講演タイトル:『大腸がん』
演 者:吉野 孝之 先生(国立がん研究センター東病院 消化管内科)
日 時:8月23日(金)
場 所:日本橋ライフサイエンスハブ8F D会議室
今月は、大腸がんをテーマにご来場頂きました。
クローズドセミナーであるため全ての情報は掲載できませんが、ポイントとなる情報をお伝えしていきます。
今回は「基礎知識と切除不能大腸がんの1次・2次治療、大腸がんの術後補助化学療法、大腸がんの未来」を中心にご講義頂きました。
基礎知識と切除不能大腸がんの1次・2次治療
大腸がんの基礎知識
まず、基本的知識として、「標準治療」「治験」「プレシジョンメディシン」について解説をして頂きました。 「標準治療」とは、「現在の最高治療」という意味です。この標準を作るために沢山のエネルギーと時間が費やされてできています。 「治験」とは、「夢のある次世代治療」です。リスクを伴い、必ずしも成功するとは限らないが、成功すると次の標準治療となります。 「プレシジョンメディシン」とは、その患者さんにあった最適化治療です。 大腸がんは男女計で罹患数1位で、最も発生しやすいがんと言えます。死亡率も男性では第3位、女性では第1位で、依然として死亡率が高いがんです。(国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」による) 大腸の主な仕事は、水分を吸収し、ドロドロの便を固形にし、便の通り道となります。大腸がんの発生部位は、直腸とS状結腸だけで7割ほどを占めます。 早期大腸がんの症状はありませんが、がんが進行してくると血便などの異常が現れます。検診は便潜血検査をし、内視鏡検査、CTなどの精密検査へと進みます。 短期間で発生するものや、見つかりにくい物もあり、見つかった時には進行がんで見つかる事も少なくありません。一番大切なことは、ちゃんと検診を受け、早期に見つける事です。 大腸がんの診断のための分類は、日本では「大腸がん取り扱い規約」を用いる事が主流です。 患者さんで、がんの大きさを心配する方が多いそうですが、大事なことは、大きさより、深さより、広がりである、と先生は仰いました。
切除不能大腸がんの1次・2次治療
どんな治療をすれば良いかとネットで調べる患者さんも多いそうですが、ネットで良く出てくるのは民間治療です。しかし、問題のある治療もあります。 一番正しいのはガイドラインです。ガイドラインは、国内の沢山の大腸がん専門医が年月をかけ、必死で作成したものです。ガイドラインは約4年毎に改訂されており、今年2019年度版が刊行されました。 現在、用いられている薬は以下の通りです。

大腸がんの術後補助化学療法
術後補助化学療法とは、根治切除手術が行われた後に、再発を抑える目的で行う化学療法のことです。目では見えない、微小ながんを標的としています。 術後補助化学療法をすると、再発率は減りますが、誰が再発するのかは、現在分かりません。例えば、100人が術後補助化学療法をやっても、手術単独治療後に再発の方が40人いらっしゃったとして、術後補助化学療法をすると再発は30人にできます。 その場合、本当に化学療法が必要な方は10人しかいなかったという事になります。 再発後にまた手術をすれば良いのではないか、という意見も出そうですが、再発した場合、約70%の方は切除不能(ほぼ治らない段階での再発)となってしまいます。 術後補助化学療法は、「現在は治せるチャンスがあるので、抗がん剤を追加しよう」という考えで行われます。 では、術後補助化学療法にどのような方法があるかというと、XELOX療法(ゼローダ+オキサリプラチン)を行うのが標準で、オキサリプラチンの有害事象等を許容できない場合は、5-FU系単剤(ゼローダ)を行います。 治療期間は、半年間施行するのが標準ですが、再発低リスク例ではXELOXの3カ月間投与も治療選択肢となる、新しい研究結果もあります。 また、基本的にイリノテカン(FOLFIRI療法)、分子標的治療薬は有効性が証明されていないため、使用しません。 更に、最初に説明のあったように、この方が再発するであろう、という事はわかりませんでしたが、未来では手術後に採血をするだけで高リスクな患者さんが分かるような治療が生まれる可能性もあるそうです。大腸がんの未来
有望な治験結果を知ろう
2019年6月18日に、ロズリートレク(一般名:エヌトレクチニブ)が製造販売承認を取得し、また、Foundation One CDxの効果にNTRK1/2/3融合遺伝子が追加されました。これは、世界に先駆けて日本で一番早い承認です。 NTRK融合遺伝子陽性固形がん患者さんは、正確な頻度は分かっていませんが大腸がんでは0.2%いらっしゃるとも言われています。小児では割と多く、27%程の方にいらっしゃるそうです。 日本では5%の方にいらっしゃる、BRAF遺伝子変異のある大腸がんの方への新しい治療薬は、BRAF阻害薬のエンコラフェニブ、抗EGFR抗体薬ではセツキシマブ、MEK阻害薬ではビニメチニブなどがあります。プレシジョンメディシン実現への挑戦
がんに罹患し、何も治療しない場合は亡くなってしまいますが、従来の治療をすることで、死までの経過を緩やかにすることが出来ます。 特定の遺伝子異常に対する個別化医療(プレシジョンメディシン)では、進行がん患者さんの予後は劇的に改善されています。 また、現在のプレシジョンメディシンは、患者さんのがん細胞から調べているので、内視鏡や針生検など、痛みが伴います。しかし、これからは更に進歩し、リキッドバイオプシーという、血液中のがん細胞を用いた検査の開発がされています。 従来の腫瘍組織を用いたパネル検査では、結果が出るまでに早くても6週間ほど、長い場合は2カ月ほどかかっていました。しかし、リキッドバイオプシーによるパネル検査では、1週間で結果が判明します。 がんの遺伝子異常は、様々な治療をした後で確認すると、遺伝子異常が変わる事があります。リキッドバイオプシーでは、その患者さんの今の状態が分かります。