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第41回OMCE 乳がん(トリプルネガティブ)セミナーレポート

[公開日] 2019.06.17[最終更新日] 2019.06.17

講演タイトル:『乳がん(トリプルネガティブ)』
演    者:高野 利実 先生(虎の門病院 臨床腫瘍科)
日    時:5月24日(金)
場    所:日本橋ライフサイエンスハブ8F D会議室

今月は、乳がん(トリプルネガティブ乳がん)をテーマにご来場頂きました。

クローズドセミナーであるため全ての情報は掲載できませんが、ポイントとなる情報をお伝えしていきます。

今回は、トリプルネガティブ乳がんの薬物療法について、周術期薬物療法・転移性乳がん薬物療法・免疫チェックポイント阻害薬を中心にご講義頂きました。

周術期薬物療法

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)とは

上記の図のように、ホルモン受容体やHER2も陰性というトリプルネガティブ乳がんの患者さんの多くは、診断の時点で「ネガティブ」という言葉に傷ついているそうです。 「進行が速く、予後が悪いと説明され、ホルモン療法も抗HER2療法も使えない。私には良い薬が無いんだ・・・」と思われる方も多いそうですが、そのイメージは正しくなく、その認識を変えたい、と先生は仰いました。 その理由は、特に白金製剤など化学療法が有効と知られています。そしてトリプルネガティブ乳がんにもたくさんの種類があり、その中でも特徴を捉えて、その中でホルモン受容体、HER2に次ぐ第3、4、5の標的が見つかっているそうです。 自分自身に合った治療を見つけつつ、上手く付き合うことが大切です。

早期乳がんに対する薬物療法

術後薬物療法には3つのポイントがあります。 局所治療だけの場合の再発リスク(基礎リスク)、薬物療法によってリスクはどれだけ低下するか(治療効果)、薬物療法の副作用(治療リスク)、これらの3つの要素を患者さんと主治医がよく話し合い、薬物療法をするメリットを考え、治療をすべきか検討することが大切です。 また、化学療法としてどんなCQ(クリニカルクエスチョン:現在解決されていない疑問や問題点)があるのかというと、 化学療法の要不要の線引き、アントラサイクリン系抗がん剤(アドリアマイシン、エピルビシンなど)の省略は可能か、最適なA(アントラサイクリン系抗がん剤)+T(タキサン系抗がん剤:パクリタキセル、ドセタキセルなど)レジメンはなにか、さらなる化学療法の追加はないか、分子標的薬の参入はどうか、などがあります。 早期乳がんに対する現在最強の化学療法はA+Tで、Aを省略しTだけをするTC療法も標準治療の1つだそうです。何でも強くする時代から、少しだけ弱い方法を選んだり、+αとしてカペシタビンなどをする場合もあります。 今は、一人ひとりの最適な治療を選び、きちんと見極める時代だそうです。 まとめとして、 1.アントラサイクリンからタキサンを使う事が基本。(アントラサイクリンを含むメニューとタキサンを順に使うことが多い) 2.タキサンの使い方として、パクリタキセルを毎週投与・ドースデンス(同じ量を2週毎に投与)パクリタキセル・ドセタキセルを3周毎投与の中から選ぶ。(これらは、まだ直接比較がないので、担当医と話して決めます) 3.BRCA変異陽性の家族性乳がんではタキサンに白金製剤(カルボプラチンなど)を使用することも検討する。 (カルボプラチン+パクリタキセル、カルボプラチン+ドセタキセル)※日本では、カルボプラチンはHER2陽性の場合にのみ使用されます 4.術前化学療法と手術の後に、術前化学療法で乳房のがん細胞が消えていなかった場合は、カペシタビン(ゼローダ)を使うことも検討する。

術前か術後か

同じレジメンを術前にするのか、術後にするのか、という問いに対しては先生は「術後に化学療法を行うのが確実なのであれば、同じ治療を術前にやるべき」と考えているそうです。前提として、再発率、生存率はどちらでも変わりません。 術前に薬物療法をする利点としては、 1.「全身治療」を早く開始できる(遠隔転移を防ぐ為) 2.手術範囲を縮小できる(温存の可能性が出る為) 3.治療中に効果判定ができる(効果の有無を実感できる為) 4.病理学的効果判定で予後予測ができる(術後で追加治療をするかの判断ができる為) などが挙げられます。

転移性乳がん薬物療法

ここからは、トリプルネガティブ乳がんで再発・遠隔転移がある方を対象とした薬物療法についてです。 転移性乳がんのファーストラインとして、 標準治療はアントラサイクリン系かタキサン系になります。タキサン系では、パクリタキセル毎週投与にベバシズマブを追加したり、しない場合もあります。ドセタキセルやアブラキサンを3週毎に投与したり、トリプルネガティブ乳がんでPDL-1陽性の場合にアブラキサン毎週投与にアテゾリズマブを追加する、というのは年内に承認予定です。 白金製剤(カルボプラチン)については、 カルボプラチン+αは、世界的にはトリプルネガティブ乳がんに対する標準治療と考えられています。(カルボプラチン+ゲムシタビン、カルボプラチン+パクリタキセル、カルボプラチン+ドセタキセルなど) 治験では、カルボプラチン+ゲムシタビンが標準治療群として位置づけられていますが、日本ではトリプルネガティブ乳がんに対する治療としては承認されていないという壁もあります。 また、トリプルネガティブ乳がんはホルモン受容体、HER2に次ぐ第3、4、5の標的になるものを世界的に研究されています。 トリプルネガティブ乳がんは更に6つのサブタイプに分けられます。 1.Basal-like[BL]1 2.Basal-like[BL]2 3.Immunomodulatory[IM] 4.Mesenchymal 5.Mesenchymal stem-like[MSL] 6.Luminal androgen receptor[LAR] それぞれのタイプで、よく効く薬剤があると考えられていて、それに応じた開発も進められていますが、まだ臨床現場で薬剤を使い分けるまでにはなっていません。 [トリプルネガティブ乳がんの分子標的治療薬] また、BRCA遺伝子変異がある方にはPARP阻害剤が有効です。リムパーザ(オラパリブ)は、臨床試験でBRCA遺伝子変異のある転移性乳がんでの有効性が証明され、承認されました。 問題点としては、BRCA遺伝子変異検査の必要があり、これは保険承認はされていますが陽性の場合、家族性乳がんという事が分かります。 家族や親せきにも影響が及ぶなど倫理的な問題もあり、この検査を受ける前には、検査の意味をきちんと理解しておく必要があります。

免疫チェックポイント阻害薬(ICI)

ノーベル賞受賞で期待される、免疫チェックポイント阻害薬ではトリプルネガティブ乳がんはどうでしょうか。 乳がんでは、免疫チェックポイント阻害薬単剤での効果は限定的と考えられており、化学療法などとの併用に期待しようといわれています。 具体的には、転移性トリプルネガティブ乳がんのファーストラインで化学療法に免疫チェックポイント阻害薬、早期トリプルネガティブ乳がんに対する術前化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を併用するなどの開発が進められています。

Human-Based Medicine[HBM]

Human-Based Medicine[HBM]とは、「人間の人間による人間のための医療」です。EBMの追求するものは、最大多数の最大幸福(社会全体の平均的な幸せ)ですが、HBMの追求するものは、「一人ひとりの、その人なりの幸せ」です。 最後に、先生は薬が人生の全てだと思ったり、この薬が効かなければ人生終わり、とは思わず、「治療」は「病気への向き合い方」の一部、「病気」は「人生の一部」にすぎないと考えて欲しいとお話しされました。 「医師は科学的根拠やリスクなどを語る立場ではあるが、治療方針を決めるものは、まず患者さんの生き方です。医師に自分の大好きなものなど、生き方を語ってほしい。そのうえで、治療方針を決めて人生をゆたかにしてほしい。」と語り、締めくくりました。 質問コーナでは「乳がん遺伝子異常を一度にたくさん調べられる検査(パネル検査)はないのか」「最初に良い薬を使うと、耐性が付くか」などの質問が寄せられました。 「乳がん遺伝子異常を一度にたくさん調べられる検査(パネル検査)はないのか」という質問には、ちょうど6月に、標準治療を受けた患者さんを対象に遺伝子パネル検査が保険適用となり、間もなく使えるようになることが紹介されました。 ただ、遺伝子パネル検査の結果で特別な治療を受けられる可能性は低く、それを最後の砦のように思いつめるのは、あまり得策ではないそうです。乳がんの場合、遺伝子パネル検査を受けなくても、ホルモン受容体やHER2などのバイオマーカーで個別化がなされていて、それぞれのサブタイプで、よく効く薬剤がたくさん使える状況になっています。 これは、すでにプレシジョンメディシンが実践されているということであり、遺伝子パネル検査にすがりつくよりも、今使える薬剤を最大限活用していくことの方が重要ではないか、と仰いました。 「最初に良い薬を使うと、耐性が付くか、耐性にかかわらず一度使用すると二度と使用してはいけないか」という質問に関しては、効果はどれくらいか、過去の副作用などを参考にします。効かなくなった訳ではなく、副作用で一度やめて、体が回復したらもう一度使用する事はあるそうです。 当日ご聴講された方々より、「自分の治療法を詳しく主治医から聞いた事がなかったので、勉強になり知識が増えた。」「臨床データを噛み砕いて説明していただき、とても分かりやすかった。」「トリプルネガティブ乳がんだけの講義はあまりないので、本当に良かった。」など、多くのご感想が寄せられました。 「トリプルネガティブ乳がんはネガティブではない」と先生は何度も仰り、HBMなど先生の熱意が伝わってくる講義でした。高野先生、ご参加された皆様、本当にありがとうございました。 高野先生の著書はこちら 「がんとともに、自分らしく生きる―希望をもって、がんと向き合う「HBM」のすすめ

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オンコロブログ 乳がん HBOC

赤星未有希

デザイン業界を経て現在は、鍼灸師として働く。自身の病気の経験から偏った情報ではなく、がん分野を正しく学び・伝え、鍼灸に生かし緩和ケアを実践する為にオンコロに入職。オンコロでは、主にWebサイトの更新、メディカルイラストを担当。がん情報ナビゲーター取得。

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