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160遺伝子を解析し最適な治療選択目指す
― 「プレシジョン検査」は、どのような遺伝子検査ですか。 西原先生 患者さんの腫瘍から採取した組織からDNAを抽出し、160遺伝子について次世代シークエンサーを用いて網羅的に解析し、一人一人の患者さんの遺伝子の異常に合った治療法を提案する検査です。160遺伝子は、がんの増殖に関わることが世界中の論文、実臨床の中で分かっている遺伝子です。 プレシジョン(PleSSision)検査は、「Pathologists edited, Mitsubishi Space Software supervised clinical sequence system for personalized medicine」(病理医が管理する三菱スペースソフトウエア社監修・個別化治療のためのクリニカルシーケンス)の略語です。 次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析は、米国病理学会が承認した国際臨床検査成績評価プログラム(CAP)を取得したジェネティックラボ社の検査センターで実施しています。三菱スペースソフトウエア社が、その患者さんにはどのような遺伝子変異があり、その遺伝子変異に効果的な米国と日本の保険承認薬、治験薬をまとめた「遺伝子解析結果」を作成します。 北海道がんセンターでは、遺伝子解析結果をすべての診療科の医師が集まるキャンサーボード(カンファレンス)で、推奨される治療について、総勢50人以上の医師の意見を聞き、患者さんが最初にがん遺伝子外来を受診してから約3週間後に、遺伝子解析の結果とそれに基づく治療法の提案をお返ししています。 そもそも、がんは遺伝子の異常によって発症する病気です。近年の研究によって、仮にがんが発症した臓器が同じでも、その遺伝子の異常は患者さんによって異なることが分かってきました。さらに、その遺伝子異常の中には、がん細胞の増殖に関わる特定の遺伝子が存在することが判明し、その遺伝子異常を標的とした分子標的治療薬が日常診療でも使われています。 保険診療の中でも遺伝子検査が行われていますが、ごく一部の遺伝子しか調べることができません。米国などでは、がんの治療選択の際、プシジョン検査のように、次世代シークエンサーを用いて、100以上の遺伝子を網羅的に調べるクリニカルシークエンス検査を行うのが当然になってきています。 ― 京都大学医学部附属病院で実施しているクリニカルシーケンス検査「オンコプライム」などもありますが、プレシジョン検査の特徴を教えてください。 西原先生 調べる遺伝子は、オンコプライムとかなり重なっていますが、プレシジョン検査は、病理医が精度管理することで、がんの組織から採取した検体が少量の場合でも遺伝子解析が可能であるのが特徴です。次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析では、検体の質が重要ですが、解析不可能な患者さんは、他の遺伝子検査より少ないのではないかと考えています。プレシジョン検査を受けるには
― プレシジョン検査を受けるにはどうしたらよいのですか。対象になる患者と費用についても教えてください。 西原先生 プレシジョン検査を希望する患者さんは、現在治療を受けている担当医と相談して、北海道がんセンターの「がん遺伝子外来」を予約してもらってください。患者さんご本人ではなく、治療中の医療機関からの紹介と予約申し込みが必要です。 予約が入ったら、がん遺伝子外来の担当者から、患者さんの担当の先生などに検査に使用する病理標本の準備を依頼します。場合によっては、画像データなどを送っていただくこともあります。慶應義塾大病院腫瘍センター、木沢記念病院(岐阜県美濃加茂市)などでも、プレシジョン検査を始める準備を進めています。 対象は、病理組織学的検査で、「がん(悪性腫瘍)」と診断された患者さん、現在がんの治療を受けている患者さんです。ただ、現状ではこの検査を受けるメリットが大きいのは固形がんの患者さんです。白血病など血液がんの患者さんもこうした遺伝子パネル検査を受けることはできるものの、有用性は限定的です。 また、プレシジョン検査は保険外で全額自費診療であり、北海道がんセンターでは65万円(税込み)です。検体の問題で遺伝子解析がまったくできない時には、50万円返金します。がん遺伝子外来でプレシジョン検査の説明を聞いたうえで、検査を受けなければセカンドオピニオン外来を受診した時と同様、その受診料として3万2400円(税込み)いただきます。 ― プレシジョン検査を受けて、治療薬の選択に結びつく患者さんはどのくらいいるのですか。 西原先生 実は、北海道大学病院(札幌市北区)で、「プレシジョン検査」とほぼ同じ内容の「クラーク検査」を2016年4月から17年5月末まで実施していました。1年2カ月間で159人検査依頼があったうち、結果報告ができた患者さんは156例です。そのうち、がん発症の原因遺伝子が検出された患者さんは148人(95%)、治療薬の選択につながる遺伝子異常が見つかった患者さんは112人(72%)でした。 治療薬の選択につながる遺伝子異常が見つかったがん発症の原因遺伝子としては、PIK3CA、BRCA1/2、ERBB2、AKT1/2、BRAFなどが検出されました。 ただ、この中で、実際にがん遺伝子検査に基づいた治療を受けた患者さんは10~15%というのが現状です。治療に至らなかった理由は、「薬物療法が受けられないほどがんが進行してしまった」、「未承認薬であるため費用が高い」などです。いまは標準治療を受けていて、がん遺伝子検査の結果は標準治療がなくなってから活用したいと考えている人もいますから、今後は、もう少し治療を実施した患者さんの割合が上がるかもしれません。 ― 実際には、どういう治療につながっているのですか。 西原先生 例えば、40代の乳がん患者さんには、遺伝ではなく後天的なBRCA1遺伝子の変異が検出されました。BRCA陽性には、プラチナ系抗がん剤がよく効きますので、プラチナ系抗がん剤を含むレジメンを提案しました。PARP阻害薬「オラパリブ(リムパーザ)」は日本では未承認ですし、米国でも効果が認められているのは後天的な変異ではなく遺伝性の乳がん卵巣がん症候群ですが、次の選択肢の候補にはなると思います。 50代の子宮体の患者さんは、がん細胞の分裂・増殖を促すmTORを活性化させるPIK3CA遺伝子とPTEN遺伝子に異常がみられました。米国で、そういった患者さんにmTOR阻害薬のエベロリムスとレトロゾールを併用したフェーズ2の臨床試験で奏効率が70%という結果が出ていましたので、その併用療法を実施しました。 9カ月間、腫瘍が変化しない状態(SD)を維持できましたが、保険が利かず自費診療だったので、月90万円治療費がかかったことが一番のネックでした。 また、胃がんで、BRCA遺伝子の後天的な変異がみられた患者さんに、プラチナ系抗がん剤を使ったレジメンを実施したところ、腫瘍が劇的に縮小しました。