[公開日] 2017.08.15[最終更新日] 2017.08.15
手術(外科)療法について
腎盂・尿管がんは、ほかの臓器やリンパ節への転移がない場合には基本的に手術を行うことで根治を目指します。
腎盂・尿管がんに対する手術としては、腎尿管全摘術が一般的に行われます。腎盂・尿管がんは腎盂や尿管に多発するケースが多く、腎盂もしくは尿管を部分切除して一部を残すと、残した組織に再発してしまうリスクが高いので、基本的には片側を丸ごと切除する手術が行われます。
腎臓が1つしかなかったり、糖尿病などで腎機能が低下していたり、何らかの理由により患者自身が全摘を望まない場合には、がんのある部分だけ切除する方法をとる場合も(稀に)あります。
腎尿管摘除術
片側の腎臓~尿管全体を摘出する手術です。膀胱への出口付近に腫瘍がある場合には、膀胱部分切除術も追加で行うことがあります。手術の方法としては、開腹手術と鏡視下手術があります。
現在では、内視鏡そのものや、手術技術の進歩により、都市部の多くの施設では鏡視下手術が選択されることが多くなっています。特に、腎臓を摘除するのは鏡視下で行い、膀胱近くの尿管をとるときには下腹を縦に切開して行う、といった術式が一般的です。施設によっては、全て鏡視下に行う場合もあります。
鏡視下手術では、切開する際の傷が開腹手術よりも小さくて済み、手術後の痛みが少ないため、退院までの期間も短くすむ傾向にあります。また、手術中に炭酸ガスで術野のスペースを広げながら手術を行いますので、少々の出血であれば勝手に止まってしまいます。そのため、出血量を抑えることができます。
尿管部分切除術
尿管部分切除術は、がんが発生しているのが尿管のみで、一部にとどまる場合、尿管を部分的に切除し、腎臓は残しておくという手術方法です。腎機能が保全することができますが、腎臓や尿管の残された部分でがんが再発するおそれがあります。また、尿の出口を確保するために、尿管皮膚ろう(ストーマの一種)を造設する必要が生じることが多いため、適応となる症例は限られます。
膀胱部分切除術
尿管がんのうち、特に下部尿管の出口にできた腫瘍に対して腎尿管全摘術を行う際に、膀胱部分切除術を追加することがあります。尿管の下端では、膀胱の壁を斜めにつらぬいて尿管口という出口に達します。つまり、尿管の下端は膀胱内にあるのです。
そこに近いところにがんがある場合は、外側から尿管を引っ張って切るだけではがんを取り残してしまう恐れがあるため、膀胱を切り開いて一部を一緒に切除する、ということが行われる場合があります。
リンパ節郭清術
腎盂がん・尿管がんにおいて、リンパ節郭清術を必ず行った方がいいかについては、まだ結論が出ていません。リンパ節は大きな血管に沿って分布していますので、リンパ節郭清術を行うには、それなりのリスクがあります。
鏡視下手術で行う場合には、高いスキルが求められるため、リスクとベネフィットを考えながら、症例に応じて適応が検討されます。
転移巣の切除
基本的に、標準治療としては転移のある腎盂・尿管がんに対して手術は行いません。技術的には可能であっても、手術をする意義が無いことがほとんどであるためです。ただ、近年、転移が1か所程度であれば、転移巣に対しても手術や局所治療を行うことで長期生存が可能になる場合があるという報告もみられますので、今後のデータの蓄積によっては、多少の転移があっても積極的に手術をする時代が来るかもしれません。
手術の合併症
術中の合併症
手術における合併症として大きなものは、大出血と臓器損傷です。腎臓~尿管を剥離していく中では、たびたび重要な臓器の近くや、太い血管の近くを通らなければなりません。
症例によっては、癒着していて組織構造が分かりづらいこともあり、手術を進めていく中で他の臓器が損傷してしまったり、血管を傷つけて大出血してしまったりすることがあります。
特に、膵臓や十二指腸を傷つけた場合、大動静脈、腎動静脈、腸間膜動脈、外腸骨動静脈などを傷つけてしまった場合には、命に関わる事態になることもあります。
他にも、横隔膜を傷つけてしまうと気胸といって肺のあるスペース(胸腔)にガスが入ってしまい、肺が膨らまなくなったり、肝臓や脾臓を損傷して出血が止まらなくなったりすることもあります。
術後の合併症
後出血といって、一度止血を確認して麻酔を覚ました後に、再度出血することがあります。また、感染症が起こり、熱が出たり、おなかに膿がたまったり、肺炎になったりすることもあります。
腸の手術に比べて頻度は少ないですが、腸閉塞(イレウス)が起こる場合もあります。さらに、術中体位によって、床ずれやしびれが起きることもありますし、炭酸ガスによって皮下気腫や肩の痛みが出ることもあります。
手術後の注意点
手術が問題無く終わった場合、多くは1週間~10日程度で退院になります。しかし、その後も必ず、がんが治ったかどうかについて経過をみていかなければなりません。
特に、がんの周囲のリンパ節や、肺に転移が出てこないかどうか、定期的なCT検査をして評価をしていく必要があります。
さらに、腎盂・尿管がんで特徴的なこととしては、膀胱内に再発することがあるという点です。腎盂・尿管と膀胱は、どちらも同じ尿路上皮という組織を持っており、多くはそこにがんができます。そして、解剖学的にもつながっており、組織も同様であるため、容易にがんが移動してしまうのです。
もちろん、手術をする前には内視鏡で膀胱の中を検査していますので、その時点では見た目で分かるような膀胱がんは無いものの、術後数か月~1年程度のうちに膀胱にがんが生えてくることがあるのです。
そのため、腎尿管全摘術を受けた後は、必ず医師の指示に従って定期的に通院し、検査を受けることが大切です。
がん種一覧
腎盂・尿管・尿道がん