ESMO 2023:泌尿器がんがん種別にみたポイント


  • [公開日]2023.11.14
  • [最終更新日]2023.11.20

2023年10月20日から24日まで、スペイン・マドリードでESMO(欧州臨床腫瘍学会)が開催された。がん領域としてASCO(米国腫瘍学会)に続く最大規模の学術集会(学会)であるESMOでは、毎年多くの注目すべき研究結果が発表されている。今回は、「ESMO 2023 がん種別にみたポイント」シリーズと題し、泌尿器がんの目玉となったデータとそのディスカッションポイントをまとめてみた。

尿路上皮がん

未治療の進行尿路上皮がんに対するエンホルツマブ ベドチン(製品名:パドセブ)とペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)の併用:EV-302/KEYNOTE-A39試験
【Abstract#LBA6】
未治療の進行尿路上皮がんに対するニボルマブ(製品名:オプジーボ)と化学療法の併用:EV-302/KEYNOTE-A39試験
【Abstract#LBA7】

今回の2つの第3相試験は、20年以上にわたりプラチナ系化学療法が第一選択であった進行性尿路上皮がんの初回治療を塗り替える結果であり、特に高い効果を示したEV-302試験では、スタンディングオベーションが起きるほどのインパクトを与えた。近い将来、進行尿路上皮がんの一次治療変わることが期待させる。

一方、新規の一次治療の登場によって、二次治療以降の治療の検討が必要になること、免疫療法抗体薬物複合体ADC)の併用では経済毒性の懸念があることなど、次なる課題もありそうだ。

FGFR既治療(抗PD-1抗体を含まない)のFGFR遺伝子変異陽性の進行尿路上皮がんにおけるエルダフィチニブ対ペムブロリズマブの結果:THOR試験【Abstract#2359O】

FGFR既治療(抗PD-1抗体を含む)のFGFR遺伝子変異陽性の進行尿路上皮がんにおけるエルダフィチニブ対化学療法の結果:THOR試験【Abstract#2362MO】

線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)は、進行尿路上皮がんの約20%に遺伝子異常が見られることが知られており、有望な治療標的である。
THOR試験の結果から、抗PD-1抗体を含む複数の治療後に進行した場合、化学療法と比較してFGFR阻害薬エルダフィチニブ治療で有意な生存期間が示された。一方、抗PD-1抗体未治療の場合には、抗PD-1抗体ペムブロリズマブと比較してエルダフィチニブの有意な生存期間延長効果が示されなかったことから、進行尿路上皮がんに対するエルダフェチニブ治療の位置づけは、抗PD-1抗体治療後が適していると示唆された。

前立腺がん

タキサン系抗がん剤未治療の転移性去勢抵抗性前立腺がんに対する177Lu-PSMA-617とオラパリブの併用療法177Lu-PSMA-617:PSMAfore試験
【Abstract#LBA13】

ルテチウム-177(177Lu)–PSMA-617(177Lu-PSMA-617)は,前立腺特異的抗原(PSMA)発現細胞と周辺の微小環境にベータ粒子を放出する放射性リガンド療法。PARP阻害薬オラパリブとの併用により、奏効率及び腫瘍評価項目である無増悪生存期間の優越性は示されたものの、全生存期間の有意な延長は見られていない。これは、試験における対象群の大部分が177Lu-PSMA-617にクロスオーバーしていることに起因すると考察されている(クロスオーバー率84.2%)。
177Lu-PSMA-617は、昨年の2021年のASCOで発表されたVISION試験で、複数の治療歴を有する前立腺がんに対する有効性が示され、海外では既に承認されている薬剤。今後より早い治療ラインで使われるようになるのか、注目されるところである。

腎細胞がん

抗PD-(L)1抗体療法、VEGF阻害薬治療歴がある進行腎細胞がんに対するベルズティファン:LITESPARK-005試験
【Abstract#LBA13】

低酸素誘導因子のひとつであるHIF-2αは、2019年にノーベル生理学・医学賞を受賞し注目を集めた。がんにおいては細胞増殖、免疫回避、低酸素症、血管新生などへの関与が知られている。
ベルズティファンは経口HIF-2α阻害薬であり、本試験によりmTOR阻害薬エベロリムス(製品名:アフィニトール)と比較して奏効率や無増悪生存期間の延長が見られ、米国食品医薬品局(FDA)では既に承認に向けた準備が進んでいるようだ。
持続的な奏効や生存期間の延長傾向が見られており、今後の臨床を変える治療選択肢として期待される。

膀胱がん

BCG治療後に進行・再発を認めたFGFR変異陽性高リスク筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)におけるエルダフィチニブ:THOR-2試験【Abstract#LBA102】

エルダフェチニブの経口投与は、静脈内化学療法と比較して有意な抗腫瘍活性が示されたが、同時に安全性の面で課題の残る結果であった。現在 、全身毒性を軽減することを目的に、膀胱内でエルダフィチニブを持続的に局所放出するように設計された新規の膀胱内薬物送達システムTAR-210を使った試験(NCT05316155)が進行中であり、結果が待たれるところである。

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