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【特集・創薬の舞台裏を知る!(前編)】希少疾患の薬の開発に挑戦するノーベルファーマ
―患者さんたちが、希少がんの治療薬開発のためにできることはありますか?
島崎 前回、希少がんの開発は、他の希少疾患以上に難しいという話をしましたが、もちろん、希少がんを対象にした医薬品の開発もヒトに効果が期待できるものがあれば前向きに検討します。その際、臨床の先生たちの団体である学会や患者会の強い要望があることが決め手になる場合があります。小児の難病や遺伝病などは、患者さんの親たちの要望活動が治療薬の開発を後押しすることも少なくありません。がんの場合は、患者さんが亡くなることも多いので難しい面があるかもしれませんが、患者団体が声を上げていくことが重要です。
菅谷 例えば、脳腫瘍の一種である悪性神経膠腫の治療薬であるギリアデルは、患者団体である脳腫瘍ネットワークの要望を受けて2008年9月の未承認薬使用問題検討会議(現・医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議)で検討がなされ、厚生労働省より当社へ開発要請があった医薬品です。関連学会や患者団体から「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」へ要望が出され、同会議で必要性が高いということになれば、他の製薬企業も開発に乗り出す可能性があります。
三村 既に承認されている医薬品の適応拡大を含め、医薬品の承認・審査を行う医薬品医療機器総合機構(PMDA)を動かすには患者団体の要望は役立ちます。一方で、当社としても、大学や研究機関とコンタクトを取り、必要でありながら顧みられないけれども、成功確度の高そうなシーズ(創薬の種)がないか、幅広く探すようにしています。
―治験を進めるためにできることはありますか?
島崎 言うまでもなく、薬の開発のためには治験が必要です。希少がんを含む希少疾患の治験は、患者数が少ないだけに、治験に参加してくれる被験者を集められるかが問題になります。希少がんのように患者数の少ない病気は、日本だけでは被験者が足りないため国際共同治験になることも少なくありません。その際、国際的な患者レジストリ(疾患登録システム)情報がないと開発が進んでいかない面があります。難病をはじめとする希少疾患の分野では、疾患別ではなくもっと幅広い疾患を対象にした国際的な患者レジストリが構築されつつあります。希少がんに関しても、患者さんたちが積極的に協力して患者レジストリのデータベースが構築されると、有望な化合物があったときに、当社だけではなくて、大手の製薬企業も開発に積極的に取り組むことになるかもしれません。
三村 国内でも、どの病院にどういう患者さんがいるか分かると、患者さんがいる施設にだけ治験の依頼をすればいいので効率的です。そのことによって開発のスピードが早くなれば、それだけ早く患者さんに薬を届けられる可能性が高くなりますし、開発コストが下がり事業性も上がりますから、患者さんにとっても製薬企業にとっても良い面があります。
―希少がんの患者さんにメッセージをお願いします。
島崎 一人で悩まないで欲しいですね。まれな病気でも必ず仲間がいます。インターネットなどで発信するうちに仲間ができて、薬の開発につながることもあります。難病対策では、昨年、難病の患者に対する医療等に関する法律が施行され、医療費助成などの支援を受けられる難病がいっきに増えました。薬の開発だけではなく、患者さんたちの声が制度を大きく動かすことがあります。一人で抱え込まないことが重要です。
三村 希少がんに関しては情報が少ないので、国立がん研究センターのがん情報サービスなどで、正しい情報を集めることが大切ではないでしょうか。情報がなければ、正しい情報を発信してもらえるように、国や病院などに働きかけていくことも必要かもしれません。
菅谷 ここ数年、ようやく国を挙げて創薬を目指す方向へ動き始めました。当社としては、ニーズがあって大手が開発に取り組まないような医薬品の開発には、事業性を考慮しつつ、今後もできる限り取り組んでいく方針です。もしもご自分の病気を対象にした治験があるときには、当社の治験に限らず、担当医の先生と相談し、治療法の選択肢の一つとして検討してもよいのではないでしょうか。
(構成/医療ライター・福島安紀)