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がんサポートグループ参加とがん患者間支援の実際とその意味

2007年にがん対策基本法が施行され、推進計画の緩和ケア環境整備に後押しされながら、患者同士が支え、支えられる機会や当事者による相談窓口、医療機関とそのような団体との連携が進んできている昨今のサポートグループの動向を、首都大学東京 健康福祉学部看護学科 准教授 福井里美先生が実態調査をされている。
その研究課程と調査結果について、お話しをうかがった。

研究開始当初の背景

日本では、年間約70万人(2013年当時)もの人々が新たにがんの診断を受け、2人に1人は生涯にがんの診断を受ける。

最も大きな増加の要因は社会全体の高齢化によるものであり、75歳未満のがん死亡率は早期発見、早期治療、侵襲の少ない治療法や新薬の開発、喫煙や職業病などの生活習慣改善による予防効果等に低下傾向にある。

国内では従来、がんサバイバーの実態や実数は、死亡診断書による統計から推測するものでしかなかった。
2007年のがん対策基本法の施行後より地域がん登録、院内登録などがん患者の基礎データがとられるようになってから日も浅く、がんサバイバーの研究、データもほとんどないことが実状である。

本研究の目的

全国のピアによる支援(がん患者支援の機会、団体)と10年以上の長期サバイバーの関与の実態を量的に把握すること。
そしてそのデータを土台に、サポートグループや自助会等での当事者間支援に関与していることが、10年以上の長期がんサバイバーにとって現在の生活にどのように位置づけられ、意味づけられているのか、この影響を質的に明らかにすることである。

221ページに及ぶ膨大な研究報告書

全国がん患者ピアによる支援の把握

福井先生の本研究の一項目にある、インターネットおよび文献によるピアサポート供提団体の把握をご紹介したい。

(1)目的:全国のがん患者ヒアサポートを提供する機会および提供団体を把握する。

(2)方法:
①調査期間:2013 年 10 月から 2014 年 1 月

②研究デザイン:書誌、インターネット検索による量的記述的研究

③対象:がん患者が公的にピアによる支援を得る機会として、国内のがん患者会、がん患者支援団体、がん患者サロン等、医療職や専門家の介在の有無にかかわらず、がんの診断、治療を経験した当事者同士が情報的、情緒的サポート等を授受できる場や機会を提供する活動を行っている者または組織を対象とした。
例えば患者会、語り合い、座談会、ピアカウンセリング、サロン、ピアサポート、サポートグループ、と称されるものすべてを含めた。

④データ収集方法:2006 年に福井先生をはじめとする研究グループが行った調査対象のデータベースを土台に、以下の資料リストから追加し、データベースを作成した。

⑤調査内容:事務所、活動拠点、主催者、活動日時、代表者連絡先住所、電話番号、メールアドレス、参加申込方法、活動内容、URL

(3) 結 果
確認したがん患者のピアサポートの機会は1195 件であり、2006 年の 306 件と比較すると3.9 倍であった。
図1に地域別の件数を2006 年調査と比較して示した。関東は 2.7 倍、東北は 2.8 倍であったが、他の地域は4~8倍に増加した。

図2-1にがんの部位別の数を示した。
部位を限定しない全がん対象の活動が50%、乳房19% 、喉頭・食道 6%、小児5% 、大腸.膀脱(オストミー)5% 、血液系4% 等であった。

資料より推察したピアサポート の形態分類は、当事者自主運営による患者会51%、がん診療連携拠点病院や行政主催による患者サロンは35%、サポートグループ8%、社団、財団、NPO 法人や研究会等の複合的な患者支援団体は6%であった。

データリストには活動所在地や事務所住所の異なる同名の会や、複数の拠点病院で活動する同名の会、代表者が他界・転居等で連絡のつかない患者会など、当該会の変遷がわからず重複しているものや、現在は活動を休止、解散しているかなど、わからない対象も多く含まれた。

(4)考 察
研究グループは、がん診療連携拠点病院全286施設を対象に、がん患者とその家族への心理的サポート体制について調査し、有効回答を得た176施設のうち、がん診療連携拠点病院において個別カウンセリングを行っている施設は半数に及んだが、患者会との連携が約 3 割、ピアグループ 2 割、グループ療法は 1 割弱に満たなかったという。

また、研究グループは2010 年7月に拠点病院に限らずに情報誌とインターネットからがん患者会247団体を特定した報告がある。

本研究の結果でも、更にがん患者が情報交換や語らいができるピアサポートの場が増加しており、国民の心理社会的ケアは向上したといえるが、グループ療法やサポートグループ 等の専門職が介在するグループアプローチは 1 割程度であった。

既存の患者会やがん患者支援団体も、地域ごとの役割分担や代表者交代により、活動内容の変化が起きている可能性が考えられ、実際の患者会への支援、グループ運営などの新しい活動は試行錯誤中と考えられる。

がん告知後10年以上が経過して、現在当事者同士の心理社会的支援(ピアサポート)に携わることが、当事者にとってどのような意味を持つのかを明らかにされた。
資料とインターネットから1068件の国内がん患者支援団体を特定し、461団体に質問紙で活動実態と10年以上長期生存者の関与を把握し、18名に面接調査を実施して、質的帰納的に分析した結果、まず「長期生存者・証言者としての使命」、「がん体験者の思いを共有する意味への確信」、「他社が変わる喜び」、「恩返しと生きがいのライフワーク」、「医療者とのつながりの継続」、「ピアサポートと「がん相談」の違いの認識、今後の活動への模索」の意味が見出された。

本研究の最終目的

膨大なピアサポート供提団体を通じ、10 年以上の闘病期間を経た者たちが、かつてサポートグループや患者会に参加していたこと(参加したことがあること)をどのように意味づけているのか、現在はどのようなかかわりがあるのかを明らかとすることである。

まず、2006 年の全国のがん患者会およびがん患者支援団体の実態調査に用いたデータベースを土台に、書籍、インターネット情報から2013 年現在の全国のがん患者会およびがん患者支援団体の実態調査を行いデータベースの更新を行った結果、3倍から10倍にまで増加してることがわかった。

そのうち活動先または代表者の住所が特定できる400あまりの団体に、上記方法(インターネットおよび文献)とは別質問紙で活動実態を調べられた。

質問紙調査によって、運営者および加参者のがんの種類、活動内容や運営者の立場(患者主体の会か、サポートグループか等)、10 年以上の長期サバイバーの関与の有無は 60 % 以上に上ることがわかった。

最終的に 24 名の 10 年以上のがん長期サバイバーからの協力意思表示をいただき、18 名にインタビューし、10年以上の闘病生活における患者会やサロンなどに参加するピアサポートの機会に携わり続けている経験の意味を明らかにすることができた。

がん対策基本法の施行、がん対策推進計画によりがん患者がピアの支援を受ける機会が 大幅に増加している結果となった。

今後、ピアの活動の意義やピアサポート活動を当事者たちが意味づけている価値を理解、支持していくことで、活動支援の継続と連携が強化され、支援の質の維持向上に本研究成果が役立つことを福井先生をはじめとする研究グループは願われている。

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