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費用対効果を考えた今後の適正な薬剤使用

7月18〜20日に第17回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2019)が、国立京都国際会館・グランドプリンスホテル京都にて開催された。

過去最高の7,600名以上が参加した、JSMO2019の中からシンポジウム11「費用対効果を考えた今後の適正な薬剤使用」の講演の内容をレポートする。

数千万円の治療費が年間80万円ほどに抑えられる社会保障

[司会] 岩田 広治(愛知県がんセンター 乳腺科)
[司会] 枝園 忠彦(岡山大学病院 乳腺・内分泌外科)

これまで、日本臨床腫瘍学会学術総会において、医療経済に関するセッションはほとんどとりあげてこなかった。国民皆保険を実施している本邦において、医薬品、医療費について医師の関心は非常に低い現状は否めない。一方、免疫チェックポイント阻害薬の承認以降、これまでには考えられないほどの薬価の薬剤が本邦にも存在し、継続した治療を行うには、一般サラリーマンが生涯かけて払っていく住宅ローンほどの治療費がたった1年でかかる現状が現れた。

しかし、高額療養費制度という世界でもまれな社会保障制度の実際に患者が支払いのは年間80万円ほどに抑えられる。その差額は国が払っているのだが、言い換えれば割我々節税のおかげということになる。こんな制度がいつまでも続くわけもなく、国は欧米に遅れながらも対策をとることになった。

本セッションでは、医療経済先進国の現状、そして本邦の現状についての講演が行われた。

The NICE reimbursement process for pharmaceuticals in the UK. Are cancer drugs a special case?

[演者] Nick Freemantle:
Institute of Clinical Trials and Methodology, University College London, United Kingdom

英国のNICE(The National Institute for Health and Care Excellence)は1999年に設立され、薬剤等の臨床効果と費用対効果を判断して推奨される使い方を提言している。英国では、かつては各地域が医療サービスの内容を決定していたが、地域によって医療サービスに格差が生じていたことがNICE発足の1つの理由である。

NICEは特に費用対効果の点で問題になりそうな高額の抗がん薬を中心に評価しており、抗がん剤のうち約半数について「費用対効果の点から非推奨」としている。非推奨の薬剤は英国の一般国民に向けても公表され、一般臨床では使用できなくなる。当然、ときには患者団体などが抗議して社会問題になることもある。

Estimation of Willingness-to-Pay for breast cancer treatments through Contingent Valuation Method in Japan (JCOG1709A)

SY11-2
[演者] 岩谷 胤生(国立がん研究センター東病院 乳腺外科)

日本で治療を受けた乳がん患者がどのように彼らの生活や健康における経済的価値を認識するかを検討することが目的の研究である。

この研究の結果、乳がん臨床試験の費用対効果分析を解釈する評価基準を確立し、がん患者の視点から一般の日本人の視点に基づいて医療技術評価の意思決定を評価できることが期待できる。

この研究は、患者、医師、遺留業界、そしてヘルスケア行政にとってヘルスケアシステムの構築に貢献できるであろう。

医療技術評価、医療経済評価の政策応用の現状: アカデミアの立場から

SY11-3.
[演者] 白岩 健(国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター)

日本において、2019年4月から医薬品・医療機器の費用対効果評価が制度化された。医療技術評価(HTA)、あるいは費用対効果評価の制度化は、2000年以降に各国で急速に進み、日本においてもようやく政策応用が進んできた。

HTAは現代の医学の研究領域のひとつであり、個々の医療技術の臨床効果に加えて費用対効果評価、さらには社会的影響などについても多面的に検討する。検討する背景要因は、経済的、組織的、社会的、倫理的影響にも及ぶ。

日本における費用対効果評価の取り組み -費用対効果評価制度の概要-

SY11-4
[演者] 櫻本 恭司(厚生労働省保険局医療課)

欧米諸外国に遅れ、日本では2019年4月から診療報酬制度において費用対効果評価が導入された。

日本の費用対効果評価制度の特徴は、①ドラッグラグやデバイスラグを防ぐため、費用対効果評価の結果は諸外国とは違い保険償還の可否の判断に用いるのではなく、保険収載した後の薬価改定時の調整に用いること、②すべての医薬品を対象とするのではなく、保険財政への影響度を重視し、革新性が高く、財政影響が大きい品目(ピーク時の市場規模が100億円以上の品目や著しく単価が高い品目)を主な対象とする、③希少な疾患(指定難病、血友病およびHIV感染症)のみに用いられる品目や、小児のみに用いられる品目については、原則として費用対効果評価の対象から除外している。

薬剤や医療技術について今後は、臨床的エビデンスに加えて、経済的なエビデンスにも留意しつつ治療選択を行うことが求められる。一方、経済的なエビデンスを強調しすぎると、新薬や新規医療技術の開発と導入が阻害されたり、患者への不利益が生じるおそれもあり、わが国においてもこれらについては慎重に検討する必要がある。

費用対効果からみた本邦におけるバイオシミラーの現状、課題と展望

SY11-5
[演者] 南部 静洋(バイオシミラー協議会・日本化薬株式会社)

少子高齢化や超高額医薬品の承認に伴い、社会保障費は圧迫され、国民皆保険の危機が騒がれる中、国はジェネリック医薬品をかなり以前より推奨してきた。近年、さらに高分子の複雑な構造のバイオ医薬品についてもバイオシミラーの使用を推奨している。

バイオシミラーの承認要件は、先行品との同等性/同質性を証明する品質特性解析及び第3相試験の実施などであり、ジェネリック医薬品と比較し新薬に近い承認審査を経ている。しかし、日本において、その普及は限定的であり市民権を得ているとは言えない。

バイオシミラーの承認・普及は欧州が先行しており、様々な使用推奨施策が実施され標準的な治療の選択肢の1つとなっている。EMAではG-CSF製剤を含むバイオシミラーのガイドラインが発刊され、ASCOやESMOからはバイオシミラーに対するポジションペーパーやステートメントも出されているのが現状である。

日本癌治療学会でG-CSF適正使用ガイドラインでバイオシミラーが推奨しているが、現状の使用は欧州のようには至っていない。

バイオシミラーの推進により、医療アクセスの改善、治療の質の向上、患者の経済負担軽減や医療費削減が期待できる。

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