多発性骨髄腫とは(疾患情報)


  • [公開日]2023.01.01
  • [最終更新日]2023.02.14

多発性骨髄腫とは

多発性骨髄腫は、体を守るための武器(抗体)を産生する「形質細胞」ががん化した病気です。がん化した形質細胞は「骨髄腫細胞」と呼ばれ、骨髄やその他の部位で無秩序に増殖し続けます。

形質細胞は、Bリンパ球が分化した最終段階の細胞です。本来、体にウイルスや細菌など「非自己」とみなした異物(抗原)が侵入すると、血液中の白血球(リンパ球)のB細胞が成熟して形質細胞となり、抗体をつくります。ところが形質細胞ががん化して骨髄腫細胞となると、異物を攻撃する能力をもたない抗体(Mタンパク)をつくり続ける一方、正常な造血機能が抑制されて赤血球や白血球などの血液細胞が減少します。

多発性骨髄腫では、骨髄腫細胞やMタンパクが増え、正常な血液細胞が減ることによって、さまざまな症状が起こります。貧血や骨折しやすい(骨病変)、背骨の骨折による腰痛、血液中のカルシウム濃度が異常に高い(高カルシウム血症)、腎不全といった症状が1つでもあれば、治療を開始します。初期には自覚症状が少なく、血液検査などの検査所見の異常で見つかることもあります。

ただ、多発性骨髄腫でもまったく症状のない状態(無症候性多発性骨髄腫)が続くこともあります。その場合はすぐに治療に入らずに、定期的に検査をしながら経過観察をしていくことになります。

多発性骨髄腫の症状

骨髄腫細胞が増えると、正常な血液細胞をつくる造血機能が低下し、血液中や尿中の M タンパクが増え、骨を壊す破骨細胞が活性化します。その結果、赤血球などの生成が抑えられ(貧血)、骨の破壊、腎機能の低下、免疫低下などが進行します。自覚症状としては、多くの患者さんが、息切れ、だるさ、倦怠感、腰痛、食欲不振などを感じるようになります。

貧血

貧血は、赤血球や血小板の減少した状態で、血液検査ではヘモグロビン値の低下として現れます。多発性骨髄腫では、骨髄腫細胞が赤血球の産生を抑える物質をつくり出したり、骨髄中の正常な血液を作る細胞が減ったりするために貧血が起こると考えられます。

赤血球(ヘモグロビン)は酸素を全身に届ける役割を担っているため、貧血が進行すると全身が酸欠状態に陥ります。体を動かした時に動悸・息切れ、めまい、全身倦怠感などの症状が現れます。また、止血作用を担っている血小板が少なくなることで、あざや、鼻血や歯ぐきからの出血が起こりやすくなります。

骨病変

多発性骨髄腫で患者さんの訴えが最も多い症状が腰痛で、背骨などの骨折によって痛みが発生します。多発性骨髄腫では、骨髄腫細胞が骨を壊す細胞を活性化し、骨を再生する細胞の働きを抑えるため、骨がもろくなります(骨吸収の亢進)。X線検査で骨の一部が黒く抜けて見える「打ち抜き像」と呼ばれる状態になるほか、背骨がつぶれて変形する「圧迫骨折」、はっきりした外傷もなく腕や脚を骨折する「病的骨折」が起こることもあります。

高カルシウム血症

多発性骨髄腫では、骨髄腫細胞によって骨を壊す細胞が活性化され、骨の主成分であるカルシウムが血液中に溶け出すことで、血液中のカルシウム濃度が高くなりがちです。高カルシウム血症になると、脱水症状、吐き気や食欲不振、めまい、頭痛、口の渇き、便秘などのほか、精神症状が現れることもあります。

腎臓の機能低下(腎不全)

多発性骨髄腫ではMタンパクの異常な増加によって、その断片が腎臓の毛細血管内に沈着し(アミロイドーシス)、腎臓のろ過機能が妨げられます。まず血液検査でクレアチニン値の上昇、尿検査でタンパクの増加などの徴候が現れます。脱水、高カルシウム血症、痛み止めなどの薬物等も重なり、「尿毒症」に至ると、むくみや吐き気、息切れなどの症状が出ます。腎臓へのダメージは回復不可能で、さらに進行して腎不全に至り、人工透析が必要になることもあります。

また、骨髄腫細胞の数が増えると、尿酸が過剰に生産されて尿の中へ排泄され、腎結石ができやすくなります。

過粘稠度症候群

多発性骨髄腫ではまれですが、血液中のMタンパクが増加すると、血液の粘り気が高くなり、流れが悪くなる「過粘稠度症候群」(かねんちょうどしょうこうぐん)に陥ることがあります。血液が固まりやすくなったり、詰まりやすくなったりして、さまざまな症状が現れます。出血や頭痛、しびれやめまい、耳鳴りなどの神経障害、視力低下などの目の症状が中心です。

その他、免疫力低下など

多発性骨髄腫では、体から病原体を排除するための正常な抗体が減るため、細菌やウイルス、真菌など様々な病原体に対する抵抗力が落ち、感染を起こしやすくなります。そのほか、骨髄腫細胞が骨髄の外で増殖して腫瘍のかたまりをつくることがあり(形質細胞腫)、部位によっては脚の麻痺などを引き起こします。また、多発性骨髄腫では腎臓以外の臓器や器官にもMタンパクの断片が沈着し(アミロイドーシス)、しびれなどの神経障害や、心臓なら不整脈野心不全、消化管では下痢や腹痛といった症状が現れます。

多発性骨髄腫の患者数

多発性骨髄腫は、すべてのがんのおよそ1%程度、血液のがんの10%程度を占めています。

30~40歳代の比較的若い方が多発性骨髄腫を発病することもまれにありますが、基本的には高齢者に多い病気です。50 歳ごろから年齢とともに患者数が増えていき、多発性骨髄腫との診断を受ける人の多くは60歳以上です。

国内では、年間に8,000人近くが多発性骨髄腫に罹患します。2019年には、多発性骨髄腫は7,591症例報告され、男性4,052例、女性3,539例で、10万人あたり罹患率は6.0 例(男性6.6 例、女性5.5 例)でした。

多発性骨髄腫の原因はよくわかっていません。一般的に、遺伝することはないとされています。

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