「がん対策推進基本計画 第2期」の重点項目に小児がんが加わり、2012年から新たな枠組みの中で小児がん対策が進められています。全国で15か所の「小児がん拠点病院」が選定されて4年。専門性の高い治療と手厚いトータルケアを必要とする小児がんの子どもたちが適切な場所で医療を受けられるよう、小児がん拠点病院には集約化と医療連携が強く求められています。現在、がん対策推進基本計画 第3期における小児がん対策の見直しも行われていますが、このシリーズでは、小児がん診療の新しい仕組みづくりに関わってこられた医師と患者支援者のかたに小児がん拠点病院の現状と課題についてお聞きしました。

■選定の際に「総合力」を重視したため地域に偏り

 日本小児血液・がん学会の登録症例数などのデータから小児がんの年間の罹患者数は2000~2500人と推測されています。年間の罹患者数が約98万人といわれる成人のがんと比べると、その数は極端に少なく、「希少がん」と呼ばれる分野に位置づけられてきました。しかし、小児がんは子どもの病死原因の第1位です。また、治療中は発育や教育の問題が生じ、治療後の経過も成人と比べて長いため、晩期合併症などの問題も抱え、決して対策をおろそかにできるものではありません。成人に遅れること6年、ようやく国は2012年から実施している「がん対策推進基本計画 第2期」の重点項目に小児がんを加え、それに基づいた小児がん対策を始め、2013年に15か所の「小児がん拠点病院」を選定しました(表1、2)。そして、2014年には拠点病院を牽引し、全国の小児がん医療の質を向上させるために国立成育医療研究センターと国立がん研究センターを「小児がん中央機関」として指定しました(図1)。

 小児がん拠点病院の整備にあたり、国の「小児がん医療・支援のあり方に関する検討会」では、小児がんの患者数は少ないため、医療機関によっては必ずしも適切な医療を提供できていないことが懸念されることから一定程度の集約化の必要性を指摘し、当面は地域ブロックごとに1~3機関、全体では10機関程度の設置が適当であると示唆していました。しかし、国の公募に対し全国から37医療機関が申請し、書類選考とヒアリングを経て、最終的には15医療機関が選定されました。国は選定の際、個々の医療機関の小児がん領域における総合力を重視したため、地域に偏りが起きています。国立成育医療研究センター小児がんセンター長の松本公一さんの資料によると、小児がん拠点病院による地域別小児がん推定捕捉率は図2のとおり。この資料では「近畿地区は5か所の拠点病院があるため、比較的充足しているといえるが、中四国地区は拠点病院が1か所しかなく、十分なカバーはできていない」と指摘しています。

全国に15か所ある小児がん

小児がん拠点病院の指定要件-1

小児がん拠点病院の指定要件-2

小児がん診療体制

小児がん拠点病院による地域別小児がん推定捕捉率

図1、2 出典/国立がん研究センター小児がん情報サービス「第1回小児がん中央機関アドバイザリーボード資料/小児がん拠点と中央機関の役割」

■拠点化によって中核となる医療機関がより一層明確に

 こうした地域偏在の問題は抱えているものの「拠点化された意義は大きい」と大阪市立総合医療センター副院長の原純一さんは評価します(写真①)。原さんは小児血液腫瘍の専門家で、がん対策推進協議会の小児がん専門委員会の委員長を務め、小児がん拠点病院の整備にも取り組んできました。「小児がん拠点病院の必須要件を満たすために、少なくとも申請をした37医療機関はこれまで整備してこなかったことに着手し、小児がん医療体制を充実させるきっかけになりました。また、小児科そのものが減少する中、それぞれの地域で集約化は進んでいたものの、拠点化によって小児がん医療の中核となる医療機関がより一層明確化されました」と原さんはメリットについて話します。

 一方、原さんは「拠点化されてまる3年が経過し、取り組みに対する温度差が出てきているように感じます」とも打ち明けます。なかでも大学病院はその差が大きく「組織全体の中で小児がんがどのくらい認識されているかということが病院のバックアップ体制に影響していると思います」と原さんは指摘します。たとえば、拠点化することで患児やその家族にはアクセスの不便さを強いることになるため、小児がん拠点病院では家族が利用できる長期滞在施設が整備されています。しかし、実際に利用するとなると成人患者の家族で埋まっていて小児がん患者の家族は利用できなかったというケースは少なくないといいます。

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写真1
大阪市立医療センター副院長の原純一さん。
がん対策推進協議会小児がん専門委員会委員長を務め、拠点化の整備に取り組んできた。

■宿泊費や交通費を捻出できず受診できない家庭も

 治療に伴う宿泊や移動にかかる費用は、親の経済的負担を直撃します。「病院の長期滞在施設を利用しても1日1000円かかります。安いように思いますが1か月にすると3万円。親の食事代などの生活費を加えると最低でも月6~7万円の出費は必要で、看護にかかる費用はボディブローのように家計に響いてきます」と原さんは実情を説明します。病院の長期滞在施設を利用できなかった場合、家族は高い費用を支払ってホテルに滞在するかアパートを借りるか、あるいは片道数時間かけて病院まで通うことになります。

 これらの負担は拠点化される以前から問題になっていたことで、患者支援団体の中には自分たちで宿泊施設を確保して患児の家族に提供しているところもあります。公益財団法人「がんの子どもを守る会」もこうした活動を行っている団体の一つです(写真2)。「大半の家庭が共稼ぎで、子どもの看病のために休職する、あるいは退職することになると、それだけで年収が半減します。こうした状況の中、遠方での治療で二重生活になるわけですから親御さんの経済的負担はとても大きいものがあります」と同会理事長の山下公輔さんは話します。

 同会では親の経済的負担を少しでも軽減するために設立当初から「療養援助制度」を設け、療養に必要な費用の支援も行っています(写真3)。「療養援助の申請書からも小児がんの子どもを持つご家庭の経済的状況が年々厳しさを増していることがよくわかります。そのため、当会においても経済的に苦しいご家庭により多くの金額を支給できるよう2016年4月から所得制限を設けました」と山下さんは打ち明けます。この点について原さんも「社会で子どもの貧困が問題になっているように、小児がんの子どもを持つ家庭も決して例外ではありません」と指摘します。そして、小児がん拠点病院にかかりたくても宿泊費や交通費などの費用が捻出できず、貧しさのために受診できない家庭も多いことを懸念します。(中編に続く)

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写真2
公益財団法人「がんの子どもを守る会」理事長の山下公輔さん。同会では保険会社のアフラックの支援で宿泊施設を付帯した総合支援施設「ペアレンツハウス」の運営を行っている。

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写真3
公益財団法人「がんの子どもを守る会」では療養援助などの小児がん患者家族支援のためにチャリティーTシャツの頒布も。

取材・文:医療ライター・渡辺千鶴


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