「学会」というと、患者にとっていかにも遠くにある存在と感じている人は多いのではないでしょうか。ところが近年、その在り方は大きく変化してきています。「これからの学会とは?」そして、「患者の力によって医療を変えていくには?」――日本の医療を向上すべく一石を投じ続けるお二人にお話をうかがいました。

 日本肺癌学会理事長であり、次期世界肺癌学会理事長、近畿大学呼吸器外科主任教授の光冨徹哉先生と、日本肺がん患者連絡会代表、NPO法人ワンステップ代表で、ご自身も肺がん患者である長谷川一男さんの対談です。(全2回)

“患者に近付く”学会と、“医療に近付く”患者会

― 今回お話をうかがうのは、日本肺癌学会理事長の光冨先生と日本肺がん患者連絡会代表の長谷川一男さんです。お二人は肺がん医療において、様々に協力して活動されています。まずは長谷川さん、日本肺がん患者連絡会がどのような組織なのかを教えてください。

長谷川:日本肺がん患者連絡会(以下、患者連絡会)は、日本中の肺がん患者会をつないでいる連合組織です。実は、少し前まで世界的に患者会があまりなかったんです。医療の進歩で生き延びる方が増えてきたおかげで、日本では2〜3年前からポコポコとでき始めました。

それらを横につなげよう、ということで患者連絡会を立ち上げ、現在は北海道から岡山までの11団体が加入しています。日本肺癌学会(以下、肺癌学会)には、設立当初から応援していただいています。

― 最近の学会は、数年前とはだいぶ変わってきていますね。

光冨:そうですね。もともと学会というのは、“医学研究発表の場”です。今もそれは変わらないのですが、近頃では学会の役割がかなり変化していると感じています。国会議員でがん患者だった山本孝史さんが声をあげて成立した「がん対策基本法」から、学会を患者さんとともに作っていくという機運が盛り上がったのだと思います。

肺癌学会で一番大きな流れとなったのは、第55回日本肺癌学会学術集会(2014年)で会長だった中川和彦先生が、「患者さんと共に」や「医師以外の医療従事者を巻き込んでいこう」と提言されたことでした。昨年(2016)に策定した、肺癌学会の価値判断基準である「コアバリュー」では、「この学会は“患者さんのためにある”ということを忘れないようにしよう」というものが一番に挙げられています。


<日本肺癌学会のコアバリュー>

長谷川:現在は、学術集会も垣根を超えて開かれていますよね。「医師だけではなく、みんなで医療をよくしていこう」とのことで、看護師さん・薬剤師さんなどの医療従事者や、私たち患者も、みんなで一緒に勉強できる場を設けていただけるようになりました。それだけでなく、今年の学術集会では「トラベルグラント(※)」という機会もいただきました。
(※患者会や患者が学会に参加するための旅費等の補助金援助。肺癌学会は、学術集会への患者参加を支援するため、100万円を患者連絡会に贈呈した)

光冨:トラベルグラントは肺癌学会前理事長の中西洋一先生が始められ、今年からは学会の予算として組むこともできました。今後も続けていこうと思っています。

長谷川:学会がそれだけ力を入れてくれているのはとてもうれしいです。
昨年は、世界肺癌学会にも参加させていただきました。受動喫煙防止啓発のVTR(※)を制作し、学会で流してもらうなんてこともしました。そんなワガママも聞いていただき、とてもありがたかったです。
(※受動喫煙防止啓発VTR<神奈川編> )

光冨:肺癌学会としても、長谷川さんという患者さんへの窓口ができたことは非常にありがたいです。患者さんの声を聞くにしても、以前は誰に声をかけたらいいか分かりませんでしたから。様々な点で、非常にいいパートナーとして認識しています。

「コラボレーションによって成果を出したことの意味は大きい」

― 近年、肺がん医療は大きく進歩しています。長く生きられる患者さんが増えたことで、「医療の在り方」や、「医師と患者のコミュニケーション」も変わってきているのではないでしょうか。

光冨:だいぶ昔の話になりますが、私が医師になってすぐのころは、「患者さんは何も知らなくてもいい」という風潮が日本にありました。学生時代は「がんの告知なんてするな」と言われていましたし。それがだんだんと本人に告知をするようになり、患者さんの希望とか、生き方を聞きながら治療をしていくようになりました。

長谷川:近年は、肺がん患者の心の有り方が激変しているのではないかと思います。以前は「どう生きていきたのか」という問いに悩むことすらできませんでしたが、今は、治療ひとつに対しても希望を言えるようになっています。「脱毛はいや」とか、そういった希望でも医師が一緒に考えてくれる、というふうに変わってきました。

しかし、年単位で延命できるようになった今では、「この先、どうやって生きていくんだろう」というような思いを抱くこともあります。そこは誰も教えてくれないので、医師とのコミュニケーションの必要度が上がっていると思います。

光冨:以前は治療法もなかったですし、「がんの宣告」が、即、「死の宣告」といったようなところがあり、何かを選ぶ余地もありませんでした。医学の進歩によって治療の選択肢が増えたことで、いろいろと別の悩みも増えているかもしれません。そのため、ますますコミュケーションが重要になっていますね。

― 肺癌学会と患者連絡会が協働し始めたことでの変化や成功事例を教えてください。

光冨:我々は肺がんの研究をしているけれど、その多くは肺がんの経験をしたことがありません。ですので、やはり病気になっている方がどのように思うかを聞きながら理想の医療を作っていくというのは非常に重要な活動だと思います。患者連絡会とつながり、患者さん側の意見を取り入れられているおかげで、新薬の承認などを規制当局への働きかける際にも、説得力のあるお話ができていると思っています。

長谷川:規制当局への働きかけで強烈に覚えているのは「ニボルマブ」のことです。当時、ニボルマブは、制度関連の問題で「承認されたけれども4〜5ヶ月使えない」という事態になっていました。その時、肺癌学会と患者連絡会が連名で要望書を提出したんです。そうしたら、すぐに改善されたんですよね。驚きました。

その驚きには二つあって、一つは「国もがんばって早く承認をしてくれたのだけれど、制度の隙間に落っこちてしまうことがあって、国はそれに気付いていない」ということ。もう一つは「そういった問題にこちらから働きかければ対処してくれることもある」ということでした。やはり、患者だけでなく学会と一緒に働きかけることができたことがよかったのだろうと思います。

光冨:学会の役目の一つとして、医療行政について専門家の立場で意見を述べることは積極的にするようにしています。行政の方とお話をしてみると、やはり “背中を押してもらう”ことは国としてもありがたいと言われます。そこに患者さんの声が含まれていると、根拠になりやすいとのことでした。

そのほかにも、連名でたくさんの要望書を提出しましたよね。そのためかどうかは断定できないとしても、結果的に要望どおりになったこともありました。「コラボレーションによって成果を出した」ということの意味は大きいと思います。

― 市民公開講座などを一緒に開催されることもありますね。

光冨:参加されたみなさんは、患者さんのお話だからこそ重く受け止めたり、勇気付けられたりすることもあると思います。医療従事者向けのセミナーでも、参加者を感動させているのは長谷川さんたち。私たちはかないません(笑)。多くの医療従事者は患者さんのまとまったお話を聞く機会がないですし、すごく勉強になっていると思います。

長谷川:そう言っていただけてうれしいです(笑)。私も、「市民公開講座を一緒に開いてくれる」「学会に勉強の場を作ってくれる」「要望書を一緒に出してくれる」、という先生方の姿勢に、とても勇気付けられています。

世界の中の日本の医療、そして長谷川さんが感じた「医師の影なる努力」とは?

― 様々に好循環を生んでいるお二人の活躍の場は、世界にも広がっています。光冨先生は、世界肺癌学会の次期理事長に就任されます。長谷川さんは世界肺癌学会のペイシェントアドボカシーアワードを受賞されました。お二人とも、おめでとうございます。

長谷川:ありがとうございます。昨年の世界肺癌学会では、患者アドボカシー(※)関連のセッションを、会期中の3日間に渡ってやっていました。そこで一番びっくりしたのが「国々の違いをふまえて、大きな目的をひとつ見つけよう」というセッションでした。
(※患者の立場に立って、政策や制度面を含めた問題解決に取り組むこと)

南米の国の中には、そもそも病気になったら医者にかかろうという意識がなく、「『あなたにはお医者さんにかかる権利がある』ということを知りましょう」という活動をしているという報告もありました。米国では高額薬剤の話、ヨーロッパだとEUの国と国の間にアクセスに関しての格差があるなど、国によって様々でした。日本がいかに恵まれている国なのかもよくわかりました。

しかし、そういった違いがある中でも共通しているのが、「肺がんになる人を少なくしたい」、「自分の病気に対する薬が出て欲しい」というものでした。それを世界で共有できたのは新鮮でしたし、うれしかったですね。また、このセッションが、医師の応援によって学会の一部として行われていることをとてもありがたいなと思いました。

光冨:たしかに、世界における日本の肺がん医療は非常に恵まれています。世界肺癌学会の役割とすれば、遅れている国を引き上げることが重要です。世界の医療のレベルは不均一に分布しています。日本は、それが高いところで均一であるという特徴があります。すぐに世界で日本流を取り入れられるとは思いませんが、「それができている国がある」と伝えることが日本の役目のひとつかもしれません。

長谷川:世界肺癌学会に限らず、学術集会でいつも一番に思うのは、「先生たちって、こんなにがんばって勉強しているんだ」ということです。立ち見でもいいからと、セッションに参加されている医師もよく見かけます。診察室では見ることのない、裏側の努力というのが伝わってくるんですよね。ほかの患者さんたちにも、ぜひそれを知ってもらいたいと思います。

光冨:その言葉は、私も医師の一人としてとてもうれしいです。これからも協力して医療をいい方向へ持っていきたいですね。

今回は、学会と患者会が協働することで成果を得た事例や利点などをお話いただきました。次回は、お二人も要望書提出などで尽力されている「新薬の承認」や、「コンパニオン診断の問題点」など、少し深めのお話をうかがいたいと思います。

(写真・文:木口マリ)

●プロフィール:
光冨 徹哉
近畿大学医学部 外科学講座 呼吸器外科部門 主任教授

1980年九州大学医学部卒。1986年九州大学大学院医学研究科修了、医学博士。1988年九州大学医学部第二外科助手。1989年米国国立癌研究所にて肺癌の分子生物学的研究に従事。1991年、産業医科大学第二外科講師、九州大学第二外科助教授を経て、1995年愛知県がんセンター胸部外科部長、2006年同副院長、2012年近畿大学医学部外科学講座呼吸器外科部門主任教授。肺癌の外科的治療を専門とするほか分子標的治療にも造詣が深い。日本肺癌学会理事長、日本呼吸器外科学会、日本臨床腫瘍学会各理事。2017年10月からは世界肺癌学会の理事長。

長谷川 一男
日本肺がん患者連絡会代表・NPO法人肺がん患者の会ワンステップ代表

神奈川県在住。46歳。肺がん。ステージ4。2010年に発症し、現在7年目。ワンステップが大切にしていることは「仲間を作る」と「知って考える」2ヶ月に1回のペースでおしゃべり会開催。HPとブログにて、様々なテーマで情報発信している。全国11の肺がん患者会が集まった「日本肺がん患者連絡会」所属・代表。2016年4月、NHK ETV特集でその闘病生活が放送された。世界肺癌学会にてペイシェントアドボカシーワード2016受賞。日本肺癌学会ガイドライン外部委員。


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