第64回日本肺癌学会学術集会が11月2日(木)~4日(土)に千葉・幕張にて開催される。
そこで今回は、会長を務める国際医療福祉大学成田病院 院長/千葉大学医学部附属病院呼吸器外科 特任教授の吉野 一郎先生に、本学術集会にかける想いや注目ポイントを伺った。
インタビュアー:がん情報サイト「オンコロ」コンテンツ・マネージャー 柳澤 昭浩
がんを治したいという想いを胸に
柳澤:まずは吉野先生が医師を目指され呼吸器外科医として進んでこられた経緯を教えてください。
吉野:医師を目指したきっかけは、医師であり研究者であった祖父の影響が大きいです。また、父を大腸がんで亡くした経験もあり、がんを専門に選びました。当時がんは外科でしか治らない時代であったため、外科医を選択。どんながんの手術もできるブラックジャックのような存在を目指して、当時手術が難しく専門家も少なかった呼吸器外科に進みました。我ながら単純だったのだな、と今更ながら思い出しています。
他領域の専門家が集まり幅広く活動を進める肺癌学会
柳澤:高い志を持ってここまでこられたことが伝わってきます。そして現在は、日本肺癌学会でも活動されていらっしゃるわけですが、医療系の学会について知る機会のない一般の方に向けて、学会の役割を教えていただけますか?
吉野:一般的な臨床系の学会には二種類あります。
まず一つ目は、病院や大学にあるような診療科・教室の名前を冠する学会で(日本呼吸器学会、日本呼吸器外科学会など)、それぞれの領域の専門家(医)のキャリア形成、学術集会、学術研究などの活動をしています。もう一つは、特定の疾患領域に関わる専門家(外科、内科、放射線科、病理、研究者)が集う横断的・学祭的な学会で、日本肺癌学会はこれに該当します。それぞれの立場から知恵を出し合い、協力して肺がん診療のレベルを高めあっていく学会であると思います。
更に日本肺癌学会では、肺がんを患った患者さんもメンバーに加え、専門家と患者さんの架け橋になれるような活動もここ数年で進めてきています。
また、学会自体がデータ収集・研究をしようという取り組み(産学協同研究など)や、学会側から規制当局へ働きかけを実施するなど、研究や教育のための専門家集団という色だけでなく、日本の肺がん患者さんのために幅広く活動しているという特徴があります。これは他の学会と比較しても、活動性や実効性がかなり高いと考えています。
柳澤:学会としてきちんと目標を設定し、具体的なゴールに向かって戦略的に活動されているということですね。では、学会における学術集会の位置付けはなんでしょうか?
吉野:学術集会は学会の中で一番大きな事業の一つであり、学会の「表の顔」の部分であると思います。毎回4,000人くらいのメンバーが集まります。
主に研究発表、情報共有、教育の場としての位置付けです。また、肺癌学会学術集会では、会期中を通して実施される患者さん向けプログラムも充実しています。更に、企業の方の参加が活発という特徴もあり、現場の考えを勉強できる機会として利用しているのだと思います。
リアルな情報共有を通して、今どんなことがホットトピックなのか、周りの仲間がどんなことを考えられているのか、ということを肌で感じられる貴重な場でもあります。明日の臨床や研究の動機付けにもなっているはずです。
柳澤:コロナ禍でWeb主体の時期もありましたが、ようやくオンサイトでの学術集会の開催ができるようになってきましたね。ぜひ今年も現地で多くの人が集まることに期待したいです。
第64回肺癌学会学術集会にかける想い
柳澤:日本肺癌学会学術集会は、還暦越えの歴史の長い会ですが、今回のテーマ「Rally of Enthusiasm and Wisdom -情熱と叡智の結集-」にはどんな想いが込められていますか?
吉野:ひとつの疾患に対して色々な立場の人がそれぞれ努力をしている、ということを表現しています。そして、誰が「集結」するかという点をあえて書いてないのは、”みんな(研究者、臨床医、患者さん、メディアや企業)が“、という想いを込めたからです。
もう一つ今回の学術集会のテーマの表現として、手前味噌で恐縮ですが、自身が監修したポスターの絵を見ていただきたいと存じております。研究者が一生懸命土壌作りをし、芽が出た成果を実臨床の現場で臨床医が木を育て、そこでできた実が患者さんのもとに届く。そして実から出た種は、土にかえり次の研究につながる。その流れを示しています。
柳澤:色々な立場の人によって実現して、成果が出て、また次世代の研究につながっていくということですね。
臨床と基礎研究の経験の集大成としてのプログラム
柳澤:今回のプログラムへの吉野先生のこだわりなどがありましたら教えてください。
吉野:自身の専門は手術と集学的治療なので、その観点からいくつかポイントを挙げたいと思います。
まず、肺がん治療の開発の歴史の中で、薬物療法は手術ができない患者さんを対象としてきた背景があります。しかしここ数年でようやく、手術ができる患者さんにおいても薬物療法の力で更に予後が改善できる時代がきています。特に今年は、手術と術前・術後薬物療法の組み合わせによる臨床データが数多く発表されていますので、同学術集会においてもその点を強調したいと考えています。また、自身は九州大学から留学時代に腫瘍免疫を研究していた経験があります。夕方に手術を終えて、その標本を持って明け方まで実験をしていた頃もありました。免疫の基礎研究が臨床に届く日が来るとは誰も信じていない時期もありましたが、免疫をなんとか活性化しようという発想から、免疫の抑制を解除したことで成功に導かれたわけですが、長い苦労の時代を思い返すと大変感慨深いです。
そして最近になってこの免疫療法と手術を組み合わせたデータも出てきており、それを自身が運営する学術集会で取り上げることができるのは非常に喜ばしいことです。現在の薬剤開発の根底には、当時の外科医の基礎研究における地道な努力もあることを忘れないでいたい、ということも今回訴えたいメッセージの一つです。
柳澤:外科医・研究医のご経験を持つ吉野先生ならではの視点ですね。
吉野:手術ができない患者さんに関しても薬剤だけで治癒率が高くなってきていますが、まずは手術ができる早期の患者さんに対して100%の根治率を実現させるところから始めたいというのが自身考えです。特に、手術だけでは根治が難しい患者さんに対して、手術+α(薬)で治る時代を作り、その次にもしかすると手術も要らなくなる時代が来るかもしれないと考えています。
柳澤:お話を伺っていると、一つの疾患をターゲットに、内科の先生方は薬物療法によって進行期の症例を中心に、外科の先生は手術によって早期の症例を中心に、というように、立場の異なる専門家がそれぞれのアプローチで肺がんの治療に向き合ってきているというイメージを抱きました。
一押しセッションやおすすめポイント
柳澤:特におすすめのプログラムなどがありましたら教えてください。
吉野:今年世界で注目を集めた有名な臨床試験のデータを取り上げるアンコールセッション、国際共同研究の日本人データなどが初めて報告されるグローバルセッションなどがあります。
患者さん向けのペイシェント・アドボケイト・プログラム(PAP)も、3日間を通して開催していますので、ぜひお越しいただき、有意義な時間を過ごしてほしいと思っています。
また先ほどもお話にあげた周術期のセッションも数多く組んでいますし、縮小手術に関する日本からのエビデンスに関してもスポットライトを当てています。
柳澤:最後に参加の方々へのメッセージをお願いします。
吉野:コロナ禍の試練の時期はまだまだ続いていますが、国の政策も変わり、今回はリアル開催をしたいと考えています。それによって、生の討論・情報交換ができるだけでなく、どういうところで会場が沸くのかという臨場感などが分かると思いますので、肺がん治療のトレンドを肌で感じてほしいと考えています。
(文責・浅野 理沙)
第64回肺癌学会学術集会開催概要
■学術集会ホームページ:
http://conference.haigan.gr.jp/64/
■会期
2023年11月2日(木)~4日(土)
■会場
幕張メッセ(国際会議場・展示ホール8)
〒261-8550 千葉市美浜区中瀬2-1
TEL: 043-296-0001(代) FAX: 043-296-0529
■会長
吉野 一郎(国際医療福祉大学成田病院 院長/千葉大学医学部附属病院呼吸器外科 特任教授)
■テーマ
熱意と叡智の結集
Rally of Enthusiasm and Wisdom
■主催事務局
千葉大学大学院医学研究院 呼吸器病態外科学(呼吸器外科)
〒260-8670 千葉県千葉市中央区亥鼻1-8-1
TEL: 043-222-7171 FAX: 043-226-2172
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