こんにちは、メディカル・プランニング・マネージャーの川上です。
臨床試験クラウドファンディングの成功
オンコロが扱う「がん」の話ではないのですが、私がお手伝いさせていただいた、小児ぜん息のステロイド吸入を減らせることを証明する臨床試験へのクラウドファンディングが、つい先日、2ヶ月で1,000万以上の資金調達に成功したことをご報告させていただきます。
https://readyfor.jp/projects/difto
この臨床試験は、もとはAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の資金によってスタートしましたが、十分な症例が集まらず結論を出せないままに助成期限を迎えてしまいました。
詳細については、上記プロジェクトページをご参照ください。また、同ページの「新着情報」では、主任研究者の勝沼俊雄医師が、この研究に時間とお金がかかる理由を説明しています。
今回のクラウドファンディングは、臨床試験にかかる費用を市民が支える、新たな取り組みの初の成功事例であり、臨床試験をどう支えていくことができるのかについて、改めて考える機会となりました。
新たな治療は臨床試験から
医療のエビデンスを創る質の高い臨床試験には、膨大な時間と人とお金が必要です。近年のがん医療、特に薬物療法の進歩は、すべて臨床試験に裏打ちされています。新しい治療が世に出ることは、患者さんやご家族にとって希望であり大変重要なことであり、医師や製薬企業にとっても同じです。
医師は、より良い治療のために研究を計画し、公的研究費や企業からの寄付を募り必要資金を調達します。製薬企業は、自社製品の承認や販売増を期待して独自に臨床試験を進めたり、医師の研究を支援したりしています。
今回の小児ぜん息の研究は、薬を減らせることを証明するもので、製薬企業からの支援は得にくく、公的助成によりスタートしました。
計画段階から大変な臨床試験
臨床試験は、はじめに試験の計画を立てることから始まり、それがどのような妥当性があるか、具体的にどのように進めるか、試験の計画内容に倫理的に問題がないか、等を詳細に記載した実施計画書と呼ばれる計画書を作成しますが、とても手のかかる作業であり、日常診療で先生方が準備を進めるのは苦難の道です。
次に、実施計画書は、然るべき「倫理審査委員会」にかけられ、精査され、ときに修正を指摘され、再提出、再審査、となることもあります。
「前向き」介入研究は研究参加に同意する患者が必要
研究の方法論には大きく分けて2通りあります。すでにあるカルテ等の記録・データをある切り口からまとめ、分析する「後ろ向き」研究と、仮説を証明するために、仮説による介入群と非介入群を比較し検証する「前向き」研究です。
介入研究をするためには、研究対象となる患者さんに対して実施計画書に沿って、研究の目的や概要、参加のメリットやデメリット、参加は自由であること等を十分に説明した上で、同意をいただかなくてはなりません。
研究対象となる患者さんの数自体が少なかったり、研究について丁寧に説明する時間や人材が不足していると、症例が蓄積されず、研究の歩みも遅くなってしまいます。
データ収集、データの質管理
研究への参加を承諾した患者さんについては、介入による効果や副作用を客観的に評価できるようデータ化し症例を蓄積していきますが、1人1人のデータも、厳密に収集していかないとなりません。
抜け・漏れがあると、その症例がデータとして意味をなさなくなってしまうこともあります。そのため、研究参加者のデータ収集・管理には専門知識が求められますし、一定以上の時間を割かねばなりません。ここにも時間とコストがかかります。
分析と論文化
集まったデータは、統計学的にきちんとした分析を経て、論文化されなければ、研究の成果として認められません。研究が進み、ある程度の結果が見えてきたところから、発信できる状態になるまで、さらに数ヶ月という時間がかかるのです。
いかがでしょうか。私自身も、書いていて、ため息が出てきます・・・。
新たな治療法は、患者・家族にとって、希望となるものであり、意義のある臨床試験が少しでも早く進むことは、国民にとっても重要です。今回のクラウドファンディングは、がん領域の研究ではありませんでしたが、がん領域でも同じであり、オンコロでは、がんの臨床試験の被験者募集事業を通して、少しでも臨床試験のプロセスが早く進むよう、貢献しています。
現在、公的な研究資金であるAMEDのがん研究への助成予算は、年間約180億円です。いっぽうで、米国では、2016年1月に、オバマ大統領のもと、がんに特化した研究支援計画「ムーンショット・プログラム」で6億8千ドルの研究費を予算化する計画が発表されました。
がんだけが国の課題ではないので、限られた国の予算をどう振り分けるか、は、政治の役割なので、ここでは、私見は控えさせていただきますが、今回のクラウドファンディングでは、国や製薬企業だけでなく、民間の力でも臨床試験を支えることができることを実証できた、重要な成功事例となったと思います。
このテーマに関心のある方は、民間の力で臨床試験を支えた実例を映画化した米国の映画「希望のちから」をぜひご覧ください。
「希望のちから」
乳がんをはじめとし、多くのがん患者さんの命を救うこととなった分子標的薬「ハーセプチン」を開発したスレイモン博士のヒューマンドラマです。米国ならでは、の、チャリティ活動や寄付の広がり、患者会どうしが連携し臨床試験に参加して研究を促進するアクティビティなど、日本でもぜひ実現していきたいヒントがたくさんです。
オンコロはこれからも、臨床試験の推進に尽力していきます。これからもどうぞ、皆さんのお力添えをよろしくお願いいたします。