がん啓発をエンタメで発信する!アイドルが小児がん、AYA世代のがん、臨床試験と真摯に向き合う「オンコロ」ライブ@南大塚ホール


  • [公開日]2023.03.20
  • [最終更新日]2023.03.22

【寄稿】文・写真:乃木 章

がんは日本人の生涯で、2人に1人がかかる身近な病気です。年齢に関わらずがんになる可能性は誰にでもあるものです。しかし、がんのイメージがネガティブなため、多くの方はがんについて話したがらないですし、目を背けてしまいがちです。一方で、国が検診を進める肺がん、胃がん、乳がん、子宮頸(けい)がん、大腸がんの5つのがんの内、大腸がん、子宮がん、乳がんは早期発見できれば9割以上の人が治る可能性が高いと言われています。

一方で、小児がん、AYA世代(15歳から39歳)のがんに有効な予防、検診方法はなく、これらのがんについては、有効な治療法・治療薬の開発、臨床試験が重要とされています。そのような想いから、がん情報サイト「オンコロ」が2016年から開催しているのが、女性シンガー、アニソン歌手、アイドルを通したがん啓発イベントです。悪性リンパ腫を乗り越えて復帰を果たした、アイドルグループ「私立恵比寿中学」安本彩花さんのように、エンターテインメントは多くの方に勇気、がんと向き合う機会を与える力があります。

3月3日、東京・南大塚ホールで、がん情報サイト「オンコロ」×豊島区×TIGET共催 Remember Girl’s Power !! (オンコロライブ)Spin Out Program『アイドルと学ぶ「小児がん・AYA世代のがん、臨床試験、がん検診」のことトーク&ライブ』が開催されました。

同イベントの参加費は無料。司会は笠井信輔さんが務め、アイドルグループ「しろもん」、「Hey!Mommy!」、「愛乙女☆DOLL」によるステージパフォーマンス、そして、ゲストに浦尻一乃さん、高須将大さん、山口拓洋教授、豊島区役所から佐藤信博さんを呼んでの「小児がん・AYA世代のがん、臨床試験、がん検診」啓発を目的としたトークライブが公開され、オンライン配信もされました。

■しろもん×浦尻一乃「小児がん」
伸びしろ成長系正統派アイドル「しろもん」は、藍乃りあさん、湖東さとのさん、長澤奈未さん、乃上ふう香さん、藤崎葵さん、若槻彩香さん、小野田澪さんの7人で構成されるグループ。爽やかで元気いっぱいな「ジグソーパズル」「とびきりSummer Jump!」「瞬間☆サマーデイズ」の3曲に続き、リズミカルでテンポが速い「思い立ったがFEVER」でガラリと雰囲気を変えて、青春の切なさを感じさせる「ハニカミソーダ」「君の魔法」で締めくくりました。

同グループが対談したのは、小児がんが寛解した大学生の浦尻一乃さん。5歳の時にがんを患い1年半、一度寛解したものの10歳の時に再発して半年間治療を受けました。再発時のほうが年齢は上がったので、髪の毛が抜けたり、吐いてしまったりといった「辛い記憶が残っている」そうです。とくに、学校に通いながら治療を受けられたものの、髪の毛が抜けてしまったことで一部の同学生から、心無い言葉を浴びせられました。

若槻彩香さんからの「中でも一番辛かったのは?」という質問には、幼い時分だからこそ治療のために入院して「家に帰れなかったこと」と答えました。しかし、当時の浦尻さんは母親が一緒に寝泊まりして励ましてくれたものの、現在は新型コロナウイルス感染症の影響で親との面会時間が限られて孤独な思いをしている小児がん入院患者が多いのが現状です。

藤崎葵さんから「寛解後に大変だったことは?」という質問からは、小児がん寛解後の問題が浮き彫りになりました。浦尻さんは子どもの時に抗がん剤治療を受けた影響が大人になってから出てくる晩期合併症になってしまい、腎機能障害、低身長、腸障害などの障害を抱えてしまったのです。とくに腸障害が辛く、食事をするとお腹が痛くなって授業を抜けざるをおえなくなるため、通学がある日は帰宅してから食べるように我慢していると明かしました。

将来、臨床検査技師になるために学んでいる浦尻さんは、がんサバイバーとしての啓発活動や社会貢献活動に勤しんでいると言います。同じくがん闘病経験者の司会・笠井さんは「がんが寛解した方は自分の命が生かされた意味があると考えて、社会貢献活動をする人が多い」と説明してくれました。

最後に、乃上ふう香さんから「身の回りに小児がんを経験された方がいたら、知ってほしいことや同世代の私たちができることはありますか?」の質問に、浦尻さんは「小児がんが治る時代になったからこそ、晩期合併症や復学という問題が出てきた。手助けしてくれる人がいれば本人もできることが増えるので、そういう方が周りいたら助けてくれると嬉しいです」と気持ちを伝えています。

一方で、小児がんは子どもの時に克服して終わりではありません。晩期合併症などの治療が続く中でも、医療費の助成金が20歳までしか出ないため、20歳以降も治療を続ける人たちが経済的負担を強いられているのが現状です。そのことに関しても国に考えてほしいと呼びかけていく必要があるといいます。

■Hey!Mommy!×高須将大「AYA世代のがん」
続く、「SACO PROJECT!」オーディションで、約1000人の応募者から選ばれた「Hey!Mommy!」は、原明日香さん、秋元悠里さん、佐々木ひまわりさん、今丘葉月さん、延松舞佳さん、平松栞奈さん、作島藍さんの7 人で構成されるグループ。全力の笑顔とダンスで力一杯のパフォーマンスが持ち味で、「BOOOOOOON」「Hey! Baby!」「START RUSH!!」「Voyage!」「CANDY POP」「SCP!」を披露しました。一つ一つの振り付けが大きく、見ていて気持ちの良いテンポの速さでした。

同グループが対談したのは、年間約2万人が発症する15歳から39歳までのAYA世代がん体験者である格闘家・高須将大さん。24歳の時に肝臓がんを発症し、ステージ4で一時期は余命3カ月を宣告された状態を乗り越えて、現在は経過観察中ながら格闘家として復帰し、パーソナルトレーナーとしても活躍しています。余談ですが、「オンコロ」コンテンツマネージャーの柳澤昭浩さんも高須さんのジムに通って7キロの減量に成功したそうです。

高須さんは再発した際、手術直前にもかかわらずリングに立ちました。「がんになったことによって、好きなこと諦めてしまったり、ふさぎ込んだりしている人に、闘病している自分が勇気やメッセージを残せればと思って戦った」と生き様を見せています。

メンバー最年少で16歳の平松栞奈さんから「がんになった時はどんな気持ちでしたか?」と聞かれると、「仕事も格闘技もバリバリやっていて試合前の状況だった。突然、仕事も試合もできなくなってしまい、その時はショックだった」と赤裸々に答えました。それでも、必ず病気を治して格闘技をやると、気持ちを切り替えたそうです。

延松舞佳さんから「闘病中のAYA世代の方に伝えたい思いは?」と聞かれると、「自分は余命3カ月という状態から今は元気になって、大好きな格闘技をやれるようになった。がん=死というイメージがあるけど、今は治療が発達してそんなことはない。落ち込まず、諦めずに今まで通り過ごしてもらいたい」とエールを送りました。

■愛乙女☆DOLL×山口拓洋教授「臨床試験」
トリを務めたのは、全国ツアー中にもかかわらず参加してくれた2010年に結成の「愛乙女☆DOLL」で、日向春菜さん、太田里織菜さん、佐倉みきさん、前田美咲さん、星凪桃佳さん、矢野美優さん、青山玲奈さん、新穂貴城さんの8人で構成されるグループ。「Proud of you」「誰よりキミがNo.1」「流れ星」「Heatup Dreamer」「永遠グローリー」「BRAVER」の6曲を高いパフォーマンスで歌い切りました。歌と踊りの抜群の安定感はさすがで、フリルスカートをはためかせる動きのある振り付けが、存在感を放っています。

同グループが「臨床試験」をテーマに対談したのは、アイドルファンとしても知られる、東北大学大学院 医学系研究科・医学部 医学統計学分野の山口拓洋教授。臨床試験とは、新しい薬や治療法などの効果や安全性について確認するために行われるもので、基本的には開発が始まってから厚生労働省に認可されるまで10〜20年かかり、保険治療が適用されるものです。

太田里織菜さんからの「死亡する確率もありますか?」というストレートな質問に対しては、「従来の治療法で効果がないがん患者さんなどは、新しい治療法に賭け、リスクも承知の上で参加することがある」と隠さずに答えました。チャレンジ精神が結果として、臨床試験には重要になる側面があります。

佐倉みきさんの「臨床試験で受けた薬が自分に効果があった場合、試験が終わっても同じ薬を使うことはできるの?」という鋭い質問に山口教授も唸りました。しかし、基本的には「試験期間が終わったらデータを収集して分析し、効果と安全性が認められて、厚生労働省に認可されてやっと一般の方への使用が認められます」との回答が。

一方で、前田美咲さんが質問した「臨床試験のアルバイトがあるんですよね?」という、患者さんではなく健康な方に参加してもらう試験の場合、「効果がある、安全かどうかの一歩手前ですね。薬が体の中に入ってどういう動きがおきるかを調べる段階」になります。健康の方を対象にした臨床試験は、試験の参加条件を満たせば誰でも受けることができます。

そして、青山玲奈さんは新型コロナウイルス感染証の流行でワクチン開発・認可されるまでのスパンが早かったことで、「一般的にどれくらいの期間で認可されるんですか?」と疑問を寄せました。これに対しては、「ワクチンの臨床試験はアメリカやヨーロッパで数千〜数万人単位でスピーディーに行われ、アメリカで認可されたことで、特別に日本でも認可された」経緯があります。あくまでも緊急性が高い場合の対応でしたが、近年は日本でも臨床試験も早く行えるようになり、厚生労働省で認可されるまでのプロセスも短縮されたので、認可までのスピードが早まっているそうです。

山口教授は臨床試験の重要性を多くの方に知ってほしいと呼びかけ、「さまざまな切り口がありますが、エンタメによる発信力が大きい」と同グループの参加に感謝を述べました。

■がん検診で早期発見を
最後は、豊島区池袋保所地域保健課がん対策・健康計画グループから佐藤信博さんが、豊島区がん検診PRキャラクター・ももかちゃんの等身大パネルと一緒に登壇。「がん検診は体の調子が悪いから受けるではなく、がんの早期発見のためのもの」だと強く訴えました。ステージ1、2の人は自覚症状がないので、早期発見で治る可能性が高い内に発見することが必要になります。豊島区では4月下旬くらいをめどに、対象者に無料のがん検診の案内を送っているため、がん検診を受けてほしいとのことでした。

次回は6月にライブを予定しています。

全体を通して視聴者や来場者に、エンタメによってがんの啓発をする意義を感じました。またそれに加えて、アイドルグループの方々も10代、20代の若者です。がんを体験した当事者の話を聞くことは普段の生活ではあまりない貴重な機会になったはずです。このように主催者、自治体、来場者、出演者が一体となって啓発の機会を生み出していくオンコロの価値が広まっていくといいなと感じています。

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