放射線治療は患者さんの協力が必要な治療~放射線治療と副作用の正しい理解を~国立がん研究センター東病院 放射線治療科医長 全田貞幹先生


  • [公開日]2021.02.12
  • [最終更新日]2021.02.09

がん三大療法の一つである「放射線療法」。近年では治療に使われる放射線そのものの種類や照射方法が増え、さまざまながんの治療に用いられています。一方、その名の通り「放射線」を使う治療であるため、その安全性や副作用について、不安に思う患者さんも多いのではないでしょうか。今回は、放射線治療の基礎知識や副作用について、国立がん研究センター東病院放射線治療科医長の全田貞幹先生にお話を伺いました。

全田 貞幹(ぜんだ さだもと)先生
国立がん研究センター東病院 放射線治療科 医長
日本内科学会、日本放射線腫瘍学会、
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、
日本食道学会、日本頭頸部癌学会、
American Society of Clinical Oncology

「肉を切らせて骨を断つ」放射線治療

茂木:本日はよろしくお願いいたします。まず、基礎知識として、なぜ、放射線治療を行うと副作用が起こるのか、そのメカニズムを教えて下さい。

全田先生:皆さんご存じの通り、基本的に放射線は身体に害があるものです。発想としては、「放射線治療なのになぜ副作用が起こるのか」ではなくて、「基本、副作用のかたまり・身体に害があるものなのに、なぜがんに効くのか」というほうが正しい質問になるのかなと思います。

放射線は体内に留まったり、爆発したりするのではなく、ただ通り過ぎるだけです。細胞は、ほとんど水でできており、放射線が細胞を通りすぎるときに、フリーラジカルというものができます。

このフリーラジカルが細胞内で暴れまわって、DNAの一部が損傷します。すると、通常は細胞分裂の際に「1→2個」と細胞が増えていくところが、「1→0個」になったりして、増えることができなくなります。

がん細胞のほうが、正常組織より分裂が速く、放射線によるダメージが、正常組織よりもがんのほうへ早くあらわれ、がんが小さくなっていく……。これが放射線治療の基本的な作用です。

一方、正常な組織・細胞でも同じ反応が起こるため、同様にダメージを受けています。ただ、がんのほうが細胞分裂の回数が多く、ダメージが大きいので、先にやられる、ということです。

放射線治療は、「肉を切らせて骨を断つ」ような治療です。放射線をあてたところにしか効かずに、あててないところには何も起こらない。ノーダメージなのです。

しかし、がんのまわりには正常な組織があり、腫瘍にだけ放射線をあてるのは困難です。放射線があたったところには全部同じような機序が働くのですが、細胞分裂の速さが違うから、速いほうが先に死ぬだけで、両方とも同じようなダメージは受けています。

茂木:爪や口内の粘膜など、体内には細胞分裂のスピードが違う箇所もあります。こうした部位では抗がん剤の副作用が出やすいと言われていますが、放射線治療も同じなのでしょうか?

全田先生:放射線治療のほうがひどく出ますね。先ほどの原理をふまえれば、大抵のことは説明できます。放射線は、基本的には身体の外側からあてます。内側からあてるのもありますが、基本的には外から。身体の外からあてて、がん細胞のところにたどりつくまでの間って、どこを通ると思います?

茂木:皮膚ですか?

全田先生:そうです。皮膚は必ず通りますよね。「皮膚→(粘膜)→腫瘍」と通っていくので、皮膚は何らかのダメージを受けます。

放射線の電圧を変えることで、表面に力を発揮する場合と、奥になってから発揮する場合と、細かく調節することはできます。それでも皮膚は何らかの障害を受けます。とくに、首から上、乳腺など、皮膚から近いところに腫瘍がある場合、皮膚炎は必発します。

また、同じように粘膜の近くに腫瘍がある場合は、粘膜に障害が起こりやすいです。例えば、食道がんは粘膜にできるがんですから、食道にあてたら、粘膜が全部やけてしまい、食道炎になることがあります。ですので、今の話でいうと、粘膜障害と皮膚炎が二大副作用になります。

急性期と晩期、部位による副作用の違いは?


茂木:ありがとうございます。次に、放射線治療による副作用の種類についてです。これまでのお話を受けますと「放射線をあてる部位によって違う」ということになるのでしょうか?

全田先生:そうですね。これは異論もあるかもしれないのですが、昔は「放射線治療をすると気持ち悪くなる」と言われていました。基本的には放射線をあてたところしか反応が出ないので、食道にあてれば食道の粘膜の炎症、首にあてれば喉、口の中の粘膜の炎症しか起こらないんです。

しかし、頭の中の腫瘍、あとは前立腺にあてるものに関しては、副作用の種類がまったく異なってきます。

茂木:頭の中、脳にあてると、吐き気をもよおしたりするということですね。

全田先生:そうです。脳が司る部分によって、起こることが違います。

茂木:脳のどの部分に放射線をあてるとどのような副作用が出るかというのは、おおよその予測が立てられるのですか?

全田先生:では、頭の話を詳しくしていきましょう。例えば脳だったら、細胞分裂の邪魔をするという放射線の能力は、急性期の副作用にはまったく関係ありません。実は、放射線をあてることにより頭自体がびっくりして、その刺激に反応して、脳がむくむのです。それによっていろんなことが起こる、というのが一つ目の副作用です。

脳の細胞が一時的に反応して浮腫を起こすので頭蓋内圧があがり、頭痛を起こしたり、吐き気を起こしたりするという機序です。

茂木:先ほどの、細胞が死ぬことで起こるものではないと。

全田先生:そうです。その後、細胞が死んで機能しなくなることは「脳壊死」といい、放射線をあててから三か月、半年、一年後に起こります。場合によっては、三年後とかに起こる晩期の有害事象もあります。

先ほど説明した、フリーラジカルによってDNAが傷付けられて、細胞分裂ができなくなって…ということが、頭の場合はずっとあとから起こってきます。皮膚や粘膜は、細胞のターンオーバーが速いので、それが数か月後ではなく、すぐに起こる。急性期でも同じような機序になりますね。

茂木:ほかに、晩期に副作用があらわれてくる身体の部位はありますか?

全田先生:首から上だと唾液腺の障害です。唾液を出すのは耳下腺ですが、その細胞が放射線に対して弱い、感受性が高いので、それがつぶれてしまうと唾液が出にくくなったりします。

唾液が出にくくなると、口の中の環境が悪くなって虫歯が増えたり、場合によっては口の中の炎症がひどくなりすぎて、あごの骨が溶ける「顎骨壊死」という危険な症状が出たりします。

喉では、粘膜に強く作用するので、粘膜が瘢痕・狭窄化したりして、喉の通りが悪くなったりします。

肺では、腫瘍が肺の真ん中にある場合、そこに放射線がたどりつくまでの通り道もすべて傷つけてしまうため、あとになってから、「間質性肺炎(放射線肺臓炎)」という副作用を起こしたりします。

乳腺の場合、例えば左だけの腫瘍で左だけに放射線をあてたときは、そこだけ皮膚が委縮して固くなったり、色がついたりします。他人から見ればそんなにわからないものですが、本人からすると相当違う感じがするようです。そういった整容性が問題になる副作用も出てきたりします。

前立腺の周囲にあたると血管や神経等が障害されることがあり、男性の方だと「勃起障害」が起こったり、「排尿障害」が起こったりします。

放射線治療はチーム医療 看護師や放射線技師に相談も

茂木:こうした副作用が出た場合、患者さんはどのように対応するのがよいのでしょうか?

全田先生:当該部位のケアに関しては、ご自身で毎日、不断の努力が必要になってきます。患者さんには、自分はどこの場所に放射線をあてて、今後どういうことが起こりうるのかという知識をつけることをお願いしています。自分の体の中でそこだけ弱い、というのを知っておいてほしいです。

また、防げない副作用も多いので、治療を受ける前にきちんと説明を受けて、しっかり受け入れて治療を行うことをお勧めします。

抗がん剤は、治療中に出ることが多く、リスクとベネフィットがわかりやすいですよね。放射線の場合は、リスクとベネフィットがわかりにくいです。時間差で、効果のほうが先にあらわれるので。ですから、事前の説明をしっかり聞くことが重要です。

茂木:急性期に起こる炎症などの副作用に関して、先生をはじめ医療従事者の皆さんはどのような対策をされているのでしょうか?

全田先生:晩期の副作用と同じで、回避はできないのですが、軽減したり、それによって治療を中止しなくてもいいように、副作用を最低限にとどめることはできます。

放射線治療は、基本的に一日で終わるものでは少なく、一か月、二か月と続きます。患者さんにとって精神的に相当タフな治療です。その間、とくに後半になると、ぐーっと副作用があらわれてくる。その変化を誰かが見続けなくてはいけません。

ご家族はもちろんですが、医療者で一番そういう変化を見られるのは、医師ではなく看護師さんや放射線技師さんです。放射線治療はチーム医療で行われますので、辛い状態のケアは、医師だけではなく看護師さんをはじめ患者さんの近くにいる皆さんに求めるのもよいでしょう。

患者さん側で大切なことは、次にどのようなことが起こるのか、理解して行動することです。例えば、消化管に放射線をあてる場合、医師は「どうしても食欲がわかなかったり、痛くて食べられなかったりすることがあるんですよ」と説明します。

それがいつ起こっているか。私たち医師が「大丈夫ですか?」と聞いても、大抵の患者さんは「大丈夫です」と答えてくれるのですが、本当に大丈夫かどうかを確認できるのは、体重の変化からなのです。

もし、ご自身で体重を計ってみて、体重が落ちていたら、「最近体重が落ちてきました」と、医師や看護師さんに伝えてください。自分の身体の状況をしっかり把握することが、急性期の副作用に関する患者さん自身でできる役割となります。

放射線治療には緩和的放射線治療と根治的放射線治療があり、特に根治的放射線治療は“治しにいく治療”なので、それを中断するということは手術中に手術をやめて帰してしまうのと一緒なんです。最後までやり遂げることが至上命題ですので、急性期の副作用管理はかなりシビアにやります。

副作用の状況は厳しめに確認しますが、期間限定のことです。抗がん剤治療などと比べて、放射線治療は期間が短いため、その短い治療期間中は、「お互い協力して見ていこう」と。患者さんにも積極的に治療に参加していただきたいと思います。

放射線の種類で副作用の出方や頻度は異なる?

茂木:現在、放射線治療にはさまざまな種類があるかと思います。副作用は異なるのでしょうか?

全田先生:放射線の種類を大きく分けると、いわゆる放射線治療に用いられる「X線」と、陽子線や重粒子線などの「粒子線」があります。これらの放射線による副作用の種類は、まったく一緒です。まったく一緒なのですが、「頻度」と「重症度」が異なります。

つまり、同じ場所に、普通の放射線をあてたのと陽子線をあてたのとでは、副作用A、B、Cという種類は変わらないですが、Aが起こる可能性が放射線だと70%、陽子線だと15%、ということはあり得ますよ、ということです。重粒子線も一緒です。

茂木:一般の目線からすると、重粒子線のほうがより強力なのかなと思うのですが、そうすると副作用も、例えばAという副作用が起こる場合、重粒子のほうがより強く出る可能性が高い、ということなのでしょうか?

全田先生:そうですね。副作用が出ないように注意して行いますが、出てしまった場合、より重篤になってしまう可能性はあります。

茂木:一方で、効果もそれだけ高いということでしょうか?

全田先生:そこは、今度はがん種が関係してきます。相性のいいがん種と、そうでないがん種がある。重粒子でも副作用がほとんど出ない人もたくさんいます。骨に対する障害などが出なければ本当に良い治療です。しかし、治療法がないような骨の損傷が起こってしまうこともある。そこは少し、放射線の種類ごとに重症度は変わってきます。

もう一つ重要なことがあります。同じ放射線だったとしても、例えば同じ30グレイ(Gy、放射線の強さの単位)をあてるのに、2Gyを15回あてるのと、10Gyを3回あてるのでは、反応がまったく違うのです。

先ほどの「放射線や陽子線、重粒子などで副作用が違うのか」というのは、出る頻度や重症度が違います、という答えが一つ。もう一つは、あてるスケジュールが違えば、副作用の出方が違うということです。これには注意が必要です。

茂木:同じ30Gyの場合、2×15と、10×3では、後者のほうがより強い副作用が出る可能性があるということでしょうか?

全田先生:そうですね。急性期ではそう大差無いのですが、晩期の副作用で違いがあらわれます。ただ、現在行われている治療は、研究や調査を経て行われているものです。中には24Gyを1回で、という治療法もあります。それも、現在は副作用についてすべて検討済みで行われているので、どれがいい治療とかではなく、適した治療として世に出てきているということです。

茂木:最後に、全田先生から患者さん・ご家族へメッセージをお願いします。

全田先生:放射線治療は、患者さんの協力が必要な治療です。恐れ過ぎたり、目先の効果に踊らされたりせず、正しい知識を持って、正しく恐れるのが一番大切です。患者さんの身体には少なくとも傷を残す治療ですので、正しく理解して、選択してほしいと思います。

関連リンク
■国立がん研究センター 東病院 放射線治療科
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