小児ホジキンリンパ腫の基本情報


  • [公開日]2019.09.18
  • [最終更新日]2019.09.19

小児ホジキンリンパ腫とは

ホジキンリンパ腫は、リンパ球ががん化する悪性リンパ腫の1つで、ホジキン細胞、リード・シュテルンベルグ細胞といった特徴的な悪性細胞が病理診断で確認されることにより、非ホジキンリンパ腫(NHL)と区別されています。リスク因子として、エプスタイン・バーウイルス(EBV)の感染歴が示唆されています。

ホジキンリンパ腫は小児や青年にも発生するがんで、治療は成人のホジキンリンパ腫に対する治療と異なります。日本小児血液・がん学会に登録されているホジキンリンパ腫の小児患者数は、2008年から2010年の3年間では約20例で、NHLの約130例と比べても発生頻度が極めて低いがんです。

ホジキンリンパ腫の発生部位は、リンパ系組織とリンパ外臓器(節外臓器)に分けられます。リンパ系組織とは、リンパ節、リンパ管、胸腺、脾臓、扁桃など、リンパ外臓器とは骨髄、肺などで、リンパ系の組織や臓器は全身にあるため、あらゆる場所で発生する可能性があります。

病型

小児ホジキンリンパ腫の病型は、古典的ホジキンリンパ腫、または結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫に大きく分けられています。さらに古典的ホジキンリンパ腫は、がん細胞の病理診断により

・リンパ球豊富古典型ホジキンリンパ腫
・結節硬化型ホジキンリンパ腫
・混合細胞型ホジキンリンパ腫
・リンパ球減少型ホジキンリンパ腫

の4種の亜群に分類されます。

病期

小児ホジキンリンパ腫の病期分類は、修正Ann Arbor分類(Cotswolds分類)が広く用いられ、病変の単独性や限局性、横隔膜のリンパ節領域の病変、リンパ節外の病変の有無や進展病変、脾臓病変の有無などを指標としてI期からIV期に分けられています。さらに、症状分類やがん細胞が存在する場所などを指標としてE、Sを含めた表記で病期分類します。具体的には、病期IはIとIEに、病期IIはIIとIIEに、病期IIIはIII、IIIE、IIIS、IIIE+Sに分かれ、日本血液学会 日本リンパ網内系学会編「造血器腫瘍取扱い規約 2010年3月(第1版)」によると、以下のようになっています。

病期I:「単独でリンパ節領域に病変がある」
病期IE:「リンパ節になく単独でリンパ節外臓器にあるか、部位が限局して病変がある(ホジキンリンパ腫ではまれ)」
病期II:「横隔膜の同側に2つ以上のリンパ節領域の病変がある」
病期IIE:「リンパ節の病変と関連しているリンパ節外臓器、または部位の限局した病変(横隔膜の同側にあるその他のリンパ節領域の病変はあってもなくてもよい)」
病期III:「横隔膜の両側にあるリンパ節領域に病変がある」
病期IIIE:「IIIに加え、隣接するリンパ節病変と関連して限局したリンパ節外進展を伴う」
病期IIIS:「IIIに加え、脾臓病変を伴う」
病期IIIE+S:「リンパ節外進展および脾臓病変を伴う」
病期IV:「リンパ節病変の有無を問わず、1つ以上の非連続なリンパ節外領域の病変がある」

病期分類でEと表記される場合は、「リンパ系病変部に隣接する可能性のある器官や臓器にがん細胞が確認される」、Sは「脾臓内病変がある」を意味しています。また、症状分類として、Aが症状なし、Bが症状ありとされ、「診断から6カ月以内の原因不明の10%以上の体重減少、原因不明の38℃以上の発熱、および多量の寝汗が認められる」はB症状と呼ばれています。

症状

小児ホジキンリンパ腫の主症状は、いわゆるB症状で、発熱、体重減少、寝汗です。その他、頸部、胸部、腋窩、または鼠径部のリンパ節の痛みのない腫れ、疲労、食欲不振、皮膚のかゆみなどが認められます。

診断

小児ホジキンリンパ腫の診断は、病理検査が最も重要視されます。腫瘍が存在するリンパ節や臓器から一部組織を採取し、病理組織標本を顕微鏡で確認します。組織検体は染色体検査や遺伝子検査にも用いられ、病型を確定します。また、リンパ系組織に限局しているか、リンパ外臓器に広がっているかなどを核磁気共鳴画像法(MRI)、陽電子放射断層撮影(PET)などで確認し、病期を確定します。さらに、骨髄や脳脊髄へのがん細胞の浸潤を確認するための骨髄検査、脳脊髄液検査も行われます。

治療

小児ホジキンリンパ腫は治療により治癒する可能性の高いがんです。治療法は、病期、ならびに巨大腫瘤の有無を基準に層別化して決定されます。日本小児血液・がん学会編「小児白血病・リンパ腫診断ガイドライン2016年版」によると、病期にかかわらず、巨大腫瘤がある場合は、化学療法(4コースから8コース)とリンパ節領域(IF)放射線照射(20Gyから25Gy)を組み合わせます。

病期Iまたは病期II(B症状なし)で巨大腫瘤がない場合は、化学療法(2コースから4コース)を行い、場合によりIF放射線照射(15Gyから25Gy)を組み合わせる選択肢もあります。病期II(B症状あり)、病期III、ならびに病期IVで巨大腫瘤がない場合は、巨大腫瘤がある場合と同じか、もしくは化学療法(4コースから8コース)のみを行います。層別化治療の流れを以下に示します。(http://www.jspho.jp/pdf/journal/childhood_leukemia_lymphoma_guideline/Lymphoma.pdfのIアルゴリズム83ページ)

なお、日本小児血液・がん学会編「小児白血病・リンパ腫診断ガイドライン2016年版」では、早期例(病期I、病期IIA、かつ巨大腫瘤なし)、進行例(病期IIB、病期III、病期IV、あるいは巨大腫瘤あり)に分けて標準治療が推奨されています。いずれも多剤併用化学療法とIF低線量照射の併用療法ですが、薬剤の種類や組み合わせ、投与期間、照射線量が異なります。

生存や生活の質QOL)など重要な臨床転帰に関する4段階評価で、エビデンスレベル「A」(効果の推定値に強く確信がある)、かつ推奨の強さ「1」(強い)に基づき、「推奨グレード1A」とされている代表的な治療法を以下に紹介します。

小児ホジキンリンパ腫早期例の標準治療

㈰ VAMP療法×4コース±IF照射25.5Gy
㈪ OEPA療法(男)×2コース±IF照射19.8Gy、OPPA療法(女)×2コース±IF照射19.8Gy
㈫ DBVE療法×2コース+IF照射25.5Gy

これらの治療を受けた患者集団の無イベント生存率(EFS)は87%から92%と報告されています。また、㈰、㈪の化学療法を2コース終了後に完全寛解となった場合は、IF照射を減らせる可能性が示唆されています。

小児ホジキンリンパ腫進行例の標準治療

㈰ OEPA療法(男)/OPPA療法(女)×2コース+COPP療法×2〜4コース+局所照射19.8Gy
または、
OEPA療法(男)/OPPA療法(女)×2コース+COPDAC 療法(男)/COPP療法(女)×2〜4コース+局所照射19.8Gy
㈪ COPP/ABV療法×6コース±IF照射21Gy
㈫ 高用量BEACOPP療法×4コース 反応良好群にはCOPP/ABV療法×4コース(女)/ABVD療法×2コース+IF照射(男)を追加、反応不良群にはBEACOPP療法×4コース+IF照射を追加

これらの治療を受けた患者集団の無イベント生存率(EFS)は概ね80%以上と報告されています。IF照射については、化学療法に対する反応不良の場合には追加照射、完全寛解の場合には照射の省略が考慮されます。

各多剤併用化学療法の薬剤構成は以下のとおりです。
VAMP療法=ビンクリスチンドキソルビシンメトトレキサート、プレドニゾロンOEPA療法=ビンクリスチン、エトポシド、プレドニゾロン、ドキソルビシン
OPPA療法=ビンクリスチン、プロカルバジン、プレドニゾロン、ドキソルビシン
DBVE療法=ドキソルビシン、ブレオマイシン、ビンクリスチン、エトポシド
COPP療法=シクロホスファミド、ビンクリスチン(オンコビン)、プロカルバジン、プレドニゾロン
COPDAC療法=シクロホスファミド、ビンクリスチン(オンコビン)、プレドニゾロン、ダカルバジン
ABV療法=ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ブレオマイシン、ビンブラスチン
ABVD療法=ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ダカルバジン
BEACOPP療法=ブレオマイシン、エトポシド、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、シクロホスファミド、ビンクリスチン(オンコビン)、プロカルバジン、プレドニゾロン

予後

治療終了後の経過は、診断時の病期や症状、腫瘍の大きさ、治療に対する反応性、がん細胞の特性などにより個別に異なります。免疫力が十分に回復するまでは、はしかなど感染症の流行に注意を要します。体調の変化や再発の確認のため、定期的な通院により経過観察を行いますが、問題なく5年以上経過すれば、1年に1回程度の通院になります。

小児は、治療後の時間経過や成長に伴い、治療の影響による症状「晩期合併症」が現れることがあります。治療の種類や年齢などにより症状や程度は異なりますが、身体的な晩期合併症として、成長障害や神経、内分泌、心機能の障害、骨・歯の異常、二次がんなどがあります。また、化学療法薬による晩期合併症としても成長障害や心機能障害、性腺障害、二次がんなどが認められることがあります。

臨床試験

小児ホジキンリンパ腫の治療法は、現在、複数の化学療法と放射線照射の併用が標準となっていますが、分子標的薬を組み入れることで化学療法薬の数や放射線照射の必要性を少なくし、治療中の副作用や治療後の晩期合併症を減らすための治療法が考案されています。例えば、現在、成人のホジキンリンパ腫の適応で承認されているブレンツキシマブ ベドチン(商品名アドセトリス)という分子標的薬を、5歳以上18歳未満のホジキンリンパ腫患者を対象として、化学療法と組み合わせる臨床試験が行われています。薬物療法の経験がなく、悪性細胞にCD30という蛋白質を発現していることが要件になります。

アドセトリスは、ホジキンリンパ腫の悪性細胞が発現するCD30に結合する抗体と細胞障害薬モノメチルアウリスタチンE(MMAE)をリンカーで結合させた抗体薬物複合体ADC)で、細胞内に取り込まれると、微小管形成阻害作用を持つMMAEが遊離し、細胞周期を停止させ、アポトーシスを誘導する作用を発揮します。

参照元:国際医学情報センター:がんinfo、がん情報サイト、国立がん研究センター小児がん情報サービス、日本小児血液・がん学会編:小児白血病・リンパ腫診療ガイドライン2016年版、国立成育医療研究センター:リンパ腫(小児がん)など

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