JSMO2021会長に訊く、学術集会に込めた想いと見どころ


  • [公開日]2021.01.28
  • [最終更新日]2021.01.29

2021年2月18日(木)〜21日(日)に第18回日本臨床腫瘍学会学術集会(以下:JSMO 2021)が開催される。

『Evolving Treatment Paradigms for Precision Oncology :進化する治療パラダイムによる精密腫瘍学』をテーマに当初京都で開催予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を鑑み、ライブ配信及びオンディマンド配信することが昨年8月に決まった。キーワードの一つである「evolution(進化)」が意味するもの、2020年8月と早い段階でウェブ開催を決めた経緯などを、JSMO 2021会長で、近畿大学医学部ゲノム生物学教室 教授の西尾 和人先生に伺った。

基礎研究の医療者が会長を務めるのは第1回JSMO以来

柳澤:西尾先生とは当時の国立がんセンター時代、近畿大学にご異動されてからも、いろいろご一緒させて頂いてきましたが、改めて自己紹介をお願いします。

西尾先生:1986年に和歌山県立医大を卒業後、同大学附属病院で内科研修を受けました。研修の中で肺がん患者さんを診る機会が多くあり、さらに専門性を高めたいと思い築地の国立がんセンターに移りました。

がんセンターでは臨床ではなく研究所へ配属となり、肺がんを中心とした固形がん、当時ですとシスプラチンなどプラチナ製剤、タキソールなどのタキサン系薬剤、そしてイレッサなど分子標的薬のシグナル伝達の研究をしてきました。ここでの経験が後の自分の専門を決めることになります。EGFR遺伝子変異など患者さんの検体を測定する、バイオマーカーの研究を近畿大学に移ってからも続けています。また西日本がん研究機構(WJOG)などの臨床試験グループと検体を用いた解析を続け、共同研究してきたことが、今日の個別化医療へ繋がっています。

柳澤:今でこそ先生方の研究は大きな成果を生んだわけですが、1980~90年代は細胞障害性抗がん剤の研究が真っ盛りで、ここまでの時代が来るとは予見できませんでした。

西尾先生:当時の国立がんセンター研究所 薬効試験部の西條 長宏先生から「変わったことをしなさい」と言われていたことが、研究から臨床に繋がったと思っています。とはいえ私たち自身もこの展開は予想していませんでした。

柳澤:これまで臨床に関わる先生が会長を務めることが多い中で、基礎研究の分野で活躍した先生がJSMOの会長を務めることは、とても感慨深く感じます。そこで西尾先生よりJSMOについてご紹介いただけますか。

西尾先生:JSMOの歴史の始まりは日本臨床腫瘍研究会です。第1回学術集会の会長は九州大学の桑野 信彦先生という、まさにがんの基礎研究を専門とされた先生でした。第2回以降は臨床の先生なので、私は桑野先生以来です。よって私自身とても光栄で、感慨深く思います。JSMOは臨床試験の比較試験を中心とした学会で、研究者、医療者が研究成果を持ち寄り共有します。それをいかに患者さんに、臨床の現場に、適切に届けるかに重きを置いています。

またJSMOにはいくつかのミッションがあります。その一つにトランスレーショナル研究の推進があります。我々、基礎研究分野の研究者も貢献できることを嬉しく感じています。その他、がん薬物療法専門医(腫瘍内科医)を輩出することもミッションであります。ガイドラインの策定、政策提言など社会的な役割も担い、時代の変遷と共に、その役割も多岐に渡り、がん薬物療法専門医が不足しています。

まだ18回と歴史の浅い学会でありますが、昨年は7,000名を超える方々にご参加いただきました。今後JSMOはアジアの中心の学会になることを目指し国際化に注力しています。例えば希少がんでは、国内の患者さんだけで臨床試験を実施するのは難しく、海外との共同・連携が求められます。学術集会では海外の先生が半分近く講演するセッションもあり、こうした点を重視しながら最終段階まで詰めている状況です。今、お話ししているバーチャル背景は京都の景色ですが、学術集会自体はウェブ開催で、京都にお越し頂くことは叶いませんが、少しでも京都の雰囲気を感じて貰えればと思っています(笑)。

がんの変異をリアルタイムで把握し治療戦略に活かす

柳澤:2020年はどこの学会も新型コロナウイルスの影響は受けていましたが、JSMOは比較的早い段階で完全ウェブ開催を決められました。その理由を教えてください。

西尾先生:2020年2月頃、徐々に感染拡大が日本でも現実のものとなり、1年後のJSMOをどうしようか考えていました。日本癌治療学会とも連携をとり、この状況下での学術集会の開催方法を模索していました。海外招聘者が来日できないとの連絡が多数寄せられたこともあり、国際化の観点からもウェブ開催にしようと決断しました。

全世界が約1年新型コロナウイルスの影響を受けてきました。今では、演者の方々も、参加者の皆さんもウェブ開催に慣れてきたように感じます。また早くから決めることで、これまで現地開催では参加できなかった方も気軽に参加できるなどウェブ開催のメリットを活かしながら準備できると考えました。

柳澤:さまざまなご苦労があり開催される第18回のテーマは『Evolving Treatment Paradigms for Precision Oncology:進化する治療パラダイムによる精密腫瘍学』です。一般の方にはちょっと難しい言葉ですが、このテーマに込めた想いをお聞かせください。

西尾先生:大きく2つあります。ひとつはPrecision Oncologyつまり精密医療の進化ですね。2年前にプレシジョン・メディシン(精密医療)、ゲノム医療における遺伝子パネル検査が保険承認され、1年半が経ちがん医療がどう変わったか。リアルワールドデータを持ち寄って今後の医療にどう活かすのかを考える会にしたいと思っています。

また進化とは、我々、基礎研究をする医療者にとっての大きな関心事である遺伝子の解析を更に進めることです。治療経過中にがんの変異が増えてくるという進化(クローン進化)がリアルタイムに把握できるようになり、次の治療戦略を練ることができるようになりました。我々の基礎的見地からの考察を共有できればと思っています。

柳澤:がん医療の進化、細胞の変異や腫瘍の進化を更なる治療と結びつける両方の意味を含んでいることがわかりました。がん遺伝子パネル検査が保険適用になり、細胞自体の変異をリアルタイムで把握できたりすることは将来的に遺伝子検査が複数回行える可能性を秘め、それを共有し合えることは非常に大切であり、難しいテーマでもありますね。

西尾先生:まさにその通りで、例えばリキッドバイオプシーの遺伝子パネル検査が我が国でも用いることができるようになると、医療者や患者さんは、血液など体液と細胞、どちらで検査をしたら良いのか混乱を招く可能性もでてくるかもしれません。そのようなことからJSMOでは先んじて議論ができればと思っています。

今のがんゲノム医療の課題は検査で遺伝子変異が見つかったにも関わらず、薬剤が使用できない状況があることです。この問題を解決するためには臨床試験がスムーズに進むことが重要で、薬があるのに使えないと言った状況は無くさなければなりません。JSMOとその会員は、患者さんにより適切な薬を届けるために大きな役割を果たしていくものと思います。

柳澤:では最後に、医療の進歩の受益者である患者さん・ご家族へのメッセージをお願いします。

西尾先生:JSMO2021は患者さんやご家族と医療者が交流する場とも位置付けています。Patient Advocate Program(以下:PAP)や患者さん中心のセッションも行います。

PAPでは「患者力」や「患者参画」をキーワードにプログラムを組みました。これはJSMOにとっても非常に重要なことで、海外では臨床試験のデザインに患者さんの声を反映します。日本では西日本がん研究機構(WJOG)が患者さんの声を取り入れ、臨床試験(治験)にも取り組んでいます。それらを、更に促進するため、「患者力」や「患者参画」の基礎となるとセッションを準備しました。といっても優しい内容にする予定ですので、お気軽にご参加いただければと思います。多くの皆さんに参加頂ければと思っています。

※Patient Advocate Program(ペイシェント・アドボケイト・プログラム)参加申込は、2021年1月29日(金)正午までとなっています。
https://www.congre.co.jp/jsmo2021/pap/index.html

柳澤:本日は、JSMO 21開催前のご多忙のところお時間ありがとうございました。第18回日本臨床腫瘍学会 学術集会が盛会となりますこと祈念しております。

(文・鳥井 大吾)


※JSMO2021のホームページ

第18回日本臨床腫瘍学会 学術集会 概要

学会名称:第18回日本臨床腫瘍学会学術集会
テーマ:Evolving Treatment Paradigms for Precision Oncology
会長:西尾 和人(近畿大学医学部ゲノム生物学講座 教授)
会期・Live Streaming: 2021年2月18日(木)~ 21日(日)
On-demand Streaming: 2021年3月1日(月)~ 3月31日(水)

編集後記
前々職時代(製薬企業勤務時代)に参加した日本臨床腫瘍研究会は、1つの会場で1日開催であったものが、現在では複数会場で4日間にわたり開催される日本臨床腫瘍学会となり、当時から先見の明をもってがん薬物療法の進歩に貢献されてきた多くの医療者の顔が頭に浮かびました。(柳澤)

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