目次
清水 公一(しみず こういち)さん
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー、
両立支援コーディネーター
肺がん患者会「ワンステップ」顧問
キャンサー・ベネフィッツ顧問
社会保険労務士事務所Cancer Work-Life Balance代表
がん患者さんへの貢献度が高い社労士に
茂木:本日はよろしくお願いいたします。本日のテーマは「がんとお金の問題」ですが、さまざまな問題があるかと思います。まずは、簡単に自己紹介からお願いいたします。 清水さん:はい、清水公一、43歳。肺がん患者の会「ワンステップ」の顧問をやらせていただいています。2012年に肺腺がんを発病しまして、ステージ4。遺伝子変異はなく、原発が右上葉、そのあとリンパ節、脳、副腎、脊髄に転移し、 癌性髄膜炎にもなりました。その際に、障害年金を受給していたことがあります。 がん罹患後に、社会保険労務士になりました。その他の資格としては、ファイナンシャルプランナーや、両立支援コーディネーターなどを持っています。 2012年10月に肺がんであることがわかり、2014年くらいまでは考えることといえば、治療のことがメインでした。2015年に肺がん患者会のワンステップに参加し、その頃から、2回目の休職をしたこともあってお金や支援制度のことなどが気になり始めました。 就業規則がどうなっているのか、有給休暇は時間単位で取得できるのか、 休業・休職制度がどうなっているのか、休職期間においてはいつまでが有給でいつからが無給になるのか。実際、がんになるまで就業規則なんて見たこともなかったし、存在すら忘れかけていたのですが、いざ読んでみたら「なんだこれ、難しいじゃないか」と思った記憶があります。 そこで健康保険組合や傷病手当金のことを調べ、経験していくうちに、支援制度の使い方や会社への伝え方、休職の仕方、復帰の仕方などがわかってきました。また、2015年の終わりからは障害年金を受給していたのですが、このときに社会保険労務士という仕事があることを知りました。有償で障害年金の手続きができるのは社労士だけで、私もそのときは相談から手続きまでを社労士の方にお願いして、そのおかげで受給にいたりました。 障害年金の手続きもできるし、就業規則や支援制度も社労士が行う業務の範疇です。もし自分が治ったら、こういう形でがん患者さんに貢献できるような仕事をしたいなと思うようになり、2016年頃から資格の勉強を始めました。 茂木:最初は社労士さんにサポートをしてもらい、ご自身も支援側に回りたいと思うようになったのですね。 清水さん:そうですね。せっかくがんになったという言い方は語弊がありますが、そういう経験をしたからこそ、何かしらがん患者さんに貢献、お役に立てるようなことをしたいなと思っていたので、社労士という仕事は、それができる仕事だなと思いました。 茂木:こうした支援の知識というのは、ファイナンシャルプランナーの資格で学ばれるものとはまったく種類の違うものなのでしょうか? 清水さん:そうですね。私が取得したファイナンシャルプランナー2級では、労働基準法などは勉強しないです。年金や健康保険は勉強しますが、社労士とは深さが違いますね。 あと、障害年金に関しては、社労士の独占業務です。そういう仕事に関しては、やはり国家資格である社労士のほうが、貢献度が高いと思っています。がんになっても仕事を辞めないで
茂木:清水さんご自身ががんを経験したからこそわかる、患者さんにいちばん伝えたい、知ってほしい「がんとお金の問題」とは、どのようものがありますか。 清水さん:働いている方に関しては、がんの告知、がんの疑いがわかってから治療に入るまでの間に、統計では2割くらいの方が仕事を辞めている現状があります。そうなると、その後に活用できる支援制度がかなり変わってくるので、その時点では「仕事を辞めなくていいんだよ」と強く訴えたいですね。 茂木:働き続けていれば、有休もありますね。 清水さん:はい、会社によっては休職もできるし、傷病手当金も使うと1年6か月は収入の約3分の2が保障されます。仕事を辞めたあとの雇用保険も関係してきます。わたしのこの年表を見てもらえるとわかりやすいかと思いますが、休職を使いながら、その間に有休も入れて、のらりくらりとなんとかやっていける。
(がん発症からのご年表)
その「のらりくらり」というのが会社にとっていいのか悪いのかはわかりませんが、治療と平行して働いていける。会社に籍があるというのは、厚生年金にも入れますし。私の会社には、健康保険組合の付加給付もありまして……付加給付を知っていますか?
茂木:いえ、知りません。
清水さん:日本では医療費の自己負担限度額が平均年収の400万円ぐらいで、およそ9万円弱ぐらい に設定されているのですが、健康保険組合がその自己負担限度額を独自に設定して……2万5000円くらいが多く、それ以上の額になったら、その分を補填してくれるという制度です。
私の会社では、月額で払うのは最高でも2万5000円だったんです。その額は、健康保険組合によって違いますし、最近では付加給付の制度自体をもっていない会社もあります。ただ、大企業の場合は、今でも付加給付制度がある企業が多いと思います。「会社がこんなことやっているんだ」というのは、私も病気になってから初めて知ったことです。
茂木:その情報は、会社側から伝えられたものですか?それとも清水さんご自身が雇用契約書などをみて知ったことですか?
清水さん:病気になったらお金が自動的に振り込まれていたんです。「付加給付」という名目で。そこで初めて「こんなのあったんだ」となったわけです。
茂木:何か患者さんご自身で必要な手続きはないのでしょうか?
清水さん:はい、自分で手をあげる必要はないです。これはかなり大きいですよ。協会けんぽや国民保険ではやっていなくて、大企業の健康保険組合や公務員などの共済組合でやっているものになります。
多岐にわたる支援制度、まずは知ることから
茂木:今は清水さんご自身、会社を立ち上げられて相談を受ける側となりましたが、寄せられる相談の内容としては、どういったものが多いでしょうか? 清水さん:「障害年金」の代理請求をコアビジネスのひとつにしているので、その関連の問い合わせがいちばん多いですね。障害年金の手続きはかなり煩雑で、私も障害年金の存在を知ったときに自分でも調べてみましたが、体調があまりよくないなかでこれはちょっと難しいなと。自分も社労士に依頼しましたし。 こちらに支援制度をまとめて書いてみました。
(各種支援制度まとめ)
問い合わせという意味では、皆さんよくご存じなので「高額療養費制度」のことはあまり聞かれませんね。「医療費控除」についてはときどき聞かれます。働けなくなった場合は「傷病手当金」というのもあるんですよと、お知らせしていますね。あとは、やはり「障害年金」は、ステージが進んでいる方は、皆さん該当する可能性があり関心があるのかなと思います。
茂木:こう見ると、さまざまな支援の種類があるんですね。これらは、がんや他の疾患に罹患するまではなかなか触れることの少ない情報ですね。
清水さん:そうですね。働いている人に関しては就業規則を見て、自分の会社の休職制度がどうなっているのか、どうなったら退職になるのか、それが解雇扱いになるのか自然退職になるのかなど、その辺は確認してもらうようにしています。
茂木:公的医療制度としては、この表の中でいうと……。
清水さん:傷病手当金と障害年金が病気により働けなくなった方の生活補償の核となります。傷病手当金は働いている人しか使えませんが、障害年金は働いていない方でも障害状態になれば支給されます。ただし、傷病手当金は国民健康保険では使えないので、すべての方に当てはまるわけではありません。
あと、生活が苦しい場合の支援の相談は、これまでのところ私にはきていないですね。患者会も、経済状況が苦しい方はあまりいらっしゃらないのかなという印象です。
茂木:そういう方は誰に相談をすればよいのでしょうか?相談支援センターなどでしょうか?
清水さん:そうですね。そういうところに相談してくださっているとよいのですが……。
茂木:情報格差の問題もあるかもしれませんね。経済的に苦しい状態で、情報にアクセスできず、支援制度も知らず……。そんな療養を続けていくのは大変ですね。
清水さん:そうですね。やはり最初はお金と支援制度というよりは、治療のこと。よほど切迫している方は別ですが、多くの場合、しばらく経ってからお金のことが気になりだすというか。
最初は生きるためにどうしたらいいか、ということばかりなので。しばらくしてから生活の質を向上させるためにはどうしたらいいかを考えるようになるんですね。最初からお金や支援制度のことに関心がある方は少ないと思います。
茂木:だからこそ最初に「あわてて仕事はやめないで」と。まず、そこだけは伝えたい、と。
清水さん:そうです。あとは、インターネットで正しい情報にありつくのって、かなり難しいですよね。とくに罹患した直後だと、正しい情報にたどり着く前に、正しくない情報にたどり着いてしまうことが多いです。
ですので、例えば就労している人全員に対して、医療機関で「仕事は辞めなくていい」と伝える。そんな取り組みがあってもいいのかなと思います。
あと、あまり認知されていないのが、病状により働けなくなり退職せざるを得ない方たちの支援制度です。退職後の雇用保険とか、退職した場合に国民健康保険の減免ができることとか、住民税の減免ができること。この辺りはあまり知られていないことなのかなと思います。
退職が会社都合になるのか、自己都合になるのかによっても違うのですが、退職理由が健康上の理由で働けないとなるなら、減免ができると思います。住民税の保険料も前年の収入に対して課税されるので、かなりの額になる可能性があります。ですので、退職せざるをえない状況になった場合は、使っていただきたいなと思います。
あとは「健康保険の任意継続」ですかね。「国保に移すのと、任意継続するのはどっちがいいの?」という話をよく聞くんですけど、収入が高くて家族がいる場合は、任意継続のほうが得になることが多いです。これに関しても、加入している健保組合や市町村の窓口に退職した場合の保険料がいくらになるのかを問い合わせて判断するのがよいと思います。
「退職後の雇用保険」に関しては、退職後の働く能力と働く意欲がないともらえない、ということがありますので、難しいところがあります。
茂木:これらを一気に理解してくださいというのは、なかなか難しいかもしれませんね。実際は、その時々で社労士さんに相談したり、市町村の窓口に相談したりして、対応していけばよいのでしょうか?
清水さん:そうですね。内容を理解するというより、まずはこういう制度があるということを知るのが大事だと思います。
社労士はどうやって探す?
茂木:清水さんの会社のホームページには、こうした制度に関するさまざまな情報が掲載されており、そこを見れば全部わかりそうだなと思いました。
清水さん:がん患者さんがまずどこに相談したらいいかというと、最初はウェブでしたら「がん情報サービス」、対面なら「がん相談支援センター」に行くのがいいかなと思います。正確な情報が揃っています。日本対がん協会は「がん相談ホットライン」という支援を提供しています。この電話相談には主にソーシャルワーカーさんが参加しており、日によっては医師、社労士さんもいます。無料で相談できますので、こちらを利用されてもいいかなと思います。
茂木:相談の過程で障害年金などの話になった場合、「ここから先は社労士さん」という流れなんですね。
清水さん:そうです。まずは障害年金のことを知っていただき、自分でできそうだと思ったらご自分で申請してもいいですし、難しそうだなとなったら社労士に依頼するということになります。
茂木:実際にお願いする場合、障害年金の申請に特化した社労士さんにお願いするのがよいのでしょうか?
清水さん:はい、基本的には特化している方にお願いしたほうがいいと思います。社労士が取り扱う分野はとても広く、とくに障害年金の業務は割と特殊なところがありまして、手続きがかなり煩雑です。
いわゆる社労士事務所というのは、会社の労働相談や給与計算、就業規則の作成、社会保険の加入手続きなどを行っている社労士さんがほとんどです。そこには障害年金が含まれていません。ですので、そういう社労士さんは障害年金については得意ではないかなと思います。
茂木:障害年金に特化した社労士さんはどのように探したらよいのでしょうか?
清水さん:まずは、インターネット検索かと思います。ただ、僕も開業したばかりなので、検索にヒットしないんですよ(笑)



