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【開催リポート】本庶佑 先生ノーベル賞受賞記念「がん患者・家族・遺族、臨床研究者から偉業を称え、感謝を伝える会」


  • [公開日]2019.05.07
  • [最終更新日]2019.05.07

認定特定非営利活動法人「西日本がん研究機構」とがん情報サイト「オンコロ」が共催した、京都大学特別教授・本庶 佑(ほんじょたすく)先生のノーベル医学・生理学賞受賞を記念した「がん患者・家族・遺族、臨床研究者から偉業を称え、感謝を伝える会」が2019年4月2日に本庶先生ご本人も参加のうえで、京都市のメルパルク京都で開催されました。

当日は患者さんや一般の方など約200人が参加。本庶先生の研究成果が治療薬として結実した免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(製品名・オプジーボ)が奏効した肺がん患者さんの清水 公一さんのほか、西日本がん研究機構理事長の中川 和彦先生(近畿大学医学部附属病院腫瘍内科教授)、近畿大学医学部外科学講座呼吸器外科部門主任教授の光冨 徹哉先生がパネリストとして参加し、本庶先生に直接感謝の言葉が伝えられました。

本庶先生「がん征圧のために若手研究者の育成を」

特別スピーチとして登壇した本庶先生は、免疫チェックポイント阻害薬について「この治療はまだ未熟な段階。残念ながら効果のなかった人も数多くいる状況で、今後改良されることで有効な患者さんがより増えていることを信じている」と自ら評しました。

また、免疫チェックポイント阻害薬が有効な患者さんと無効な患者さんがいる原因については「基本的には一人一人が持っている免疫の力が違っている。例えばインフルエンザウイルスの感染では、ある人はくしゃみや鼻水程度の症状で済むのに、人によっては40℃の高熱が出て、場合によっては不幸にも亡くなってしまう人もいる。免疫チェックポイント阻害薬が有効だった患者さんは元々の免疫力が高かった可能性がある」との考えを示し、「今後私たちはこの問題を解明していこうと思っている」との抱負を述べました。

そのうえで「生命科学そのものがまだ未熟な段階で、その意味ではヒトの『設計図』はまだ分かっていない。この治療法がどうすればより良いものになっていくかは、何かをやらない限り、まだ誰も分からないと言っていい」と現状を説明しました。

自らもPD-1の発見当時、これががん治療の一助となるとは思わず、長い年月をかけて現在に至ったことを説明した本庶先生は「今世紀中にはがんが死の病ではなくなることを期待して研究を続けているが、そのためには若い研究者がこの分野に数多く参入してヒトの『設計図』を紐解いていくことが重要」と指摘しました。

本庶先生は先生のノーベル賞賞金を原資に昨年12月、京都大学が若手研究者支援を目的とした「京都大学本庶佑有志基金」を設立したことを説明しました。基金名に使われている「有志」は、本庶先生が座右の銘にしている中国の古典「十八史略(じゅうはっしりゃく)」に出てくる言葉「有志竟成(志を曲げることなく堅持していれば、必ず成し遂げられるということ)」に由来します。

本庶先生は「基金には一般の方にも広く寄付をお願いし、若手研究者が自由な研究をできる環境を作っていきたい」と述べました。

がん治療に吹いた新しい風

西日本がん研究機構理事長の中川 和彦先生(近畿大学医学部附属病院腫瘍内科教授)は、本庶先生のノーベル医学・生理学賞受賞理由となった研究である「免疫チェックポイント阻害因子の発見とがん治療への応用」について説明しました。

本庶先生のノーベル賞受賞のきっかけになったのは、免疫を司る細胞の1つであるT細胞が死滅(アポトーシス)するとき、その表面にPD-1というこれまで知られていなかったたんぱく質が発現していることを1992年に発見したことに始まります。

T細胞はヒトの体内に入ってきた異物をキャッチし、それを攻撃して排除する役割を担っています。このT細胞が働くためには、T細胞を活発にさせる信号と逆にその働きを抑える信号の2つがあると、中川先生は説明。特にその働きを抑える信号の意味については「体内から異物を排除後もT細胞が活発化していると、ヒトの正常な細胞や体にそれほど害のない異物を攻撃することで自己免疫性疾患やアレルギー疾患が発生してしまうため、T細胞の働きを抑える信号も必要になる」と話しました。

1992年のPD-1発見から2001年までの本庶先生の研究から、このPD-1にはT細胞の活発化を抑える働きがあることが分かりました。また本庶先生らの研究により、当初はT細胞の攻撃でがん細胞は排除されるものの、がん細胞はその表面にPD-L1と呼ばれるたんぱく質を新たに作り、T細胞のPD-1と結合することで、T細胞の攻撃を止めていることも分かりました。こうしたPD-1のような分子は現在「免疫チェックポイント分子」と呼ばれます。

T細胞のPD-1とがん細胞のPD-L1が結合できないようにすることで、がんの治療に応用できると考えた本庶先生らは、PD-1と結合する人工的な抗体をがんができたマウスに投与し、実際にがん細胞の増殖が抑えられることを2002年に確認しました。

本庶先生らはアメリカのベンチャー企業メダレックス社と日本の小野薬品工業と共同で、研究の実用化を目指し、ようやく2014年に皮膚がんの一種である悪性黒色腫の治療薬として世界初の免疫チェックポイント阻害薬・ニボルマブが日本で承認されました。

中川先生は「2012年に初めてヒトでの治療成績が報告されたが、効果のある人ではこれまでの治療薬よりも長く効果が続くことがわかった」と、この研究が非常に画期的なものであったことを強調しました。中川先生自身も非小細胞肺がん患者さんでニボルマブによる治療が有効だった事例を経験。その時のことを「これは新しい風が吹いたのだと実感した」と振り返りました。

そのうえで本庶先生が過去に執筆したエッセーを引用しながら、一連の研究が「誰も見向きもしない岩からの湧水を大河にまで育てた偉大な研究」だったと評しました。

肺がん治療での免疫チェックポイント阻害薬の役割

2019年3月末現在、ニボルマブは非小細胞肺がん、腎細胞がん、頭頸部がん、胃がん、悪性中皮腫の6種類のがんでの適応が厚生労働省によって承認されています。抗PD-1抗体としてニボルマブに続いてペムブロリズマブ、抗PD-L1抗体としてデュルバルマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、抗CTLA-4抗体としてイピリムマブの合計6種類が現在までに厚生労働省の承認を得ています。このうちアベルマブ以外の4種類すべてが適応を得ているのが非小細胞肺がんです。

肺がん治療の専門家でもある近畿大学医学部外科学講座呼吸器外科部門主任教授の光冨 徹哉先生は、肺がん治療での免疫チェックポイント阻害薬の役割について解説しました。

肺がんの中でも患者数の多い非小細胞肺がんでは、がん細胞の増殖を加速させる遺伝子変異を持つタイプには、がんの増殖に必要な分子の働きを抑える「分子標的治療薬」が相次いで登場していた反面、こうした遺伝子変異を持たない約半数の患者さんでは新しい治療がなかなか出てこなかったため、免疫チェックポイント阻害薬が非常に期待されていたと光冨先生は話しました。

光冨先生は、こうした患者さんでニボルマブとそれまで標準治療だった抗がん剤ドセタキセルの効果を比較した臨床試験で、ニボルマブではより高い生存期間の延長効果が認められたことを紹介。一方、免疫チェックポイント阻害薬では「免疫を強めることは諸刃の刃。強めすぎることで自己免疫性疾患など、これまで私たちが経験したことのない副作用が出ることもあり、良いことばかりとは言えない」と強調しました。

また、早期に効果がなくなる患者さんがいる一方で、5年以上も効果を発揮する患者さんもいるため、「いかに有効な患者さんを選んで投与するかが重要になる」と述べ、現時点ではがん細胞の表面にPD-L1が多く出ている場合が有効な患者さんの目安の1つになっていると説明しました。

さらに現在ではこれまで使われていた抗がん剤や別の免疫チェックポイント阻害薬との併用療法、さらにより早期の治療として手術との組み合わせなどの研究が進んでいることも紹介しました。

患者さんとその家族の未来を変えた免疫チェックポイント阻害薬

ニボルマブの投与を受けた患者さんの立場からは、清水公一さんが講演しました。

清水さんは2012年10月に健康診断でステージIBの非小細胞肺がんが発見され手術を受けました。しかし、翌年には副腎と脳への転移が見つかり、それぞれ手術とガンマナイフで治療。その後は抗がん剤の維持治療を受けてきました。しかし、2016年12月に脳転移が再発し、がん性髄膜炎も確認され、ニボルマブの投与を開始しました。

清水さんは「がんになったとわかった時は、子どもがまだ小さいので死ぬわけにはいかないと思うと同時に未来を決してあきらめず希望を持とうと思った。希望とは患者さん個々人によって意味が違うかもしれないが、患者共通の希望は新薬や新しい治療法の登場だった」と振り返りました。

ニボルマブの投与開始後は腫瘍マーカーや画像診断で劇的ながんの縮小が認められ、最終的には画像上でがんは消失。11回のニボルマブ投与で一旦治療を中止し、現在は無治療で経過観察中です。

清水さんは「このことでまだ生きていていいんだ、もう少し家族と一緒にいられると思った。ニボルマブは僕と家族の未来を変えた。本庶先生は命の恩人」と語りました。

新たなことを見つける楽しみを糧に

各シンポジストの講演の後には、本庶先生を囲んで質疑応答が行われました。

光冨先生:「私は外科医としてがんの周囲を広く切り取り、リンパ節も郭清するということを基本にしてきましたが、先生のノーベル賞受賞講演ではがんの制圧ではリンパ節切除は必ずしも適切ではないと指摘されていましたが」

本庶先生:「私たちが行ったがんモデル動物の実験では、リンパ節を切除すると免疫チェックポイント阻害薬の有効性が落ちることが分かっています。これは免疫を担うT細胞(リンパ球)ががん細胞を認識した後に数を増やして戦わないと、がん細胞に勝てないからだと思われます。このT細胞の数を増やし、常にがん細胞周辺にT細胞を送り続ける場がリンパ節です。ただ、これはまだヒトでは証明されていないので、現時点で外科医の認識を覆せる状況ではありません」

光冨先生:「現在、私は手術と免疫チェックポイント阻害薬の併用の研究をしています。まだ、少数例ですが良好な成績が認められています。早期からの免疫チェックポイント阻害薬使用についてのご見解は?」

本庶先生:「免疫学者の立場ではがん治療では免疫系を傷めないうちに免疫系を利用した治療をする方が望ましいと考えます。がんの三大治療である手術、放射線、抗がん剤はいずれも免疫にストレスをかけてしまいます。私の理論的立場では、まずがんに対しては免疫チェックポイント阻害薬を使用し、状況を見ながら手術、放射線、抗がん剤を併用していくことが望ましいのではないかと考えています」

中川先生:「先生ご自身は『研究者の醍醐味とは、誰も見向きもしない岩からのわき水を見つけ、その水を次第に太くし、小川からやがて大河にまで育てることである』とおっしゃっていますが、今回の研究が成果を結ぶまでに30年弱を要しています。ご自身の研究を信じつづけるための秘訣は何でしょう?」

本庶先生:「生命科学はまだ分かっていないことの方が多いのが現実です。目の前の石ころが磨けばダイヤモンドになるかどうかは運不運もありますが、やってみなければわかりません。ただ、見つけたものを深く掘り下げることで常に新しいことは見えてきます。そのこと自身に喜び・楽しみがあります。私にとっては今回のことは歯を食いしばってじっと耐えてきた苦節30年というよりも、常に楽しんできた30年間。そして幸運なことに成果につながったということです」

清水さん:「おかげさまでこのたび子どもが小学校に入学します。子どもには本庶先生のように人に感謝されるような人間になってほしいと思っています。親が子どもの教育で心掛けるべきことを教えていただければ幸いです」

本庶先生:「人それぞれ生き方があるので何かのお手本通りにやればうまくいくというものはないと思っています。まずは自分がやりたいと思うものを見つけることが重要だと考えています」

(文章:村上 和巳)

当日の講演動画

※YOUTUBEにリンクをしています。
■プログラム
58:11〜 特別スピーチ
本庶 佑先生 (京都大学 特別教授)

2:17〜 今回のノーベル賞は何が凄いのか?!
中川 和彦先生 (認定特定非営利活動法人 西日本がん研究機構 理事長)

25:55〜 臨床研究者からの御祝と感謝の言葉
光冨 徹哉先生 (近畿大学医学部外科学講座 呼吸器外科部門 主任教授)(世界肺癌学会理事長(予定者))

42:35〜 患者からの祝辞と御礼
清水 公一さん (ニボルマブが奏効した 肺がん患者)

1:10:47〜 QAセッション
本庶 佑先生 ・ 中川 和彦先生 ・ 光冨 徹哉先生 ・ 清水 公一さん

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