新型コロナウイルス感染拡大はがん治療だけでなく、患者の支援活動にも影響を及ぼしている。昨年まで当たり前に開催できていた有観客のイベントやセミナーがこの半年間ほとんど開かれていない。しかし、代わりに活発となったのがオンラインの活用だ。LINEのビデオ通話やWeb会議システムZOOM等を使って、顔を映しながら交流を深めるイベントやセミナーが数多く開催されている。今回は小児がん、AYA世代のがん経験者が行ったオンラインセミナーやイベントから、ひと工夫加えた取り組みを紹介していく。
認定NPO法人にこスマ九州
事務局長 井本 圭祐
https://nicosuma.net/
AYA GENERATION + group
代表 桜林 芙美
https://aya-generation-plus-group.jimdosite.com/
NPO法人がんノート
代表理事 岸田 徹
https://gannote.com/
大阪ガス株式会社 近畿圏部 ソーシャルデザイン室
ダカラコソクリエイト発起人・世話人/カラクリLab. 代表
谷島 雄一郎
https://dakarakosocreate.com/
https://lab.dakarakosocreate.com/
Q.これまでの活動について教えてください。
井本さん:私は認定NPO法人にこスマ九州という、「広げよう笑顔の輪」を合言葉に、小児がん経験者を支援する団体で活動しています。コロナ以前は年に2回、小児がん経験者の子どもたちを30〜40人ほど集めたキャンプを主催していました。加えてAYA世代と成長した小児がん経験者の交流会や啓発活動を行っていました。
桜林さん:私はAYA GENERATION + group (アヤジェネレーションプラスグループ 愛称:アグタス)という、小児がん経験者とAYA世代がん経験者と40歳を超えたロングサバイバーを支援する組織を2019年末に立ち上げました。その後すぐにコロナの感染拡大となってしまい、これまでの活動はありません。ただ当初は、オフライン、オンラインの交流会や、他のAYA世代の患者会とのコラボレーションを企画していました。
岸田さん:僕は「がんノート」という、がん経験者さんへのインタビュー番組のWeb配信を行っています。2014年から月に約2回YouTubeで生配信し、今年3月までに計129回続けてきました。
谷島さん:私は「がんの経験を価値に変える」をテーマにした「ダカラコソクリエイト」という活動をしています。がん経験者だからこそできることをワクワク感と楽しさをもってデザインしています。例えば、がんの闘病中にかけられて嬉しかった言葉を集め、それをLINEスタンプにしたり、がんの闘病中に支えられた医療機器を3Dプリンタで制作し、エピソードをつけて、ガチャガチャにしました。定期的にワークショップを開催して、活動を進めています。
もう一つの活動は、がんのことを話さなくてもいいけど、隠さなくていい社会になって欲しいと思い、まずはがんのことをカジュアルに話せる場として大阪の梅田でカフェ&バー「カラクリLab.」を社会実験的に運営しています。お客さんは患者さんや医療関係者の方が多く来店されていました。
Q.コロナ禍での活動を教えてください。
井本さん:まず3月に開催予定だった小児がん経験者のキャンプを中止にしました。7月のAYA世代の交流会はWeb会議システムZOOMを使いました。また今まで8月は1泊2日のキャンプを主催していましたが、それも難しくなったので、オンラインキャンプを実施しました。キャンプならではの、自然を楽しむことはできなかったのですが、子どもたちが自身の病気の話をするお話し会などはオンラインに置き換えました。また毎年作成しているチャリティカレンダーの表紙の創作活動もオンラインで行いました。イベント自体は3時間半ほどで約30人が参加されました。
※創作活動の手形
桜林さん:まずオンライン交流会を定期的に30回ほど開催しました。テーマを設けたり、全くテーマ設けなかったりパターンを分けました。またオンラインイベント「アグタススポーツonline」を開催しました。ヨガやフラダンスやエクササイズをグループに分かれレクチャーするといった内容です。いろんな状況の患者さんがいるので、20分程度の軽めのプログラムにしました。ちょうど楽しくなってきた段階で終了となってしまったので、みんなもっとやりたいなどの声あがりました(笑)
岸田さん:今まで年間30回ほど開催していた人が集まるイベントができなくなってしまった。その中で、ステイホーム企画として家にいても繋がりを感じてもらえるようなものが何かできないかと考えました。
そこで「今だからこそ、がんノート」という、外出自粛の中で思っていることや過ごし方を共有できたらと思い、毎回2名のがん体験者にインタビューし、それをインターネットで生配信をしました。「コロナ禍の今、どう過ごしていますか?」といったトークを中心に展開していきました。
その後、緊急事態宣言が終了した段階で「今だからこそ、がんノート」の取り組みを終えたのですが、非常に好評だったため、次は毎回「テーマ」を決め、天の声さんとゲスト2名を招き、オンライントークを生配信する「がんノートnight」を始めました。その中では、患者ゲストには病気についても伺いますが、病気以外のことも多岐にわたって楽しく話を聞くことができるので、それが魅力的だなと思っています。
また、今までの「がんノート」は、日曜の昼に生配信していましたが、「がんノートnight」は、毎週木曜日の21時から生配信することで、今までと違った層の方にも観ていただくことができているのかなと思っています。最近は海外からも観ていただいていたりするんですよ。
その他、不定期ではありますが「がんノートmini」というものも同時期に始めています。ZOOMを活用し、普段の90分の「がんノート」ではなく20分〜30分のショートバージョンとして撮影し、YouTubeにアップしています。
谷島さん:ダカラコソクリエイトについてはコロナ禍で不安が蔓延する社会に、がんの経験が活かせないかと考えました。がん経験者は治療で長期入院や自宅療養を強いられるという点で、言ってしまえば“自粛のエキスパート”ですよね。よってがんの経験者が闘病における自粛生活で培った工夫やアイディアを、イラストとエピソードにしてSNSを活用し発信しました。緊急事態宣言下の4/27から配信して、1日1エピソードで計30エピソードを配信しました。
カラクリLab.についてはカフェ&バーという3密を避けるのが難しい業態のため、実店舗を休業しました。ただ維持費は毎月発生するので、有料にしてがんに関心や関係のあるゲストを招くカラクリLab.オンラインを計15回開催しました。取り組みを持続可能なものにするためにも元々カラクリLab.は利用者にお金を払ってもらって運営をしていました。
4月ごろは「stay home」を合言葉に、様々な企業やアーティストがデジタルコンテンツを無料で提供していました。よって、魅力あるゲストと少人数で身近に対話できるというオンラインならではの付加価値をつけ、有料でもご満足いただけるような形を目指しました。
※アグタスのオンラインスポーツイベント
Q.これらの活動の気づきを教えてください
井本さん:良かった点はオンラインを活用することで距離関係なく、参加できることです。今回は関東圏からも参加いただけました。
課題は人数が増えた時に、ファシリテートするスタッフの人数が必要だと思いました。また、参加対象者が小・中学生だったので、オンラインだと抵抗のある方や、ネット環境が十分でないと参加できない難しさはありました。小学生の子たちはオンラインキャンプに参加するためにお母さんのスマホを3時間半独占するのはやはり難しいですね。
鳥井:小中学生と大人とでオンライン交流に違いはありますか?
井本さん:小学生の方が大人に比べて明るい雰囲気になると思いました。子どもたちの素直なリアクションもそうですし、周りできょうだいの子たちの声がするのも良いですよね。一方で大人と違ってこちらから投げかけをしないと話すことができない子もいるので、より場を回す人の役割が重要です。よってオンラインキャンプでは自身の病気のことや治療中の楽しかったことを書いた自己紹介カードを参加する子どもたちには用意しました。
桜林さん:私は今までどのがんのコミュニティにも参加してなかった方がアグタスに参加してくれ、またその方々に皆さんの団体の紹介をして、繋がっていくことがうれしかったです。またコロナ禍に患者会等の集まりがない状況で、がん告知を受けた方の役に立てたことも嬉しかったです。
難しいなと思ったのはリアルな場でやりたかったことが進められていない点です。当初オンラインを全面に出して活動する予定はなかったので、急きょネット環境やPCを準備したり、設備投資費がかかりました。また継続するためにも活動資金が必要ですが現状無償で行ってしまっているため、ここも難しい点です。
岸田さん:良かった点は、夜は患者さんもひとりでふと不安になる時もあるんじゃないかなと思います。その中で生配信できる仕組みをつくることができました。また以前のリアルな場では、準備や配信など半日がかりでしたが、オンラインを活用することで、準備も含めて2時間あれば、1時間分の放送ができるようになりました。
苦労しているところは、生配信の場合、問題なく配信できるか、ネットが落ちないかなどの不安や緊張は常にあります。そして、週1回開催しているので、去年よりも回数が圧倒的に増え、超大変です!
ただ、「今このタイミングでやらないといつやるんだ!」って、はっぱをかけている部分もあるのですが(笑)とはいえ、がんノートを始めたころから継続することが大切だと思っていますので、しっかり続けていけるように、スタッフの皆さんと力を合わせて頑張っていきたいと思っています。
谷島さん:良かったところはこれまで場所や時間の関係でカラクリLab.を知っていたけど行けなかったという人が参加してくれたり、様々なゲストの方々と繋がりができた点です。
難しさについて、ダカラコソクリエイトの場合は活動の場と活動費としての収益です。例えば3Dプリンタのガチャガチャは、今年は企業様のイベントでの利用でかなり受注が予定されていたのですが、 コロナ禍ですべて白紙になってしまいました。
カラクリLab.についてはゲストを招いて有料にしたのですが、参加のハードルが高くなってしまいました。また著名な方にゲストで参加いただいても、「がん」をテーマにすると途端に人が集まらなくなります。ゲストに興味はあっても、がんのことはちょっと…みたいな。
ハンバーグにピーマンを混ぜると、ピーマンは食べやすくなるけど、ハンバーグそのものの味は落ちる。魅力ある著名なゲストと「重い、怖い、わからない」といったがんの持つイメージは、このハンバーグとピーマンの関係に似ています。目指すべきはピーマンがあるからこそ美味しさが発揮できる青椒肉絲(チンジャオロース)のようなコラボレーションなのですが、この辺りのデザインの難しさを感じました。
またオンラインは話すことでしかコミュニケーションが成り立たないという点です。対面であれば、沈黙であっても成り立つものがオンラインだとそれが許されなくなってしまう。だから井本さんもおっしゃっていましたが、ファシリテーションが重要です。
あと岸田さんもおっしゃっていましたが、カラクリLab.の場合週2回はかなりキツかったです。お金を払ってご参加いただいていることもあり、毎回ゲストの方の下調べをして、緊張感のある場で、参加者全員に楽しんでいただけるよう均等に話を回さないといけない難しさがありました。とはいえ、早い段階でオンラインを活用し色々な経験ができたことが良かったです。
※カラクリLab.内を感染対策したものの営業の目処が立っていない
Q.これからやっていきたいことは何でしょうか?
井本さん:元々は子どもたちを集めてイベントを開催していましたし、感想を見てみていても「みんなに会いたい」といった声が多くあるので、コロナが明けたら集まるイベントをやりたいと思います。地域は関係ないといったオンラインのメリットは生かしつつ、集まることのできるイベントを開催していきたいと思います。
桜林さん:私たちの場合は活動初年で、これからどうしていくかという段階です。今は団体としてできることを増やしていきたいです。今開催しているテーマを決めた交流会もそうですし、ミニワークショップもそうです。加えて動画配信もはじめていまして、がんでない若年世代とも繋がっていきたい。コロナが明けたらオンラインと並行して、リアルな場も実施していきたいと思っています。例えば谷島さんのようにがんのことをざっくばらんに話せる場を開きたいと思っています。
岸田さん:すぐは難しいですが、コロナ禍がおさまったら、リアルな場で行う90分の通常の「がんノート」生放送をやりたいです。やはり、サバイバーの体験談を90分伺い、発信することが「がんノート」の軸であり原点だと思っています。
そして最近、リアルな場では「地方」での発信も大切にしたいなと思っています。地方では各地で特色が全く違い、現地のリアルなつながりと情報が大切だと感じているからです。
さらに「がんノートnight」などオンラインだけでも完結する配信も続け、リアルなイベントと両立して実施できる体制を作っていきたいと思います。そして、ネットとリアル双方の良いところをうまく活用していければなと思っています。
谷島さん:不幸中の幸いというべきか、コロナによってオンラインによる活動が加速し、場所や時間に縛られずにがんをカジュアルに語る文化ができやすくなるのではないかと思っています。今回も全国の方が、カラクリLab.オンラインに参加してくれました。現在では、カラクリLab.オンラインの日替わりマスターとして様々な方が様々なテーマでがんをカジュアルに語るというコンセプトのもと、新しい場づくりをはじめてくれています。アフターコロナの世界では桜林さんが企画されているような、がんのことが語れるリアルな場も全国に広がり、がんのことを隠さなくていい社会が実現できるとうれしいです。
※コロナ禍で配信されたがんノートのYouTubeアーカイブ
インタビューを終えて
4人のお話の共通点は、「行動力」でした。わからない事多い状況下で、やらない理由づけもできる。しかしまずやってみて、活動を続けていく中で、自身が考えてもいなかった気づきを得て、それを次の行動に活かしていく。このサイクルが非常に大切であると同時に、患者支援活動をするリーダーは自然とできているのだと思いました。