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患者報告アウトカムの電子モニタリングはがん治療中のQOL向上に寄与する可能性を示唆

転移性がん患者が、外来治療中に電子ツールを利用して自身の状態を把握し、インターネットを介して定期的に報告、医療者との双方向通信を確保した生活を送ることは、患者にとって身体的、精神的な恩恵をもたらす可能性が示された。米メイヨークリニックのAmylou C. Duack氏らの研究チームは、米国のAlliance for Clinical Trials in Oncologyのネットワークを通じて行われた分析に基づくデータとして、2022年6月5日のJAMA Network誌オンライン版に論文発表した。

電子モニタリングの実効性を検証する試み

外来治療中のがん患者が日常生活の中で経験する体調や症状の変化をほぼリアルタイムに捉え、適切に対処することは、生活の質QOL)の維持、または向上につながると考えられている。インターネットを介したモバイルアプリ、自動電話システムなど、電子システムが世界中に普及している現在、対面診療以外の場面でもモニタリングが容易にできることから、研究チームは電子ツールを用いたモニタリングの有益性を評価するための調査分析を行った。

具体的には、米国で行われた臨床試験PRO-TECT試験、NCT03249090)の一環として、米国ノースカロライナ大学が確立している電子調査システム「PRO-Core」を用い、同試験の副次評価項目である患者報告アウトカム(PRO)から(1)身体機能、(2)症状コントロール、(3)健康関連QOL(HRQOL)の推移を追跡した。登録患者を電子システムが介入するPRO群、または介入しない標準ケア群(対照群)に分け、各指標のスコアを統計学的に群間比較した。なお、電子システムには医療機関側とのフィードバック経路が組み込まれており、容態の急変などの際は警報が作動し、適切な治療や支援に誘導することができる。

週1回の入力習慣化で3カ月観察

同調査の対象は、2017年10月から2020年3月に登録された21歳以上の転移性がん患者1191人で、PRO群は593人、対照群は598人であった。PRO群の患者は電子システムの使用方法を習得した上で、週1回を1年間、もしくはがん治療を中止するまでの期間、必要な調査項目に回答した。今回は2021年5月17日までの追跡データから、3カ月後の時点で群間差が生じるか否かを調べた。

PRO群が利用したPRO-Coreシステムでは、痛み、悪心、嘔吐、便秘、下痢、抑うつなどの症状、転倒イベント、食生活、活動性状態(ECOG)、経済的課題といった内容の質問が提示される。PRO群、対照群ともに、がん患者のQOL評価を目的とする調査票「QLQ-C30」に回答する方法が採用され、調査開始時と3カ月時点での(1)~(3)の回答データが収集された。QLQ-C30はそれぞれの項目を0~100ポイントで患者自身がスコアを判定するもので、ポイントの増加は改善を示す。身体機能に関する臨床的意義のある最小差(MCID)は2~7ポイントと定められている。症状コントロールとHRQOLのMCIDは確立されていない。

電子システムの介入が臨床的有益性に反映

以下の分析結果が明らかになった。

(1)身体機能のスコア変化は、PRO群では開始時平均74.27ポイント→3カ月時平均75.81ポイントに上昇する改善を示し、対照群では73.54→72.61ポイントに低下した。群間差は2.47でMCIDを達成し、統計学的有意差が認められた(p=0.02)。

(2)症状コントロールのスコア変化は、PRO群が77.67→80.03ポイント、対照群が76.75→76.55ポイントで、群間差は2.56、統計学的有意差が認められた(p=0.002)。

(3)HRQOLのスコア変化は、PRO群が78.11→80.03ポイント、対照群が77.00→76.50ポイントで、群間差は2.43、統計学的有意差が認められた(p=0.002)。

PRO群では対照群と比べ、(1)~(3)の全項目で臨床的意義のある有益性があると判断された。その判断の根拠は、各項目で5ポイント以上改善した患者の割合、5ポイント以上悪化した患者の割合を群間比較し、統計学的有意差が認められたことである。

すなわち、身体機能が5ポイント以上改善した患者の割合はPRO群が対照群より7.7%高く、5ポイント以上悪化した患者の割合は6.1%低かった。オッズ比(OR)は1.35と算出された(オッズ比(OR):0.35、p=0.009)。同様に、PRO群は対照群より症状コントロールが改善した患者の割合が8.6%高く、悪化した患者の割合が7.5%低かった。(OR:1.50、p=0.003)。そして、PRO群は対照群よりHRQOLが改善した患者の割合が8.5%高く、悪化した患者の割合が4.9%低かった(OR:1.41、p=0.006)。

メリット・デメリットの検証を重ねることが必要

研究チームは、同試験より前に実施された同様の試験でも、症状モニタリングへの電子システム導入の有用性が報告されていることを踏まえ、調査要件や分析方法の違いなどを考慮に入れて今回のデータを考察している。今回の結果より、少なくとも、PROへの電子システムの介入がモニタリング機能を補助し得ること、電子システムが介入しない場合と比べ身体機能、症状コントロール、HRQOLを有意に改善することが証明された。

また、研究チームは、電子システムの利用は患者側と医療者側の双方に新たな負担が生じる場合があることや、感覚的な個人差もあることから、同様の試験で実効性の検証を積み重ねる必要があるとしている。そのため、今回得られた知見は、対象とした臨床試験の主要評価項目である生存期間の結果が出るまでの暫定的なもの解釈されるべきだと締めくくっている。

Effect of Electronic Symptom Monitoring on Patient-Reported Outcomes Among Patients With Metastatic Cancer: A Randomized Clinical Trial(JAMA. 2022 Jun 5. doi: 10.1001/jama.2022.9265.)

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