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本当の意味での患者中心の医療を実現したい

[公開日] 2020.05.12[最終更新日] 2020.05.12

目次

昨今のコロナウイルスの感染拡大に伴い、学術集会やセミナーなどのイベントが軒並み中止となっています。一方で開催の場をオンライン移行する組織が徐々に増えています。 “患者にやさしいがん医療サイエンス”をスローガンに活動する、International Society of Patient-Centered Oncology Science(以下ISPACOS;イスパコス)は、6月7日(日)に新型コロナウイルスをテーマにシンポジウムをオンラインにて開催します。そこでISPACOS代表で順天堂大学乳腺腫瘍学講座 主任教授、順天堂医院 乳腺センター長の齊藤 光江先生に組織のことやシンポジウムについて伺いました。

患者の声を十分に拾えていないことを課題に感じた

鳥井:ISPACOSの発足のきっかけを教えてください。 齊藤先生:私は乳がんの外科医ですが、外科医にも関わらず薬剤を扱わなければならないのが日本の多くの病院の現状です。海外では腫瘍内科医という薬剤を専門医扱う職種がありますが、私の専門とする乳がんでは外科医が薬剤を処方する責務も負っている現状があります。 加えて最近特に開発が進められている分子標的薬などは内科的知識が非常に求められているにも関わらず、副作用マネジメントも含め外科医が担っています。今まで遭遇したことない副作用を見るにつれ、外科医だけでなく薬剤師や看護師など、他職種連携したチーム医療がより求められるようになってきたと感じています。 そのチーム医療の中で、様々な職種の方が患者さんの声を極力聞くようにしてはいるのですが、医師は時間的制約の中、一人一人に十分な診察時間が取れないことも多く、外来の看護師には人員配置から人数不足等の問題があり患者さんの声を十分に拾えていないのではないかという懸念を以前から感じていました。 もっと患者さんの声を聞いて、それを医療従事者だけでなく薬剤開発に関わっている研究者や医療行政の方々にも届けたいと思い、他職種が繋がれる場としてISPACOSを発足させました。 鳥井:特に日常の診療で具体的に問題と感じたことはありましたか? 齊藤先生:例えばある分子標的薬を使った時のことです。本来は再発後すぐのアーリーフェーズで使用することが推奨される薬剤ですが、再発後かなり幾つもの治療を試した後に使用すると、短期間の処方でも患者さんに急激な疲労感を招き、がんもむしろ増大しているように見受けられた症例が続きました。がんが進行すると、薬剤が有効でなく病勢が悪化するのは当然という医療者や研究者の意見が多数で、その薬剤を使ったことで病勢の進行を招いたかどうか、真実はわかりません、思い過ごしだったかもしれませんが、少なくともこういった疑問に答える研究に興味を持つ人は極めて少なかったことに問題意識を持ちました。 患者さんにとっては、とても貴重な人生最終章に近い時期の生活の質に関わる問題です。予期せぬ病勢の進行を招くかもしれない、患者さんの満足感や納得感も得られない事例がありうる、こういったフィードバックを共有できる場が必要だと感じました。

開催するシンポジウムでは双方向の対話を重視する

鳥井:ISPACOSは普段どのような活動をしているのですか? 齊藤先生:まず年2回、シンポジウムを開催しようと決めたので、毎月1回運営会議を開いています。今どんなニーズや問題があるのかをメンバーで共有し、シンポジウムではどんなテーマを取り上げるかを話し合っています。また、必要に応じて課題解決に繋がる草の根活動も行っています。 鳥井:どのような立場の人がいて、何がきっかけで参加しているのですか? 齊藤先生:医師、薬剤師、看護師、患者さん、患者家族、製薬企業、PMDA、大学や企業の研究者、医師会、学生など様々な立場の方々が参加しています。初めは自分の知り合いと患者会に声かけをし、シンポジウムを開催するごとに、口コミで輪が広がっています。 鳥井:もしオンコロをご覧なっている方で参加したい方がいらっしゃったらどうしたらいいのでしょうか? 齊藤先生:まずは半年に1回開催されるシンポジウムに参加いただき、会の雰囲気などをみていただければと思います。シンポジウムは一方向で話すのではなく、極力双方向の対話を心がけています。またシンポジウム終了後の懇親会も患者さんや医療現場などのリアルな声が聞けるなど非常に有意義です。 鳥井:懇親会で印象的なお話はありましたか。 齊藤先生:例えば遺伝性の乳がん患者さんのお話でPARP阻害剤を院外薬局で処方された際、大きな声で説明をされてしまい、他の人に聞こえてしまうではないかと患者さんは心配に思ったそうです。これに対しては、その後日本薬剤師会と日本病院薬剤師会に申し入れをし、全国の薬剤師さんたちに注意を呼び掛けていただきました。 他には「カルテは誰のものですか」という疑問が投げかけられたこともありました。なぜ自分のデータなのにいろいろな手続きをして、お金を払う必要があるのかという問題です。答えは出ていません。もっと深く議論したいこれからの課題です。 鳥井:シンポジウムをどのような会にしていきたいですか。 齊藤先生:会の名前にインターナショナルと入っているように、国内で議論するだけでなく、海外とも連携し、お互いのノウハウを共有しあいたいと思っています。職種や言語など今まで壁だと思っていたものを取り払っていきたいと思っています。

こんな状況だから患者さんは新たな問題に直面していると思った

鳥井:6/7に開催される第4回についてお話いただけますか。 齊藤先生:第3回をバンコクで開催して、ほとんどの人が参加できなかったため、そのダイジェスト版を第4回では日本で紹介しようと元々は思っていました。しかし昨今のコロナウイルスの問題でそもそも開催自体を見送ろうという話が出ました。 ただ、こんな状況だからこそ患者さんは新たな問題に直面しているのではないかと思い、オンラインで開催したいと思いました。また、これまで力を入れていた抄録冊子の制作などは行わずに、より最新の情報を提供できればと思っています。 鳥井:どのような方々に参加いただきたいですか? 齊藤先生:一番は患者さんに参加してほしいです。今の報道を見ていると間違った情報が伝えられていることが度々あります。我々で情報収集をして、がん患者さんにとってのコロナウイルスについて、ここまではわかっていて、この部分はわかっていないなどと課題を明確にできるような内容にしていきたいと思っています。 鳥井:こういった情報は一般メディアも知るべきだと思いました。報道をみていると「アビガンを使って解熱、効果立証」なんてタイトルの記事が出ているくらいなので、報道する側のリテラシーも非常に重要だと感じています。 齊藤先生:まさにそうです。そもそも臨床試験がどう行われているのか、そのプロセスも当日のプログラムに組み込む予定です。 鳥井:最後にISPACOSの将来的なビジョンを教えていただけますか。 齊藤先生:本当の意味で患者中心の医療を実現することです。現状は各ステークホルダーがバラバラに活動し、患者さんの声が十分に届いているとはいえません。よって各ステークホルダーが繋がり、患者さんの声が生かされるサイクルを作っていきたいと思っています。 そしてがん医療は、癌の病巣がどれくらい縮まったか(計測可能病変の縮小率)、OS(全生存期間 )とPFS(無増悪生存期間)など客観的に計測できる治療効果を重視していますが、それだけでなく患者さんが自分らしく生活を送れているかを見ることができる医療を提供していきたいと思っています。 鳥井:この数年でよく耳にするペイシェント・セントリシティは何が足りないと思いますか。 齊藤先生:繋がりと対話です。製薬企業の方は患者に会うことが制限されていたり、一部の研究者は医者が集めた患者の情報を見るだけで、医療のエンドユーザー(消費者)との対話ができる状態にありません。厚労省やPMDAなど医療行政に関係する組織は、李下に冠を正さずが過ぎて、企業とのコミュニケーションを極端に避けていたりします。 だからこそ患者さんからも声をあげていただきたいですし、私たち医療者も患者さんの声を積極的に共有していきます。まずはどなたでもご参加可能なシンポジウムが6月にオンラインで開催されます。ぜひご参加ください。 ■第4回 ISPACOSシンポジウム情報(Web開催) 日時:6月7日(日)AM10:00~11:30(このあとオンライン懇親会もあります) 参加費:無料 申込:こちらから詳細を確認の上、お申込みください
特集 がん一般

鳥井 大吾

法政大学経済学部 卒業後Webマーケティング会社に入社。営業、SEO施策、Webサイト解析、制作ディレクション業務を行う。社会人2年目で粘液型脂肪肉腫に罹患するも治療を経て復職。2016年4月に自身のがん体験を活かすべく3Hクリニカルトライアルに転職し、2019年10月までオンコロの運営に携わる。

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