患者自ら副作用症状等を報告するシステムが米国の公的医療保険適用に~がん分野システム革命~


  • [公開日]2020.01.09
  • [最終更新日]2020.01.12

米国の公的医療保険機関メディケアメディケイドサービスセンター(CMS)は、2019年11月1日、がん治療に対する新たな保険償還モデル「オンコロジー・ケア・ファースト(OCF)」の詳細を明らかにした。2016年から運用しているがん治療に特化した保険償還モデル「オンコロジー・ケア・モデル(OCM)」の内容に追加して、がん治療に伴う症状について患者が報告すること(PRO:Patient-Reported Outcomes)、それを医療者が評価する行為を医療保険適用の対象とすることが決まった。これは、寄せられたパブリックコメントを考慮して詳細を詰めたもので、がん治療中の患者を主体として、その価値を重視するがん治療への転換を促す政策を具体化していく。

患者自ら「がん治療中の症状」を報告することが保険償還されることに

オンコロジー・ケア・モデルを利用して診療を受けられる米国の医療機関は140施設で、がん診療を行う施設の約10%を占め、がんの全身療法を受けている患者の約25%がオンコロジー・ケア・モデルの対象となる。メディケア・メディケイドサービスセンターはオンコロジー・ケア・モデルに対応する医療機関に対し、診療ごとの個別支払いとは別に、全身療法を受ける患者1人当たり毎月160ドル(約1万7000円)を前金として支出している。医療機関はこの資金を活用し、がん治療を支援するナビゲーターやソーシャルワーカー、コーディネーターを配置したり、救急診療への対応、治療管理用のソフトウェア開発などを円滑に進められるようにしている。オンコロジー・ケア・モデルによって救急部門や集中治療部門への依存度は小さくなり、がん治療中の入院自体が減っているなど、一定の成果が認められているという。

オンコロジー・ケア・モデルの成功を踏まえた上で、オンコロジー・ケア・ファースト・モデルでは、がん治療中の症状モニタリングを目的とするPROを新たに加えた。症状の体系的スクリーニングを行い、身体機能と精神的状態の悪化を網羅的に調査し、来院時や在宅時の状態を電子記録として残すシステムを採用する。重篤な症状や急速に悪化した場合に備えたリアルタイムアラートシステムも整備する。

今回のオンコロジー・ケア・モデル・ファーストについて、JAMA編集者の一員でノースカロライナ大学のEthan Basch氏は、2020年1月2日のJAMA誌オンライン版の「Viewpoint」で、従来のがん治療の認識を転換することがいかに難しいかを、オンコロジー・ケア・モデルの経験で改めて実感したと書いている。難しくしているのは、新しい技術を習得し活用しなければならないことや、新たな作業の流れを構築すること、データの報告や意思疎通の配慮なども含め、これらは全て人材に深く関わることで、根本的なレベルでは、結局のところ文化と考え方に依拠するとしている。

重要なのはコミュニケーションと意識改革

がん治療中の経過観察の医療行為としてPROを取り入れることを決めたのには、重要な理由がいくつかある。米国でがんと診断される患者は毎年160万人を超え、治療を受けている患者のほとんど日常生活に支障をきたす何らかの症状を経験している。それらの症状負担の度合いを臨床医が詳細に、体系的に把握することができれば、症状対処のための救急部門の利用を回避することができるのみならず、症状の検出力とコントロール力が上がり、患者の生活の質QOL)向上につながる。当然、医療コストの削減にも寄与する。さらに、規定の治療スケジュールを完遂することで生存ベネフィットを獲得する可能性も高まる。

また、PROとして集積される膨大なデータは、今後の様々な臨床研究臨床試験の設計に有用な情報源となり、PROを収集・分析するソフトウェアシステムを洗練していくことで、患者個別の健康状態の他、社会的、経済的課題などを踏まえてニーズに合わせたカスタマイズが可能になる。その実現のためには、患者と医療者をつなぐ新しい情報技術が必要になるため、その技術を習得して患者に教える人材も新たに必要になる。

オンコロジー・ケア・ファースト・モデルにPROプログラムを実装するためには、患者は納得し、積極的にプログラムに関与し続けていく自覚が必要になる。そして医療機関側では、PROに重きを置いていなかった臨床医をはじめとして従来の意識を見直し、個別の患者と積極的に向き合っていく意識を定着させる必要がある。そうした意識や考え方の土台を作った上で、メディケア・メディケイドサービスセンターが将来的に想定しているのは、PROの質問ライブラリーを規定することである。現在も米国立がん研究所(NCI)のPRO有害事象調査「PRO-CTCAE」や情報システム「PROMISE」などが活用されているが、患者による報告を判定するメカニズムを整備し、新たな評価ツールを開発できれば、理想的なシステムを構築できるとしている。

Adding Patient-Reported Outcomes to Medicare’s Oncology Value-Based Payment Model(JAMA. 2020 Jan 2. doi: 10.1001/jama.2019.19970)

オンコロが開発したPRO「ガーディアン」

オンコロは、2017年より本文献の筆者Ethan Basch氏らが執り行ったSTAR試験の結果(以下)をもとに、日本でのPRO導入を検討してきた。

様々ながん種の転移性患者にタブレット型電子患者日誌を導入することで生存期間を延長~ITはがん医療を変える?~ ASCO2017&JAMA(2017/6/7)

また、医療機器である可能性を考慮しながら薬事戦略を考え、東京都の補助金を得て、独自のPROを開発してきた。

そして、本年1月8日からシステム系のバリデーション試験である「Oncolo Virtual StudyUMIN000038333)」がスタートしている。

この他、ガーディアンで入力されたデータが電子カルテで見られるようになるべく、検討を続けているのが現状だ。

ガーディアンは、2017年に近畿大学腫瘍内科教授の中川和彦先生からの要請により開発検討がスタートし、東北大学 医学統計学分野教授の山口拓洋先生、東京大学 臨床試験データ管理学講座の宮路天平先生、東京薬科大学 医療実務薬学教室の川口崇先生らの医学統計家の助言を得て、聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座教授の中島貴子先生や堀江良樹先生らの多大なる協力のもと、開発を進めている。

もともと、PRO普及には対応者の医療工数に対する対価である保険償還が不可欠とされる。今回の米国での保険適応は、日本での保険償還のあと押しとなるであろう。

まだまだ道半ばであるが、我々しかできないことを進めていきたい。

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