脳腫瘍とは
脳は身体の約98%の神経組織からなり、思考、感情、感覚、運動機能、消化機能などあらゆる機能をつかさどっています。まず、脳の部位は大きく分けて大脳、間脳、中脳、橋、延髄、小脳の6つの領域があります。
脳の6つの領域は以下の働きがあります。
・大脳
人が意識的に考えたり、記憶をしたり、複雑な運動をする時に働く領域です。
・間脳
視床と視床下部からなります。視床は感覚が伝えられる中継地点で、受け取った感覚の情報を大脳皮質へ伝える働きがあります。視床下部は自律神経を調節したり、ホルモンの分泌を調整したりする働きがあります。
・中脳
意識の保持や視覚や聴覚の情報を処理したり、身体の不随意運動(意識とは関係なく身体が動くこと)に関わったりしています。
・橋
小脳と視床への感覚情報を伝える中継地点となっており、内臓の運動調整をする働きもあります。
・延髄
視床への感覚情報を伝える中継地点です。また、心拍数や血圧、呼吸や消化器の活動を調整する働きがあり、人の生命に直結する働きをつかさどっています。
・小脳
小脳半球、虫部、片葉の3つの領域があり、体幹や四肢の運動調節、身体の平衡の維持、眼球運動の調節を行っています。
脳腫瘍とはこれらの脳の領域にできる腫瘍の総称で、脳や周りの組織から腫瘍が発生する原発性脳腫瘍と、他の臓器から腫瘍細胞が転移して発生する転移性脳腫瘍があります。脳腫瘍の大半は原発性脳腫瘍で、転移性脳腫瘍では肺がんからの転移が最も多くなっています。
腫瘍ができる場所によって、呼び方が異なりその種類はとても多いです。細かく分けると130種類以上の脳腫瘍があります。発生頻度が高いのは脳神経細胞に発生する神経膠腫、脳を保護する髄膜に発生する髄膜腫、下垂体に発生する下垂体線種、神経を覆うシュワン細胞から発生する神経鞘腫です。
脳腫瘍の原因
脳腫瘍は種類も多く、特定のひとつの原因があるわけではありませんが、遺伝子の変化や、時に生活習慣が脳腫瘍の発生・進行に関わっていると考えられています。
転移性脳腫瘍の場合は他臓器のがんが原因ですが、転移が多い順に肺がん、乳がん、胃がんとなっており、他にも大腸がんや子宮がんが原因となることがあります。転移性脳腫瘍は脳の様々な部位に発生し、多発性に脳腫瘍が発生することが多いのが特徴です。
脳腫瘍の症状
脳腫瘍は腫瘍ができる場所により症状の発現が異なりますが、腫瘍の成長によって腫瘍以外の脳の組織が圧迫されて起こる頭蓋内圧亢進が原因で症状が発生することが多いです。頭蓋内圧亢進症状では頭痛や吐き気・嘔吐、うっ血乳頭(視神経に浮腫ができて視力障害を引き起こす)があります。
その他には全身が硬直するひきつけ、相手の言葉が理解できなくなる、耳の聴こえが悪くなる、耳鳴りがする、手足が動かなくなったりしびれたりするといった症状があります。
普段から慢性的な頭痛を持っている方は脳腫瘍が発生していても気付かないことがあります。脳腫瘍の症状は時間が経つにつれて進行していきます。頭痛の頻度が増加したり、他の症状が伴ったりしている場合は脳腫瘍の可能性を考えなければなりません。
脳腫瘍の疫学・統計・5年生存率
脳腫瘍は年間に約20,000人が発症し、人口1万人あたり1.5人が発症します。脳腫瘍の種類別発生頻度では髄膜腫27.1%、神経膠腫26.6%、下垂体線種18.2%、神経鞘腫10.5%、頭蓋咽頭腫や悪性リンパ腫などが12.6%となっています。
髄膜腫と神経膠腫が発生頻度の半数を占めています。小児の場合は最も頻度が高いのが神経膠腫、続いて胚細胞性腫瘍、頭蓋咽頭腫となっています。
脳腫瘍には悪性腫瘍と良性腫瘍があります。良性腫瘍には髄膜腫、下垂体線種、神経鞘腫がありますが、手術をして腫瘍を摘出することで根治することが可能な場合が多いです。悪性腫瘍で代表的なのは神経膠腫です。
脳腫瘍は悪性度別に4つのグレードで分類されており、悪性度が低いものがグレードⅠ、悪性度が最も高いものがグレードⅣと決められており、神経膠腫のうち最も悪性度が高いものを膠芽腫と呼びます。
脳腫瘍の5年生存率は、良性腫瘍の場合は約98%です。悪性腫瘍の場合は、腫瘍の種類で異なります。グレードⅡの髄膜腫の5年生存率は約91%ですが、グレードⅢになると約87%に下がります。
神経膠腫に分類される星状細胞腫(グレードⅠ、Ⅱ)の5年生存率は75%~92%、乏突起膠腫(グレードⅡ、Ⅲ)は68%~90%となっています。悪性度が高いグレードⅢの神経膠腫では41%~68%、悪性度が最も高いグレードⅣの膠芽腫は約10%となっています。
参照元
国立研究開発法人国立がん研究センター 希少がんセンター(
http://www.ncc.go.jp/jp/rcc/01_about/brain_tumors/index.html)
東京医科大学 脳神経外科 疾患解説 脳腫瘍総論(
http://team.tokyo-med.ac.jp/nou/neuro/disease01.html)