに支援制度をまとめて書いてみました。


(各種支援制度まとめ)

問い合わせという意味では、皆さんよくご存じなので「高額療養費制度」のことはあまり聞かれませんね。「医療費控除」についてはときどき聞かれます。働けなくなった場合は「傷病手当金」というのもあるんですよと、お知らせしていますね。あとは、やはり「障害年金」は、ステージが進んでいる方は、皆さん該当する可能性があり関心があるのかなと思います。

茂木:こう見ると、さまざまな支援の種類があるんですね。これらは、がんや他の疾患に罹患するまではなかなか触れることの少ない情報ですね。

清水さん:そうですね。働いている人に関しては就業規則を見て、自分の会社の休職制度がどうなっているのか、どうなったら退職になるのか、それが解雇扱いになるのか自然退職になるのかなど、その辺は確認してもらうようにしています。

茂木:公的医療制度としては、この表の中でいうと……。

清水さん:傷病手当金と障害年金が病気により働けなくなった方の生活補償の核となります。傷病手当金は働いている人しか使えませんが、障害年金は働いていない方でも障害状態になれば支給されます。ただし、傷病手当金は国民健康保険では使えないので、すべての方に当てはまるわけではありません。

あと、生活が苦しい場合の支援の相談は、これまでのところ私にはきていないですね。患者会も、経済状況が苦しい方はあまりいらっしゃらないのかなという印象です。

茂木:そういう方は誰に相談をすればよいのでしょうか?相談支援センターなどでしょうか?

清水さん:そうですね。そういうところに相談してくださっているとよいのですが……。

茂木:情報格差の問題もあるかもしれませんね。経済的に苦しい状態で、情報にアクセスできず、支援制度も知らず……。そんな療養を続けていくのは大変ですね。

清水さん:そうですね。やはり最初はお金と支援制度というよりは、治療のこと。よほど切迫している方は別ですが、多くの場合、しばらく経ってからお金のことが気になりだすというか。

最初は生きるためにどうしたらいいか、ということばかりなので。しばらくしてから生活の質を向上させるためにはどうしたらいいかを考えるようになるんですね。最初からお金や支援制度のことに関心がある方は少ないと思います。

茂木:だからこそ最初に「あわてて仕事はやめないで」と。まず、そこだけは伝えたい、と。

清水さん:そうです。あとは、インターネットで正しい情報にありつくのって、かなり難しいですよね。とくに罹患した直後だと、正しい情報にたどり着く前に、正しくない情報にたどり着いてしまうことが多いです。

ですので、例えば就労している人全員に対して、医療機関で「仕事は辞めなくていい」と伝える。そんな取り組みがあってもいいのかなと思います。

あと、あまり認知されていないのが、病状により働けなくなり退職せざるを得ない方たちの支援制度です。退職後の雇用保険とか、退職した場合に国民健康保険の減免ができることとか、住民税の減免ができること。この辺りはあまり知られていないことなのかなと思います。

退職が会社都合になるのか、自己都合になるのかによっても違うのですが、退職理由が健康上の理由で働けないとなるなら、減免ができると思います。住民税の保険料も前年の収入に対して課税されるので、かなりの額になる可能性があります。ですので、退職せざるをえない状況になった場合は、使っていただきたいなと思います。

あとは「健康保険の任意継続」ですかね。「国保に移すのと、任意継続するのはどっちがいいの?」という話をよく聞くんですけど、収入が高くて家族がいる場合は、任意継続のほうが得になることが多いです。これに関しても、加入している健保組合や市町村の窓口に退職した場合の保険料がいくらになるのかを問い合わせて判断するのがよいと思います。

「退職後の雇用保険」に関しては、退職後の働く能力と働く意欲がないともらえない、ということがありますので、難しいところがあります。

茂木:これらを一気に理解してくださいというのは、なかなか難しいかもしれませんね。実際は、その時々で社労士さんに相談したり、市町村の窓口に相談したりして、対応していけばよいのでしょうか?

清水さん:そうですね。内容を理解するというより、まずはこういう制度があるということを知るのが大事だと思います。

社労士はどうやって探す?

茂木:清水さんの会社のホームページには、こうした制度に関するさまざまな情報が掲載されており、そこを見れば全部わかりそうだなと思いました。

清水さん:がん患者さんがまずどこに相談したらいいかというと、最初はウェブでしたら「がん情報サービス」、対面なら「がん相談支援センター」に行くのがいいかなと思います。正確な情報が揃っています。日本対がん協会は「がん相談ホットライン」という支援を提供しています。この電話相談には主にソーシャルワーカーさんが参加しており、日によっては医師、社労士さんもいます。無料で相談できますので、こちらを利用されてもいいかなと思います。

茂木:相談の過程で障害年金などの話になった場合、「ここから先は社労士さん」という流れなんですね。

清水さん:そうです。まずは障害年金のことを知っていただき、自分でできそうだと思ったらご自分で申請してもいいですし、難しそうだなとなったら社労士に依頼するということになります。

茂木:実際にお願いする場合、障害年金の申請に特化した社労士さんにお願いするのがよいのでしょうか?

清水さん:はい、基本的には特化している方にお願いしたほうがいいと思います。社労士が取り扱う分野はとても広く、とくに障害年金の業務は割と特殊なところがありまして、手続きがかなり煩雑です。

いわゆる社労士事務所というのは、会社の労働相談や給与計算、就業規則の作成、社会保険の加入手続きなどを行っている社労士さんがほとんどです。そこには障害年金が含まれていません。ですので、そういう社労士さんは障害年金については得意ではないかなと思います。

茂木:障害年金に特化した社労士さんはどのように探したらよいのでしょうか?

清水さん:まずは、インターネット検索かと思います。ただ、僕も開業したばかりなので、検索にヒットしないんですよ(笑)

医師が知らないことも

茂木:がんでも障害年金をもらえる可能性があるということは、以前に比べると認知が高まってきたかなと思いますが?

清水さん:そうですね。ただ、まだ知らない先生方も結構いらっしゃるようで、たまに先生から電話がかかってくるときがあります。診断書の件で「本当にもらえるの?」って。

茂木:仮に、地方に住まわれている方で、社労士さんがあまり周りにいない、あまり専門的な方が見当たらないような場合、たとえば離島に住んでいるような方でも清水さんにお願いすることは可能なのでしょうか?

清水さん:はい、大丈夫です。私の場合、今のご時世(新型コロナウイルス感染症の流行)もありまして、完全にリモートでお話を伺い、郵送で書類などの受け渡しを行っています。書類の提出も全国どこの年金事務所でも受付可能なので、ご自宅から近い社労士にこだわることはないと思います。

少し専門的な話をすると、がんの障害年金の場合、初診日から1年6か月を迎えた日が障害認定日になるのですが、そのときに障害状態に該当していれば、さかのぼって支給されることになります。

しかし、最近では治療薬が進歩しており、1年6か月を経過した以後に障害状態になるという方が多くなっています。その場合、請求した月の翌月からが支給対象となります。ご自身で手続きを進めるよりも私に依頼いただければ2か月ぐらい早く申請手続きができると思うので、報酬を支払っても患者さんにとってメリットがあると思います。

茂木:人工肛門になったら設置日から 、薬での副作用等は1年6か月など、その方の障害状態によって障害認定日には若干前後があるのですね。

清水さん:例外規定があるということです。そこに入らない方は、1年6か月を待たないと支給されない。下肢や腕の切断などは切断した日、人工肛門(ストーマ)であればそれを設置した日から支給されるなど、規定があります。こうした規定はいくつかあるのですが、それ以外は1年6か月が経過しないと認められていないということです。

茂木悪心、嘔吐、貧血、体重減少などの全身衰弱…これらで障害年金を受ける状態だと認識するのは、知っていないとなかなか難しいかもしれませんね。

清水さん:そうですね。障害年金は請求してはじめて支給されるものです。知らないと自分から手をあげられませんよね。なおかつお医者さんや病院のソーシャルワーカーさん、年金事務所の相談員さんであってもがんで障害年金を受け取れるという事実を認知されていない方もいるので、普及活動をする意味があるかなと思っています。

がん保険には入るべき?

茂木:清水さんは保険会社にお勤めだったということで、民間のがん保険に入るべきなのか否か。かつては販売する側でいらっしゃり、その後支給される側になられた経験をふまえて、どのようにお考えですか?

清水さん:まず、必ず入らないといけない人というのは、遺伝性大腸がんや遺伝性乳がんなど遺伝的な要素がある人ですね。遺伝子的因子を調べていないにせよ、こうしたがんを若い年代で頻発している家系の場合は、厚めに入るべきだと思います。

その他の人の場合は、価値観次第です。がんになったとき、がん保険があるに越したことはないですが、がんにならない人もいますからね。難しいですね。

また、加入するとしてもいろいろなタイプがありますよね。一時給付金がしっかりもらえるタイプや、治療していくごとに手術給付金、入院給付金、抗がん剤治療するごとに支給されるタイプなど……。迷うところではあると思います。

茂木:私も数年前に加入しましたが、いちばん迷ったのが先進医療などの特約についてでした。多少がん治療について学んではいたのですが、それでも「これつけても正直どっちに転ぶかわからないな」と思いました。

清水さん:先進医療の特約は、月額でいうと100円くらいでものすごく安いんです。なぜかというと、使う人がいないからです。それに、がん保険の先進医療は、特約をつけただけでは使えないことが多いです。別の言い方をすると、使える位置にたどりつかないんです。

「こういう先進医療があり、これを受けたいです」と主治医に言って、はじめて使えるようなものなんですね。がんの場合だと、重粒子線や陽子線治療が多いと思うんですけども、なかなか普通の病院ではやっていない。やっていない病院の主治医が自分から「あそこの病院に行って重粒子線を受けてきてください」とはなかなか言わないと思うので、自分で手をあげて受けたいと言うしかない、というような状況です。

ですので、先進医療をつけている方には「調べるだけ調べてみて」とは伝えますが、それも実際には難しいです。ただし、もし私が今からがん保険に入るなら、先進医療はつけますね。

茂木:ありがとうございます。最後に読者へお伝えしたいメッセージをお願いします。

清水さん:がんに罹患すると、治療はもちろんですが、生活のうえでも多くの決断をしなければならないと思います。治療の決断はもちろん重要ですが、就労、支援制度、お金の問題も大事です。それらの問題を解決することは広義のQOL向上に繋がると、自身の患者としての経験から強く感じました。何かわからないことや、不安なことがあれば、がん相談支援センターなど無料で相談できる場所もたくさんあると思うので、ぜひ勇気を出して相談してみてください。

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