「柴田 直人さん(ANTHEM)に訊く:人生を変えたがん体験」


  • [公開日]2016.12.20
  • [最終更新日]2019.03.27

 12月29日(木)東京EX THEATER Roppongiで開催されるOncolo presents「Rock Beats Cancer Fes Vol.5」。(以下RBC)。
RBCは、LOUDNESS(ラウドネス)のドラマーでリーダーであった肝臓がんで亡くなった樋口宗孝さんの偉業を後世に伝え、小児、AYA世代(15歳~39歳)のがんの啓発・支援を目的に設立された樋口宗孝がん研究基金により企画された「音楽を通じ小児、AYA世代(15歳~39歳)のがんを知り、応援する」ことを目的としたチャリティーライブです。
RBC Vol.5にゲスト出演するヘヴィーメタルバンド「ANTHEM(アンセム)」のリーダーであるベーシストの柴田 直人さん。柴田さんは2012年に胃がんに罹患、治療を乗り越え復帰し、今も精力的に制作活動、ライブ活動に取り組んでいます。
今回、柴田さんと同じ胃がんを体験し、樋口宗孝がん研究基金体験者スタッフとして活動する高橋 和奈が柴田さんのがん体験とその後について伺いました。

聞き手:高橋 和奈(樋口宗孝がん研究基金体験者スタッフ)

「胃がん患者同士だからわかること」

高橋 和奈(以下、高橋):お会いできて光栄です。本日はよろしくお願いします。

柴田直人(以下、柴田):はい、こちらこそよろしくお願いします。

高橋:私は、現在30歳で、23歳の大学生の時、なかなか治まらない腹痛で病院を受診したところ、Stage IIの胃がんと診断され、手術で胃の3分の2を切除し、その後、再発予防のための抗がん剤を服用、今7年目になりました。

柴田:今は、大丈夫なんですか?

高橋:おかげさまで再発もなく元気にしています。

柴田:それは素晴らしいですね。

高橋:ありがとうございます。柴田さんの現在の状況はいかがですか?

柴田:来年の1月でちょうど4年経過することになり元気にしています。一応、治療後5年が安心できる年月と言われているので、気をつけて生活はしています。困っているのはなかなか曲ができないこと位でしょうか(笑)。

高橋:私は、今も時々ダンピング※には苦しめられているのですが、柴田さんはどうですか?

柴田:ダンピングね。これはこの病気を経験していない方にはわからないですもんね。僕も胃の3分の2を切除したので、当初は食事の度に動けなくなり、かなり苦しめられましたね。
最近は少なくなりましたが。
※ダンピング症候群(だんぴんぐしょうこうぐん)
胃の切除後の再建など、食べ物の流れを変えることにより、これまで胃の中を通っていた食べ物が直接腸に流れ込むために、めまい、動悸(どうき)、発汗、頭痛、手指の震えなどのさまざまな不快な症状が起こることがあります。これをダンピング症候群といいます。
​http://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/dumping_syndrome.html

僕の場合は困ったことに、胃は小さくなっているのに、食欲は病気になる前と全く変わらず、単なる食べ過ぎかもしれないのですが、年に1回位はやはりダンピングで動けなくなってしまうこもあります。食欲のコントロールは今でも難しいですね。

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「胃がんの診断と告知までの経過」

高橋:胃がんはどのような経緯で診断されたのですか?

柴田:僕たちは、これまで1年半~2年の間隔でアルバムを出してきたバンドなんですが、たまたまいろんな経緯もあって2年連続アルバムのレコーディングをした事があったんです。レコーディングの作業期間はとてもストレスのかかる場面も多くて、なんとか2回目のレコーディングを無事に終えた後、毎年必ず区から届く定期健診を受けることにしました。そして、その年は虫の知らせというのか、ふと思い立ってそれまでは絶対に嫌だと思っていた胃カメラをオプションで受けることにしました。健康診断の結果は、2週間程度で書面で届くと聞いていたのですが、1週間くらい経った頃に看護師さんから「もう一度検査をしたい。先生からもお話があるようです」と電話がありました。それで再度検査を受け、その後に医師から100%悪性のがんが見つかったと聞かされました。

高橋:私は1年位前から痛みがあり、胃カメラの結果、事前に電話もなく、その場で告知を受け、足も震え、自分ががんとは思えなかったのを覚えています。柴田さんの、その時の心境はどうでしたか?

柴田:僕の場合は全く自覚症状がなかったのですが、再検査という事で、医師から結果を聞く前に「何かあるかも」と心のどこかで思っていました。ですから「100%悪性のがん」と言われた時もドラマのようにピアノの音が「ガーン」となるような大きなショックを受けたという感じではないんです。もちろん凄く動揺はしましたけどね。それよりもその時は、少し後に控えていた札幌でのライブの事とか仕事のスケジュールとか、、「この後一体どうするべきか、、」という感じだったような気がします。

高橋:メンバーや、周囲の人には病気のことをどう伝えましたか?

柴田:メンバーにはなかなか言えなかったですね。告知後も札幌ライブ用のリハーサルで何度も会っていましたけどライブにも余計な影響を与えではいけないと思いましたし。ただレコード会社の担当者だけに伝えました。12月22日の札幌のライブは、今でもスモークの匂い、楽屋の様子、会場の雰囲気、鮮明に覚えています。そして、コンサートをやりながらも俯瞰する自分がいて、これが最後になるんだろうか、、なんて。この記憶を焼き付けておかないといけないと思ったのかな (笑) 。その夜は、用事がある事にして打ち上げにも参加せず最終の飛行機で一人で東京に帰りました。メンバーに伝えたのは、数日経った夜でした。メンバー一人ずつに電話して現状を説明しました。

高橋:皆さんの反応はどうでしたか?

柴田:ギターの清水は、何か僕の様子が変だったと感じていたようでした。「病気を克服してもっと一緒に音楽をやりましょう」って。当時のボーカルの坂本は、彼なりの励ましでしょうけど「がんからの復帰って、おいしいですよ」って(笑)。その時はまだサポートドラマーだった田丸には最後に電話しました。あまりに突然の事で、泣いていたようです。

高橋:それから実際の治療に入るんですよね?

柴田:はい。当初の診断ではがんはStageIIで開腹手術になる予定でしたが、がん専門病院でセカンドオピニオン※を受けて、ぎりぎりStage Iであり、早期がんとのことで腹腔鏡手術となりました。
※診断や治療方法について、担当医以外の医師の意見を聞くことです。別の医師の意見を聞くことで、患者さんがより納得のいく治療を選択することを目指します。セカンドオピニオンを聞いた後は、その意見を参考に担当医と再度、治療法について話し合うことが大切です。
http://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/second_opinion.html

年が明けてまもなく手術日が1月24日に決まった後は、ひたすら5月の復活ライブに向けて希望をもって過ごしました。でも、頭の片隅には、もちろんいろいろと不安もありましたよ。例えば、もうちゃんと食べれなくなるかという思いがあったりしてね。食べたいものは今のうちにって (笑) 。1日何度も食事して結果的に4kgも太ってしまいました (笑) 。

高橋:私も一緒です。最後に食べたのは紫芋のモンブランでした(笑)。

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「がんになったから気づいたこと」

高橋:がんと診断され、治療を受け、変わったことはありますか?

柴田:10日間の入院の間、病室でここまでの音楽生活を振り返りました。これまでずっと全力でやってきたので大きな後悔とかはないんですが、胃がんサバイバーとして、この先は更に悔いを残したくないという想いを強く持つようになりました。自分にとって音楽は、人生を賭ける最も意味のあるものの一つだったし、自分の好きなことを仕事にしているのだから、自分が心底尊敬でき、楽しめる人達と仕事をしたいと思いました。そんなことを真剣に考え始めた頃に、たまたま前任ボーカルの坂本も自分なりの音楽の道を求めていたりして、結局メンバーチェンジをして活動を続ける決意をしました。当時サポートメンバーだったドラムの田丸も正式メンバーとして迎えました。

高橋:私生活の面ではどうですか?

柴田:退院してからは、生活習慣がかなり変わりましたね。病気になる前は、夜中の3時とか4時とか、時には明るくなってから寝るというような生活でしたが、退院後は、夜早く寝て朝早く起きるようになり、その頃からリハビリがてらに散歩するようにもなりました。朝散歩をしだしてから、社会がこんなに早くから変わる事なく動きだしているという事、誰もが日々頑張って生きているんだと改めて考えたりして、これまで感じなかったような事を感じたりするようになった気がします。自分からはあまりこういう話はしませんでしたが、人生も折り返しを過ぎて、本気で物事を考えた時、「生きてることは本当に素晴らしい」と思えるようになったという感じでしょうか (笑) 。
これはがんという病気になったからこそだと思いますね。風邪ひいたくらいではこんなこと考えませんもんね。

高橋:私もわかります。海外では、「キャンサーギフト」という言葉があって、がんになったからこそのギフトがあると。

柴田:あぁその言葉は本当に腑に落ちますね。あんまり柄ではないし恥ずかしいんですが、本当にいろんなことに気づかせて貰いました。自分に何ができるんだろう?とか、本当にやりたいことは何だろう?とか。それ以来、いろんな場面で、とにかくやる前に諦めるのはやめようと考えていますね。

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「がんも悪くない」

高橋:闘病後、復帰後の事を教えてくれますか?

柴田:主治医にも相談していたのですが、退院3ヶ月後に幕張メッセで開催される予定になっていたOZZFESTという海外のアーティストも数多く出演する大規模なイベントに無事に出演することを目標にリハビリを重ねました。ライブの日、こんな事は初めてだったのですが、舞台袖で、地の底から湧きあがるような凄いANTHEM Call(アンセムコール)を聞いて、こんなにも大勢の人が応援してくれているんだと勇気を貰い、涙が出るほど嬉しかったです。誇りに思いましたね。今でも復帰後のあの瞬間を忘れることはできません。実際には、ちゃんと走り回ってプレーできるのか?歌えるか?って不安もありましたから。

高橋:その後の音楽活動についてはどうですか?

柴田:やはり悔いを残さないでおこうというのが一番です。音楽に関わる姿勢としては、「まぁ、いいか」ということが今迄よりもなくなりました。スケジュールはとても大事なんですが、とにかく納得できる音楽生活にしないといけないと思っています。レコーディングについてもなんとなくやるのでなく、曲をレコーディングされるべき状態にしてから作品にしないといけないと思っています。周りのスタッフにとっては大変かもしれないけれど、作品制作も、ライブ制作も、バンドのビジョンも、自分の心の声に更に沿って決めていこうと強く思うようになりました。

高橋:作詞にも病気の体験は影響していますか?

柴田:実は詩を書くのは何よりも苦手なんですが、、、
今そう聞かれて思いましたが、病気を経験してから少なからず影響しているのではないでしょうか、いや、多分かなり影響があるんだと思います。人から見るとあまり変わっていないかもしれませんが、本当に言いたいことを詩にしたいので、書くときの気持ちが変わっているかもしれません。高橋さんに聞かれて気づきましたが、曲を作るよりも、詩を書くという事に向かう姿勢や気持ちの方が変わったかもしれませんね。

高橋:柴田さんの過去の取材などを読ませて頂きましたが、初めてお話し頂くこともあり、ありがとうございました。樋口宗孝がん研究基金スタッフは主にAYA世代(15歳~39歳)のがんの啓発や支援を行っているのですが、みんなとても勇気づけられると思います。

柴田:私は、胃がんという病気を経験したことによって、いろんなな事にもう1度チャレンジできるようになったのだと思っています。この体験は、自分の心をすごく救ってくれています。
求めるものへの執着心も増したかもしれませんが、周りを慮ったり人を思いやる気持ちも変わってきたかもしれません。そう思えることはとても幸せなことなんだと感じます。そんなことを考えると、がんになったことを良かったとは思わないけれど、悪くはないんじゃないかと思うんですよね。

「全力でのプレーを楽しみに」

高橋:最後に今回RBC Vol.5に出演頂くことになりましたが、参加頂く皆さんにメッセージをよろしくお願いします。

柴田:実は、私はLAZYと同じ世代、残念ながらお亡くなりになられた樋口さんとも同い年です。20代前半の頃には、原宿辺りでLAZYファンの方々にベースのヒロボーさん(田中 宏幸さん)とよく間違えられて追いかけられ「よく見たら違うじゃないか」って怒られて(笑)。そして私はLOUDNESSでベースを弾いていた時期もありますから、RBCに出演しませんか?とLOUDNESSのマネジメント隅田さんからお声掛け頂いた時は、とても光栄に思いました。当日はフェスに参加して頂ける皆さんに全力でぶつかっていきますので、是非、楽しみにしておいて下さい。

【取材後記:高橋 和奈】
柴田さんにインタビューをさせていただく前は、どんな方なんだろう?とドキドキ。
柴田さんは、とっても気さくな方でした。なんでも聞いてくださいと、言っていただけて、ありがたかったです。
同じ胃がんサバイバーとして、共感することが多々あり、初めてお会いしたのに、柴田さんのお人柄もあると思いますが、お話ししやすく、もっとお話を伺いたいと思いました。
このような機会をいただけて、光栄に思います。ステージに立つ柴田さんを観るのが今から楽しみです!

【Oncolo presents Rock Beats Cancer Fes Vol.5】
東京 2016/12/29(木) EX THEATER ROPPONGI チケット発売中
開場・開演:OPEN 17:00 / START 18:00
チケット:前方スタンディング¥7,500-(税込/1Drink別)
指定席¥8,500-(税込/1Drink別)
チケット発売日 ​12/3(土)10:00am~
プレイガイド:イープラス:eplus.jp、チケットぴあ:0570-02-9999 Pコード:316-541、ローソンチケット:0570-084-003 Lコード:74309
※0570で始まる電話番号は、一部携帯・PHS不可
注意事項:※未就学児(6歳未満)のご入場をお断りさせていただきます。
INFO:クリエイティブマン TEL:03-3499-6669
主催:オンコロ
後援:大阪スクールオブミュージック専門学校 / 株式会社ランティス / 株式会社ハイウェイスター企画・制作:MHF / KATANA MUSIC KK / 運営:クリエイティブマン
https://www.creativeman.co.jp/event/rbc2016/

【高橋 和奈:オンコロな人】
https://oncolo.jp/report/human07-2

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